新たな旅立ち
討伐の終わったギルは倒れた俺を肩に乗せて町へと歩いていた。
(しかし、とんでもねスピードだったなシュウの奴。俺がスキル使ってもたぶん当たらねぇな)
(それとなんだったんだ、あの魔族ってのは、転生者とか色々言ってたが、全くわかんねぇ。ゼイルならもしかしたら知ってるかもしれねえが。とりあえずサッサと帰ってゼイルに報告だな。)
町の近くまで来ると門からワインズが走り寄ってくる。
「おいギル二人とも大丈夫なのか?」
「ああ大丈夫だ。シュウは疲れて眠ってるだけだ。」
「俺は今からゼイルに色々と報告があるから、シュウの事頼むわ。」
「ああ任せとけ」ギルは俺を起こさないよう肩から下ろしワインズの背中へと預けた。
「それで討伐は出来たのか?」
「おう、ほとんどシュウのおかげだけどな、シュウがいなけりゃ倒せなかった。」
「そうか、討伐出来てよかったじゃないか。少しは気が晴れたか?」
「そうだな、アイツの敵討ちだと思って意気込んでたが、実際戦いになると、そういう事考えてる余裕なんて一切なかったよ。」
ギルには同じ歳の親友がいたが先のサラマンダー討伐で命を落としていた。ワインズからしても、もう1人の兄貴みたいな存在であったから敵討ちが出来たのは良かったと思う。
「じゃあ後でな。報告が終われば宿に行く」
ワインズと分かれたギルはゼイルの待つ組合へと向かっていった。
「ただいま帰ったぜ!」
「お帰り。その様子だと成功したみたいだな。」
「おうよ!ほとんどシュウの手柄だけどな!ガッハッハ」
「2人とも無事でなによりだ。シュウはどうしたんだ?」
「頑張りすぎて疲れたみたいだ、今は宿で寝ているはずだ。」
「そうか、ギルも早く帰ってゆっくりと休むがいい。」
「ああそうする。サラマンダーとは別件だが聞きたい事があってな、奥の部屋使えるか?」
「ああ、いいぞ」ギルとゼイルは奥の部屋へと入って行く。
「話ってなんだ?」
「サラマンダー討伐後にあった事なんだが、突然魔族だというヤツが現れてな。」
「なんだと?」
「その反応だと知ってる感じだな。サラマンダーはヤツのペットだそうだ。」
「魔族はいったい何の用で現れたんだ?」
「どうやら転生者を探していたみたいだ。」
ゼイルは無反応だったが表情からは、いつもの余裕が感じられなかった。
ギルが何度かゼイルに声をかけるが全く耳に入っていないようだ。
「おい!ゼイル!」
「ああ、すまん」
「どうしたんだ?いつにもなくシリアスな顔をして」
「ああ、いつかは言わなけりゃいけないと思ってたんだかな。はっきり言うと、その2つの言葉が出た以上、緊急事態だ。」
「今から言う事は、俺と町長しか知らない事だ。」
「俺がこの町に来た時のことは覚えているか?」
「ああ、丁度今から5年ぐらい前だったか?確か住んでる町が自然災害で壊滅してゼイルだけが生き残ったって言ってたか。」
「そうだ、実は自然災害じゃない。たった1匹の魔族によって滅ぼされたんだ。その魔族も転生者を探していた。魔族にとって転生者は最大の敵だと聞いた。」
「実は俺の住んでいた町には、少しの間転生者が滞在しててな、その転生者を倒す為に魔族は俺の町にやってきたんだ。」
「魔族が来た時には転生者はもう別の所へ行っていたんだ。町中を魔族が探し周り転生者が居なかったのに腹を立てて殺戮を始めた。辺りには、悲鳴と叫び声が永遠に続いていた。俺もこのまま殺されると思っていたんだが、もう1匹魔族が現れたとたん、猛スピードで飛んでいきやがった。」
「俺はその隙に逃げ出す事にした。家に戻り旅支度をしていると、さっきの魔族が戻ってきたんだ。魔族の手にはこの町に滞在していた転生者が無残な姿で抱えられていた。」
