第十七話「黄泉ネット開発計画⑯ また専門家が増えた」
第十七話「黄泉ネット開発計画⑯ また専門家が増えた」
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「ぶらうん管を作るには、何が要るのだ。」
翌朝、私は高柳殿に尋ねた。
高柳殿は静かに答えた。
「三つです。」
「三つ。」
「真空を作る者。真空管を作る者。そしてブラウン管を作る者。」
「つまり、また人を探さねばならぬということか。」
「その通りです。」
私はため息をついた。
田中殿が横から言った。
「忠清さま。」
「なんだ。」
「今回は全員、必要です。」
田中殿は真顔だった。
私は天井を仰いだ。
「また専門家が増えるのか。」
「はい。」
「また異国の言葉か。」
「……はい。」
スウェーデンボリ殿が静かに苦笑した。
「今回は技術用語がさらに増えますな。」
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閻魔様への上申は、翌日に行った。
三人の名を申し上げた。
フレミング殿。電気を一方通行に流す管を考えた者。
ド・フォレスト殿。その管をさらに発展させ、電気を操る管を作った者。
ラングミュア殿。真空の技術を極めた者。
閻魔様は静かに聞いてくださった。
「よき。」
そして少し考えてから、付け加えられた。
「ド・フォレストという者。」
「はい。」
「少々、自信家だ。」
「……承知いたしました。」
閻魔様は小さく笑われた。
「チューリングとは別の意味で、気をつけよ。」
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数日後。
三人が作業場に現れた。
最初に入ってきたのは、フレミング殿だった。
穏やかな、学者然とした佇まいの方だった。
作業場を静かに見渡し、電池と器具を一瞥してから、
スウェーデンボリ殿を介して言った。
「電気の流れを、どこで止めるかが問題だな。」
「最初の一言がそれか。」
田中殿が小声で言った。
「この方は、電気を一方通行に流す管を発明した方です。
電気の流れを見れば、そこが気になるんでしょう。」
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次に入ってきたのは、ラングミュア殿だった。
細身で、物静かな雰囲気の方だった。
だが部屋に入るなり、天井の光を見上げた。
しばらく眺めてから、スウェーデンボリ殿を介して言った。
「ここの空気は、真空を作るのに向いているかもしれない。」
「なぜだ。」
私は思わず聞き返した。
スウェーデンボリ殿が訳す。
「黄泉の光が満ちているということは、
この空間の分子の動きが特殊なのかもしれない、と。
真空を作る際の余計な干渉が少ない可能性がある、と。」
田中殿が目を丸くした。
「来るなり、そこに気づくんですか。」
「真空の専門家とは、そういうものだろう。」
私は言った。
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最後に入ってきたのが、ド・フォレスト殿だった。
背が高く、堂々とした歩き方だった。
部屋を見渡し、全員を一瞥してから、
スウェーデンボリ殿を介して宣言した。
「真空管班のリーダーを務める。ド・フォレストだ。」
作業場が少し静かになった。
田中殿が小声で言った。
「……自己紹介が宣言でしたね。」
「閻魔様が仰せの通りだな。」
私も小声で返した。
ド・フォレスト殿はさらに続けた。
「三極真空管の発明者として、このプロジェクトに最も貢献できる人物は私だ。」
「……チューリング殿と並べたら、どうなるか。」
田中殿が呟いた。
「考えたくない。」
私は正直に言った。
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真空管班が揃ったところで、私は全体を見渡した。
作業場に、今や何人もの者たちがいる。
ボルタ殿、ファラデー殿。
チューリング殿、シャノン殿。
TRINチームの四人。
高柳殿。
フレミング殿、ド・フォレスト殿、ラングミュア殿。
そして田中殿。
スウェーデンボリ殿が、その全員の言葉を繋いでいる。
私はスウェーデンボリ殿のもとへ歩いた。
「スウェーデンボリ殿。」
「は。」
「最近、皆様が話す速度が速くなっておりますか。」
スウェーデンボリ殿は少し間を置いてから、静かに言った。
「……はい。」
「特に、誰が。」
「チューリング殿と、ド・フォレスト殿が同時に話し始めると、
少々、追いつくのが難しうございます。」
