第二十二話「黄泉ネット開発計画㉑ 破裂」
第二十二話「黄泉ネット開発計画㉑ 破裂」
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真空管の試作品が完成したのは、それから数日後のことだった。
ラングミュア殿が作り上げた真空の中に、
フレミング殿が設計した電極が収まり、
ド・フォレスト殿が三極の構造を組み上げた。
久兵衛班が磨き上げたガラス管が、それを包んでいる。
小さな、指ほどの長さの管だった。
「できたのか。」
「はい。」
田中殿が静かに言った。
「試作品、第一号です。」
ド・フォレスト殿が管を手に取り、光にかざした。
メッツォファンティ殿が訳す。
「美しい、と。
理論通りに作れた、と。」
ラングミュア殿が真空の状態を最終確認した。
後藤殿が静かに頷いた。
「問題ありません。」
フレミング殿が電極の位置を確かめた。
「準備ができている、と。」
作業場に、静けさが漂った。
「試しますか。」
田中殿がド・フォレスト殿に聞いた。
メッツォファンティ殿が訳すと、
ド・フォレスト殿は当然だというように頷いた。
「いつでも、と。」
ボルタ殿が電力の接続を確かめた。
ファラデー殿が測定器を手に立った。
全員が、管を見た。
電力が繋がれた。
一瞬だった。
パン、という音がした。
ガラスの破片が、机の上に散らばった。
誰も動かなかった。
田中殿が目を閉じた。
ラングミュア殿が静かに目を伏せた。
フレミング殿が、散らばった破片を見つめた。
ド・フォレスト殿は、何も言わなかった。
何も。
ド・フォレスト殿が黙っていた。
自信家のド・フォレスト殿が。
何も言わずに、ただ、机の上の破片を見ていた。
私も、何も言わなかった。
作業場が、しんと静まり返った。
最初に動いたのは、田中殿だった。
机の引き出しから、布を取り出した。
そして、静かに破片を拾い始めた。
一つ。
また一つ。
誰も手伝わなかった。
誰も声をかけなかった。
田中殿が黙って、ガラスの破片を集めていた。
ラングミュア殿が、後藤殿に何かを言った。
後藤殿が静かに訳した。
「真空が足りなかったのか、電力が強すぎたのか、
確かめたい、と。」
「今日はやめましょう。」
田中殿が静かに言った。
「明日、確かめます。」
ラングミュア殿は少し間を置いてから、頷いた。
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夜になった。
作業場から、一人、また一人と休憩所に帰っていった。
ド・フォレスト殿は最後まで残っていた。
机の前に座り、設計図を広げていた。
だが、何も書いていなかった。
ただ、設計図を見ていた。
私は声をかけようとして、やめた。
この方には、今は言葉が要らぬ。
そう思った。
田中殿が私の隣に来た。
「忠清さま。帰りましょう。」
「ド・フォレスト殿が。」
「……大丈夫です。」
田中殿は静かに言った。
「あの方は、こういう時に一人で考える方だと思います。」
「そうか。」
「はい。自信家の方は、失敗した時に一番静かになります。」
私はド・フォレスト殿の背中を見た。
大きな背中が、少し小さく見えた。
「そうかもしれぬ。」
私は静かに言った。
「生前も、そういう者がいた。
普段は声が大きいのに、
失敗した時だけ黙る者が。」
「どんな人でしたか。」
「……後に、立派な仕事をした者だ。」
田中殿は少し間を置いてから言った。
「ド・フォレスト殿も、そうなりますよ。」
「そうだな。」
私は頷いた。
「では、帰ろう。」
作業場を出る時、振り返った。
ド・フォレスト殿はまだ設計図の前にいた。
今度は、筆が動いていた。
小さく、何かを書いていた。
「……やはり、動き始めたな。」
田中殿が小さく笑った。
「あの方は、止まらない人ですから。」
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その夜。
私は書き留めた。
真空管試作品第一号、破裂。
原因不明。明日、ラングミュア殿が調査予定。
ド・フォレスト殿、沈黙。しかし夜、設計図に向かう。
田中殿、破片を片付ける。
私は筆を置いた。
失敗は、終わりではない。
生前、何度も同じことを経験した。
新しい仕組みを作る時、
最初から上手くいくことなど、まずない。
うまくいかなかった原因を見極め、
また動く。
それが、政というものだった。
それが、技術というものでもあるらしい。
黄泉国情報網計画。
試作品が、破裂した。
だが、ド・フォレスト殿の筆は、動いていた。




