第二十六話「黄泉ネット開発計画㉕ 光る管」
第二十六話「黄泉ネット開発計画㉕ 光る管」
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改良版の試作品が完成したのは、それから一週間後のことだった。
ラングミュア殿の真空。
久兵衛班の厚くなったガラス管。
フレミング殿の電極。
ド・フォレスト殿の三極構造。
全てが揃った。
「今度こそ、大丈夫か。」
私は田中殿に聞いた。
「……たぶん、大丈夫だと思います。」
「たぶん、か。」
「たぶんです。」
田中殿は正直に言った。
「ただ、前回と違うのは、
全員が失敗の原因を分かった上で作り直したということです。」
「それは、大きな違いだな。」
「はい。分からないまま作るより、
分かった上で作る方が、確かです。」
私は頷いた。
「では、信じよう。」
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作業場に、全員が集まった。
ボルタ殿が電力の接続を確認した。
ファラデー殿が測定器を手に立った。
ラングミュア殿が真空の状態を最終確認した。
後藤殿が静かに通訳の位置に立った。
メッツォファンティ殿が各班の間に立った。
シャンポリオン殿が久兵衛班の隣に立った。
TRINチームの四人が後ろに並んだ。
スウェーデンボリ殿が、少し離れた場所に立った。
田中殿が、真空管を手に取った。
小さな、指ほどの長さのガラス管。
前回と同じ形をしている。
だが、確かに違っていた。
ガラスが、少し厚い。
田中殿がそれを、電力の接続部分に取り付けた。
「準備ができました。」
作業場が、しんと静まり返った。
誰も動かなかった。
誰も何も言わなかった。
ド・フォレスト殿が頷いた。
ボルタ殿が、電力を繋いだ。
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一瞬だった。
今度は、音がしなかった。
代わりに。
管の中が、ほんのりと光った。
か細い、橙色の光だった。
だが確かに、光っていた。
消えなかった。
揺れなかった。
ただ静かに、管の中で光り続けた。
田中殿が息を飲んだ。
ファラデー殿が測定器を見た。
スウェーデンボリ殿が目を閉じた。
ラングミュア殿が、静かに両手を組んだ。
フレミング殿が、その光を見つめた。
そして。
誰かが手を叩いた。
一人だった。
次に、また一人。
そして、作業場全体に拍手が広がった。
久兵衛が、静かに頭を下げた。
アルベルトが、ヴィクトルの肩を叩いた。
ジョゼフが、目を細めて管を見た。
後藤殿が、静かに微笑んだ。
TRINチームの四人が、顔を見合わせた。
堀田殿が、静かに頷いた。
阿部殿が、眼鏡を外して目を拭った。
稲葉殿が、両手を握りしめた。
久世殿が、隣の阿部殿の腕を掴んだ。
ボルタ殿が何かを叫んだ。
メッツォファンティ殿が訳す前に、その声の意味は分かった。
嬉しい、という声だった。
田中殿は、何も言わなかった。
ただ、光る管を見ていた。
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ド・フォレスト殿が、ゆっくりと前に出た。
田中殿から、管を受け取った。
静かに、手の上に乗せた。
光が、ド・フォレスト殿の手のひらを照らした。
メッツォファンティ殿が、ド・フォレスト殿を見た。
何も訳さなかった。
今は、訳す必要がなかった。
ド・フォレスト殿は、管をしばらく見ていた。
大きな声で宣言することも、誇らしげにすることも、なかった。
ただ、静かに、管を見ていた。
やがてド・フォレスト殿が、何かを言った。
メッツォファンティ殿が静かに訳した。
「……ありがとう、と。
皆のおかげだ、と。」
田中殿が小声で言った。
「……また言いましたね。」
「そうだな。」
私も小声で返した。
「失敗の後にありがとうを覚えた方は、
成功の後にもありがとうが言える。」
田中殿はしばらく考えてから言った。
「……成長ですね。」
「人は、失敗で成長するのだろう。」
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拍手が静まった頃。
スウェーデンボリ殿は、光る管を見ながら言った。
「意味が、形になりました。」
私はその言葉を、静かに受け取った。
意味が、形になった。
初めて光が灯った時、同じ言葉を仰せになった。
あの時は、電池から生まれた小さな光だった。
今日は、真空管から生まれた光だ。
形は違う。
だが、意味は同じだった。
見えないものを、見えるものにした。
理論を、形にした。
「スウェーデンボリ殿。」
「はい。」
「前にも、同じことを仰せになりましたな。」
スウェーデンボリ殿は静かに頷いた。
「覚えておられましたか。」
「忘れておらぬ。」
「意味は、何度でも形になります。
形になるたびに、少し大きくなります。」
私はその言葉を、胸に刻んだ。
意味は、何度でも形になる。
形になるたびに、少し大きくなる。
「田中殿。」
「はい。」
「お主が広間でぶつぶつ言っておった時から、
ずいぶんと形が大きくなったな。」
田中殿は少し笑った。
「忠清さまが話を聞いてくれたおかげです。」
「私は、ただ聞いただけだ。」
「それが一番大事だったんです。」
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作業場に、久しぶりに賑やかな空気が流れた。
ボルタ殿が何かを語り、笑いが起きた。
ド・フォレスト殿が珍しく輪の中に入っていた。
ラングミュア殿が穏やかに笑っていた。
フレミング殿が、光る管を手に持ちながら、
隣のファラデー殿と何かを話していた。
久兵衛と職人たちが、少し離れた場所で静かに酒を酌み交わしていた。
TRINチームの四人が、肩を並べていた。
後藤殿が、その全員を静かに眺めていた。
スウェーデンボリ殿が、メッツォファンティ殿と静かに話していた。
私はその輪を、少し離れた場所から眺めていた。
堀田殿が隣に来た。
「忠清さま。輪に入らないんですか。」
「眺めている方が好きでな。」
「生前も、そうでしたか。」
「合議の場では、よく眺めておった。
誰が何を考えているか。
どこに無理があるか。
眺めていると、見えてくるものがある。」
「今は、何が見えますか。」
私はその輪を見た。
「皆、いい顔をしておる。」
堀田殿は微笑んだ。
「ですね。」
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その夜。
私は書き留めた。
真空管、完成。
破裂せず、安定して光る。
全員、拍手。
ド・フォレスト殿「皆のおかげだ」と言う。
スウェーデンボリ殿「意味が、形になりました。」
私は筆を置いた。
意味は、何度でも形になる。
形になるたびに、少し大きくなる。
最初、田中殿と二人だった。
今、これだけの者たちが揃っている。
意味が、少しずつ大きくなってきた。
黄泉国情報網計画。
真空管が、光った。
次は、その光で、ブラウン管を作る番である。