スウェーデンボリ殿は深いため息をついた。
これほど深いため息をつかれるのは、初めてだった。
「忠清殿。」
「なんだ。」
「人手が、足りませぬ。」
私とスウェーデンボリ殿は閻魔様のもとへ向かうことにした。
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閻魔様は今回も静かに話を聞いてくださった。
「翻訳の者が足りぬ、と。」
「はい。特に技術的な言葉に強い者が必要です。」
閻魔様はしばらく考えてから、仰せになった。
「言葉ならば、メッツォファンティという者がおる。」
「めっつぉ、ふぁんてぃ。」
「イタリアの僧侶だ。七十ほどの言葉を扱ったと聞く。」
「なな、七十でございますか。」
「そうだ。
メッツォファンティも魂翻訳ができる。第二種魂翻訳として働いておる。」
私は気になってしまい、閻魔様にお伺いをした。
「魂翻訳の役割は、大切な役割です。
スウェーデンボリ殿以外の魂翻訳をこちらに回していただくと
魂翻訳が滞りませぬか。」
閻魔様は静かに続けられた。
「第一種と違って、第二種魂翻訳は2000人以上いるからの。
一人二人であったら、問題なかろう。
最近は魂翻訳ができる新しい魂は減ってきて居るが、
毎年、数人は魂翻訳ができるやつが現れる。
安心せい。」
閻魔様は静かに続けられた。
「それと、もう一人。」
「は。」
「シャンポリオンという者がおる。」
「どのような方でございますか。」
「失われた言葉を読み解いた者だ。
死者の言葉を理解するという点では、
黄泉の国に向いた者かもしれぬ。
こ奴も第二種魂翻訳ができる。
いかがだ。」
スウェーデンボリ殿は本当にほっとした表情をした。
閻魔様は続けて、
「あと、この三人には、「黄泉ネット」ができた際、
黄泉の国の報告書の翻訳も頼もうと思う。
その「黄泉ネット」とやらで報告ができるようになれば、
魂翻訳ではなく、文字の翻訳が必要になるのであろう。
「黄泉ネット」が出来た際には、
スウェーデンボリよ。
お主を筆頭として、文章の翻訳班取りまとめの役割が待っておるぞ。」
閻魔様は少し笑われた。
「スウェーデンボリ。大変なことに関わったな。ふぁふぁふぁ。」
追加で、
閻魔様にはガラス加工が得意な石工を数人こちら側に
お戻し頂きたいとお願いした。
出来れば、別の魂とのコミュニケーションを取ろうとする素直な魂を。と。
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数日後。
メッツォファンティ殿が作業場に現れた。
小柄な、温和な雰囲気の方だった。
田中殿が名乗ると、メッツォファンティ殿はにこやかに日本語で答えた。
「田中殿、よろしくお願いいたします。」
田中殿が目を丸くした。
「……日本語で返ってきた。」
「七十の言葉を扱う御方だ。当然かもしれぬ。」
私は言った。
メッツォファンティ殿はボルタ殿を見てイタリア語で話しかけ、
ファラデー殿を見て英語で話しかけ、
チューリング殿を見てまた英語で話しかけた。
それぞれが、驚いた顔をした。
「私は七十ほどの言葉を扱いました。」
メッツォファンティ殿は穏やかに言った。
「皆様のお役に立てれば幸いです。」
スウェーデンボリ殿が、初めて心底ほっとした顔をした。
「……助かります。」
スウェーデンボリ殿が続けた。
「メッツォファンティ殿、貴殿には少し大変かと思うが、
真空管班の翻訳を頼みたい。
彼らは話す内容が、とても速い。技術的な内容も入ってくると思うが、
沢山の言葉の意味を知っているメッツォファンティ殿ならば、できる。
あと、閻魔様の想定としては、、、、」
スウェーデンボリ殿は「黄泉ネット」の概要、
ご自身が今まで行ってきた事と、
閻魔様より伝えられた今後の想定をお話になられた。
メッツォファンティ殿は穏やかに聞き、
精進しますと一言おっしゃった。
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続いて現れたのが、シャンポリオン殿だった。
若い、情熱的な雰囲気の方だった。
作業場に入るなり、あちこちを見渡し、
何かを探すように目を動かした。
スウェーデンボリ殿を介して言った。
「ここには、様々な時代の者たちがいるのですね。」
「左様。」
「言葉が通じない者同士が、それでも何かを作ろうとしている。」
シャンポリオン殿は少し微笑んだ。
「私が古代の文字を読み解こうとしたのも、
同じ理由でした。
通じないままにしておくのが、惜しかった。」
田中殿が静かに言った。
「それは、黄泉ネットを作る理由と同じかもしれません。」
シャンポリオン殿はしばらく田中殿を見てから、頷いた。