「転生者を倒した魔族は満足したのか、空から転生者を投げ捨てて何処かへ飛んでいってしまった。」
「転生者に恐る恐る近づくと微かに息があり、一言すまなかったと言い息をひきとった。」
「これが俺の知っている魔族と転生者だ。」
「その魔族の名はガイゼルと言ってたが、ギルの会った魔族は何て名だ?」
「俺の会った魔族はアゼルって名乗っていた。ただヤツは、殺戮するタイプではなかったな。強いヤツにしか興味がない感じだったぞ。」
「ただ言える事は魔族が現れた以上、この町もいつ滅ぼされるか分からん。」
「その転生者は俺の会った人間の中でもダントツで強い女だった。拳と蹴りを得意とした技を使い、その辺の岩や石など一撃で破壊するぐらいの強さを持っていたが魔族には敵わなかったみたいだ。」
「拳と蹴りか・・・まるでシュウみたいだな。」
「⁉︎シュウも使うのか?」
「ああ、サラマンダー相手に拳で戦っていたぞ」
「まさかシュウが転生者?」
「それは分からない。その時シュウは疲れて眠っていたからな。」
「そうか。」
「ギル、明日シュウに俺の所に来るように伝えてくれ」
「まさかこの町から出ていかすのか?」
「ああ、シュウが転生者じゃないかもしれないが魔族に目をつけられた以上出ていってもらう。」
「なんでだよ!アイツ命掛けでサラマンダーの討伐に力貸してくれたんだぞ!もう仲間だろ!」
「確かにそうだか、じゃあギルは今の話をきいて魔族から町の人や子供を守れる自信はあるか?正直言って俺は町から逃がすので精一杯だと思う。」
「あっ・・・」
「でもよ、アイツは俺の仲間だ!それだけは譲れねぇ!」
「わかってるよギル・・・俺もそう思ってる!」
「コンコン」誰かが扉を叩いた。
「誰だ?」
「シュウです。入っていいですか?」
「丁度シュウに話がある。入っていいぞ」
「ガチャ」
「お疲れ様、起き上がって大丈夫なのか?」
「大丈夫です。」
「今日はありがとうな、ギルも感謝してる。」
「それとな言いにくい事があるんだが・・・」
「大丈夫ですよゼイルさん。」
「盗み聞きするつもりはなかったんですが、ギルに貰ったヒソヒ草の効果がまだ効いていて扉の外でも聞こえてました。」
「そうか・・・」
「俺の寝ている間に色々あったんですね・・・魔族か、確かに狙われる可能性があるなら長居は出来ないですね。」
「皆さんの気持ちは十分伝わってますよ。右も左も分からない俺を色々と世話して貰ったりしましたからね。大事な依頼も信頼して任せてくれた・・・感謝しかないですよ。」
素直に自分の気持ちを打ち明ける事で俺は、この町から出て行く気持ちを固める。
「ゼイルさん、準備ができ次第この町を出ます。」
「おい!明日でもいいんじゃないか!急すぎるぞ」
ギルは少し怒り気味で言うが判断は間違っていないと思う。
魔族がいつ動くのか全く分からない状況で少しでも町の人々のリスクを減らす為にはそれしかないと思ったからだ。
「ギルありがとう。サラマンダーとの戦いを見て魔族が俺を転生者と判断してしまっていたらと考えると今すぐにでも出た方がいい。」
「今の俺では全く歯が立たないだろうが、むざむざ殺られるつもりはないよ。魔族と戦えるぐらいの力はつけるつもりだ。」
「ゼイルさん、ゼイルさんの住んでた町は何処にあるの?」
「行っても何もないと思うが?」
「そうかもしれないけど、何か魔族に関する情報あればと思ってね。」
「俺の住んでいた町は、この町の街道を北に進み山を超えた先にある。おそらく歩いてだと一週間は掛かるだろう。道中、山の麓で小さな町があると思うから準備は怠るなよ。」
