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第8話 悪女との接触

 彼女、乃亜が不在の中だったが、黒美達は街中に現れたアクアクを難なく倒し、変身を解除して公園のベンチに腰を掛けて一息ついていた。

 

 乃亜は未だ姿を現していない。学校帰りに咲夜と家に訪問もしているのが、応答は無く仕方なく回れ右をするばかり。

 完全に塞ぎ込んでしまっている、と考えた方がいいと思う。それもそうだ。大切な家族を殺されて、何も感じない人なんていない。

 

「ですがやはり、心配なのは変わりませんわ」

 

「あー、乃亜のこと?」

 

 そんな独り言に丁寧に返事をしてくれた咲夜。

 

「心配は心配だけど、1人の時間も大事だと思うの。だから今はそっとしておくのが一番だと思うよ」

 

 心配する事が彼女の為になると思っていたけれど、どうやら咲夜は違っていた。

 咲夜は、乃亜の心に寄り添っている。今乃亜が欲しいのは、一度1人になって整理する時間。

 とはいえ、このまま引きこもられても敵わない。秘密結社アークの魔の手は昼夜問わず、しかも場所も選ばず突然現れるのだ。

 黒美達はまだ学生だから、平日に抜け出してアクアクを倒すのは困難を強いる。それに加えて、昨今の魔法少女事情としてその数は減ってきている。

 

 魔法少女たる人が生まれないのも要因の一つであるけれど、もっとも重要視するべきは秘密結社アークとの戦闘での死亡。

 これが、魔法少女の数をもっとも減らしている要因だ。仕方のない事とはいえ人手が欲しい。

 

「当分、黒美達でなんとかしないといけませんね」

 

「そんな訳で、今日も気合い十分でパトロールしよっか!」

 

 大きく右手を掲げて立ち上がる咲夜。その直後だった。


「──ようやく見つけた、魔法少女」


 ぞわあ、と悪寒が走り、全身から冷や汗がドバドバ溢れ出した。命の危機感を察知して黒美達は、目にも止まらぬ速さでその場から離れて背後に現れた人物と対峙する。

 

「全く、気配すら感じさせないなんて貴女只者ではないですね」

 

 言葉から察するに相手は秘密結社アークの悪女。その見た目は黒美達の親世代と大差は変わらない。年齢も4、50代とみた。

 けれど、黒美達が知っている魔法少女とはまた違った風貌をしている。というか、一般人と変わらない。よく注視しないと魔法少女なのか一般人なのか判断がつかない。

 服装だって、私服で魔法少女特有のフリルのあるメルヘン衣装じゃない。着ていたとしても、それはそれでどうなのかと思いはするけれど。

 

「何故、黒美達が魔法少女と?」

 

「年季が違う、とだけ伝えておこうか」

 

 その言葉は嘘じゃない。でも、それなら、とある疑問も浮かび上がる。

 

「わたし達を前にしても、アクアクを呼ばないなんてどういうつもりなの? それに、わざわざ背後を取ったのなら何でその時点で仕留めなかったの?」

 

 殺そうと思えばいつでも殺せていた絶好の場面。それをわざわざ自分から声を掛けてはみすみす逃すなんて、間抜けにも程がある。何が狙いなのか。それを探る。

 

「話をしに来た」

 

「「話を?」」

 

 口を揃えて言う黒美達。目の前の相手は、敵意が無い事を示しながらゆっくりと、黒美達が先程まで腰掛けていたベンチに座り込んだ。

 

「罠だと、そう思っているのは黒美だけかしら?」

 

「ううん、わたしだって疑っているよ」

 

「はあ……文句を言える立場じゃないが少しは信じたらどうなんだい?」

 

 ますます怪しい。その余裕綽々と言った態度、敵対する相手に未だ臨戦体勢すら取らない。疑惑の目は更に強くなる。

 

「ま、このまま平行線ですもんね。いいわ、聞くだけ聞いてあげる。だけど長く耳を貸すつもりもないわ」

 

 それで良い、と了承してくれた。

 

 罠だとしても悪女直々話をしてくれるのはありがたい限り。未だ組織自体謎が多く、自分達が手にしている情報は限りなく無に等しい。

 嘘も織り交ぜられたとしても、話の流れを誘導すれば多少なりとも欲しい情報くらいは得られる。同時に、それに勘付かれる可能性も無きにしも非ず。

 故に会話をするなら、言葉一つ一つに細心の注意を払わなければならない。逆に利用される事だってあり得る。

 

(さて、どんな内容なのかまずは様子見を──)

 

「ピュアアニマルは、地球を支配しようと約600年も前からこの地球に降り立った脅威の侵略者。つまり地球外知的生命体。私達秘密結社アークは、それに対抗、撃退、殲滅をする為に誕生した組織よ」