「ならば、力になれそうです。」
スウェーデンボリ殿はメッツォファンティ殿の時と同様、
シャンポリオン殿に「黄泉ネット」の概要、
ご自身が今まで行ってきた事と、
閻魔様より伝えられた今後の想定をお話になられた。
シャンポリオン殿には、石工班が頼まれる仕事の翻訳をお願いした。
石工が頼まれるガラス製品は、今後、確実に増えてく。
誰かが石工との懸け橋になって、常駐しないといけなくなる。
スウェーデンボリ殿は翻訳で問題が発生しないか部署間を見て回る仕事、
閻魔様の想定を実現するための下準備を行うことになる。
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翻訳班が整ったところで、私は全体の班分けを告げた。
「皆さん方に、役割をお伝えする。」
作業場が静かになった。
スウェーデンボリ殿、メッツォファンティ殿とシャンポリオン殿が通訳に構える。
「真空管班。」
ド・フォレスト殿、フレミング殿、ラングミュア殿、ボルタ殿、ファラデー殿。
「もにた班。」
高柳殿。真空管班と連携。
「真空管班の通訳と、もにた班との連携時の通訳は、メッツォファンティ殿。」
「からくり箱外枠作成班。」
阿部殿、久兵衛。
私は今後の石工関連の動きを説明した。
「今後は真空管やガラス製の物を作ることが多くなると踏む。
石工職人を増やさねばならない。石工同士の翻訳と、他班からの依頼の翻訳を
シャンポリオン殿が担当なされる。」
「あと、石工でも特にガラス加工にたけた魂を呼び戻すお願いを、
閻魔様にしておる。
新しく来た魂は日本語話者ではない可能性が高い。
シャンポリオン殿、仲介役もよろしく頼む。
第二種のシャンポリオン殿が対応できるよう、
なるべく、素直な魂をお願いしておいた。
阿部殿には、シャンポリオン殿の補佐もお願いしたい。」
「電力供給班。」
ボルタ殿が兼任。
「半導体解析班。」
稲葉殿、チューリング殿。
「おおえす開発班。」
TRINチーム全員。ただし当面は他の班の手伝いをお願いする。
「黄泉のからくり箱連携班・情報理論班。」
シャノン殿、田中殿。
「情報理論は、携帯電話とやらの中身を確認する半導体班と連携した方が、
合議ができて良いかと思う。
シャノン殿は、半導体班と共に動いていただきたい。
それと、シャノン殿と稲葉殿、
チューリング殿の橋渡しをできそうな魂を探すことにする。
日本語話者と英語話者で、技術に強い人間を田中殿がご存じと、
先ほど伺った。
早急に閻魔様にお願いをしてみようと思う。
からくり箱同士の連携はからくり箱ができてからとなるので、
田中殿は技術言葉が拙い私の補佐もお願いしたい。」
「他の班と連携や協調の状況確認はスウェーデンボリ殿、
各班の進捗確認は、久世殿でお願いしたい。
スウェーデンボリ殿、久世殿、そして私は週に一回の寄合を行う事とする。」
私が全体の調整を行う。
読み上げ終えると、作業場がしばらく静かになった。
やがて田中殿が言った。
「忠清さま。」
「なんだ。」
「……すごい人数になりましたね。」
「そうだな。」
「最初は、私と忠清さまの二人でしたよ。」
私はしばらく考えた。
「広間でぶつぶつ言っておった者が、よくここまで来た。」
田中殿は苦笑した。
「ひどい言い方ですね。」
「事実だ。」
「……否定できないのが悔しいです。」
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ド・フォレスト殿が何かを仰った。
メッツォファンティ殿が訳す。
「早く始めたい、と。」
チューリング殿も何かを仰った。
「同じく、と。」
スウェーデンボリ殿が小声で言った。
「この二人が同じことを言うのは、珍しうございます。」
「そうだな。」
私は頷いた。
「では、始めよう。」
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その夜。
私は書き留めた。
真空管班、到着。
フレミング殿、ド・フォレスト殿、ラングミュア殿。
翻訳班、強化。
メッツォファンティ殿(七十の言葉)、
シャンポリオン殿(失われた言葉を読む者)。
班分け、完了。
全体の人数、私と田中殿の二人から始まり、今や数十名。
私は筆を置いた。
生前、宗門人別改帳を全国に展開した時も、
最初は少人数だった。
大きな仕事は、必ず人が増える。
人が増えれば、まとめることが難しくなる。
だが、まとめることが難しくなったということは、
それだけ大きなことをしているということだ。
黄泉国情報網計画。
また専門家が増えた。
次は、この者たちが動き始める番である。