「わかりました、行ってみます」
「じゃあ準備してきますね。」
ゼイルは何も言わなかったが、表情は曇っていた。それはそうだろう、この世界の事をほとんど知らない俺を町から出て行かすのは、ある意味死刑宣告をしたようなものだ。
「待てよ!俺も手伝うぞ。」
「ありがとう」俺は宿に残している自分の持ち物を取りに戻ることにした。
宿屋に戻り旅支度を始めるが、たった2日しかいなかった町に色々な事が思い出として俺の心に刻まれていた。
「準備しようにもよく考えたら、細身の剣とか装備品しかないじゃん。しかもギルに預けてるし。金も無いし。」
「ガチャ」
「準備は出来たか?」ギルが部屋に入ると今にも泣き出しそうな俺を見て慌て始める。
「おっおい!どうしたんだよシュウ」
「ギル助けて・・・何も準備する物もってなかった・・・」
「はあーっ?」
「よく考えたら、自分の持ち物って剣ぐらいしかなかった」
「わかった、泣くな!俺が準備してやる!下で飯食ってまってろ!」
首を横に振りながら、「お金もない・・・」
「あっ・・・そう言えば金稼ぐ為に依頼受けたんだったな・・・わかった泣くな!飯代も俺が出す!下行ってろ」
肩を落としながら部屋を出て食堂へと降りて行くが一歩一歩が、とんでもなく重く感じる。
「シュウの奴この先大丈夫か?1人で生きていけんのか?」
「仕方ねぇ、とりあえず準備だ!」ギルは慌てて自分の家へと戻っていった。食堂ではシャロンの母親が俺の為に自慢の料理を作ってくれていた。
「どうしたんだいシュウ?今にも泣きそうだけど?」
「女将さん・・・」
「もういいよ、泣くな!とりあえずコレ食べて元気出しな!」
「うっうっうっ・・・ありがとう」
自分の情けなさと皆んなの優しさで涙腺が崩壊し泣きながら料理を食べる。泣きながら食べていると旅支度の準備を終わらせたギルが戻ってきた。
「シュウ出来たぞ。ゲッ・・・泣きながらくってたのか?」
「グスッ・・・ありがとうギル」
「とりあえず組合に戻るぞ。」
女将さんに挨拶を済ませ組合の方へ向かうと噴水前でシャロンが、非常食の干し肉を小さなカバンに入れて渡してくれた。
「この町の名産の干し肉よ、2週間は日持ちするから、よかったら食べてね。」
「シャロン、ありがとう」カバンを肩から下げ組合へ向かう。
「ガチャ」組合の扉を開けるとゼイルとワインズが待ち構えていた。
「準備はいいか?」
「ギルに準備をしてもらったからバッチリです。」
「じゃあ俺からプレゼントだ。サラマンダー討伐の報酬とミスリルで作った小刀だ。細身の剣より使いやすいはずだ。」
「俺からもあるぞ」ワインズは指輪を渡してきた。
「その指輪は、戦闘時にシールドと言えば指輪を着けている腕に盾が装着されるマジックアイテムだ。解除と唱えると指輪に戻るんだ。」
「ありがとうゼイル、ワインズ」
「俺はコレだ」ギルは、小さなリュックを出しシュウに渡す。「リュックの中はアイテムボックスでな、色んな物を放り込めるようになってるぞ。旅に必要なテントや火おこしのアイテムも入っている。道中使うといい」
「ありがとうギル、皆んな」
「こんな事ぐらいしか出来ないが、お前の無事を祈ってる。後、こんな話がある。この世界の何処かに魔法が使える一族がいるらしい」
「ゼイル!そりゃ御伽話だぜ?」
「いや、実際に俺は見た事がある。」
「俺は若い時に一度だけ魔法使いにあった。いるらしいと言ったのは、その魔法使いは教えてもらったと言っていたからだ。俺は一族のことを探し回ったが何一つとして情報は得られなかった。会えるかは分からないが興味があれば探してみるといい。」