 

「は、え、ちょ?」

 

「何を言っているんだこの人は?」というのが先に浮かんだ。

 

 魔法少女絡みだからある程度の事は、受け入れられると覚悟していた。なのだが、聞けばどうだろうか。地球外知的生命体とかいう馴染みの無い単語が脳を強打する。

 

 いくらなんでも、それはあまりにも現実離れでにわかに信じ難い。

 

「そうよね、そういう反応は正しい。だけどこれは本当よ」

 

「じゃあ一つ伺いしますが、貴女方秘密結社アークは何を持って市民を襲っているのよ?」

 

「知ってると思うけど、魔法少女になるにはピュアエナジーが必要不可欠。私達はそれを回収する事で、皆を魔法少女にさせないようにしていた。例えピュアアニマルが接触しても、根本的な土台が無ければそもそもなれないからね」

 

 納得のいく回答だけど、まだ信じられない。見方を変えれば、魔法少女側の戦力を大幅に減少させているとも捉えれるから。

 自分が言った通りこのままだとやはり終わらない。永遠と疑いをかけたまま睨めっこをする。

 

 埒があかない。

 

(強引なやり方ですが、もうあの方法しかありませんね)

 

 黒美は、ヴァリアブルを呼び出して1発の弾を装填する。変身しなくても、ある程度の魔法は行使出来る。

 

「黒美の魔法で、貴女の真偽を謀ってあげます」

 

「その銃でどうやって?」

 

「あらゆるものを貫通させる黒美の魔法で、貴女が嘘を吐いているかどうか暴くの」

 

 今から放つ銃弾が彼女を貫けば嘘を言っている事になる。逆に、貫けれなかったら本当の事を言っている事になる。

 

「とても簡単でしょう?」

 

「そうね、私は嘘は吐いてないもの」

 

 特に抵抗の意思すら感じさせず、潔く両手を上げて無防備の状態を晒した。何も動じる事のない態度に、咲夜は眉を顰めて黒美の方に顔を向けてきた。

 

「自信ありげ。本当に上手くいくの?」

 

「それは、試してみない事には黒美も分かんないわ」

 

 引き金に指を添えて、彼女の眉間に狙いを定める。銃口を向けられても尚微動だにしない。状況的に、黒美の方が優位性があるがどうしても重たい空気が肩にのしかかる。

 

 じんわりと指が動き、引き金が引かれ──。

 

「つまらないわね」

 

 ヴァリアブルを下げ、黒美は肩をすくめる。

 

「撃たないの?」

 

「言ったでしょう? つまらないって」

 

 脅しが通じなかった。引き金は問題無く引けたが、彼女が死を目前としてもなんの焦りも見受けられない事に察して矛を収めた。

 

 怖気ついた、という理由では決してない。作り話と考えはしたが、それにしたって妙に作り込んでいる。

 

「多分、本当の事を言っている」

 

「信じるつもりなの?」

 

 訝しげな表情で咲夜は黒美の方へ顔を向けた。そんなつもりはサラサラないと、首を横に振って静かに否定する。

 

「そうは言っていないわ。言葉の節々に怪しいと感じたら、即後ろからズドンよ」

 

 もう少し出方を伺う。嘘らしい目や声はしてはいない。だけど警戒しないという訳じゃない。話を聞いて敵と味方の区別が難しくなった今、慎重に事を進めなくちゃ足元を掬われる。

 

「仮に嘘だとしても、黒美達の魔法なら大抵の魔法少女は一捻りだし、さほど脅威とも感じていないわ」

 

「随分と自分の魔法に自信があるんだね」

 

「黒美達の魔法は割と単純な魔法なの。でもそれ故、応用も効きやすい。油断しない限り、黒美達が負ける事はないもの」

 

「それは実に興味深いものだ」

 

 調子が狂う。こんな悪女は初めてだ。

 

「ひとまず、貴女とココモリ達と引き合わせる。いいわよね?」

 

「えっ、引き合わせるの?」

 

「敵対しているのに何で?」と咲夜は疑問符を浮かび上がらせる。何の算段も無しに引き合わせるなんて事はしない。様子を伺いたいのだ。

 悪女とピュアアニマル、この2つを接触させたらどんな化学反応を起こすのか。しらばっくれて本音を隠す可能性もあるが、上手く行けばお互いの本性を暴けるかも知れない。

 

 これは腹の探りだ。どっちが信用に値するのか、そこの部分を見極める必要性がある。

 

「と、いう訳なの。居るんでしょうココモリ、ピッピー。出て来なさい」

 

 黒美が呼び掛けると、ガサガサと茂みの中からココモリとピッピーが姿を現した。

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