「この世界で作られている不思議なアイテムとかは、その魔法使いが作ったとも言われてるしな。」
「ありがとう、旅のついでにぐらい探してみるよ。」
「じゃあ、そろそろ行く。皆んなも元気で!」
組合を出て町の門へと進むと、衛兵のテリアさんが寄ってきた。
「町を出るんだな、餞別だ。」テリアさんは、ポケットから葉巻と火種を出し「お前吸うだろ?最初に会った時に匂いがしたからな。」と渡してくれた。
「ああ、ありがとう。」
「元気でな・・・負けるなよ。」
俺はテリアさんに背を向けたまま歩きながら手を振って門を出た。
しばらく街道を進んで行くと頭の中へアイさんが話かけてくる。
「また、追い出されたね・・・」
「言い方悪すぎだろ?俺から町を出たの!」
「ふ〜ん。厄介払いにも見えたけど。」
「せっかく良い感じで町出たのに雰囲気ぶち壊しだな!」
「ところで、なんで姿現さないの?」
「実は魔族は、転生者だけじゃなく天使も標的にしてるの。私たち天使は、戦えないから見つかったら即アウト。」
「何か色々知ってそうだな、道中知ってる事あれば教えてくれ。」
「そうだね魔族が出てきた以上話さないといけないね。」
念話でアイさんと話しながら歩いていると、目の前に突然黒い霧が現れる。
「初めまして」黒い霧は一つに集まり、人の形を形どって行く。
「今日は、楽しい戦闘を見せていただきありがとう」
「屈強な剣士さんから聞いてると思いますが4大魔族の1人アゼルです。以後お見知り置きを。」
「4大魔族が何のようだ?」
「ええ、私は強い人間が好きでしてね、私のペットを倒したあなたに非常に興味が湧きました。あなたは、まだまだ強くなる可能性を秘めてそうでしてね。そう構えないで下さい、今は殺すのに値しないんで。転生者以外でこんな強そうなのは初めてなんで少し興奮してます。他の魔族なんかに殺されないで下さいね、興が覚めるので。前にいた転生者はかなり強かったんですがね、ガイゼルさんの卑怯な戦術で殺されちゃいました。あの人の戦闘には全くと言って花がありません。まぁそうでもしないと逆に殺されてましたけどね。」
「魔族ってのはいったいなんなんだ?」
「そうですね平たく言えば、人間の敵ですかね。転生者とは人間を守る存在であって、我々とは相入れない存在ですかね。」
「転生者ではないあなたがそんな事を聞いてどうするんです?それとも転生者の代わりをするとでも?」
「いや魔族に狙われている以上魔族の事を知っておかないとな、そう思って聞いてみただけだ。」
「ハッハッハッ!敵対する相手に聞いてどうするんですか?あなたは実に面白い。また次の機会にでもお話しましょう」
「一つだけ教えてくれないか?なぜ俺が転生者ではないとわかったんだ?」
「いいでしょう、他の魔族は出来ませんが私達4大魔族には色々なオーラが見えます。それで判断出来るのです、転生者はオーラの色が普通の人と違ってるんです。あなたは転生者とも普通の人とも違う闇を抱えたオーラを纏っています。はっきり言うと魔族のオーラに近い感じですね。」
「もういいでしょう、では頑張って強くなって下さいね。ご機嫌よう」
そう言ってアゼルは霧になり目の前から忽然と消えた。
(まさかのソッチよりの存在かよ・・・)
相対するだけで力の差を感じた俺は、少しの間震えが止まらないでいた。転生者のいた町へと歩みを進める。この世界の事象に巻き込まれた感じを肌に感じながら・・・
アナウンス「新しいスキルが取得出来ます。ステータス画面を開いて下さい。」・・・




