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第9話 暴かれる本性

 2匹して「どうして居るのか分かったの?」という惚けた顔をして、お互いに顔を見合わせている。

 

「朝から見掛けないと思ったらこんな所に居たの?」

 

 和かな笑顔で咲夜は手招きをした。現状を知らないでいる黒美達に、その行為はあまりにも警戒心が足りな過ぎる。

 手招きする手を止めさせ、眉間に皺を寄せる。

 

「この状況は何ッピ?」

 

「どうしてクロミちゃん達がそんな奴らと一緒に居るココ?」

 

「魔法少女の使命はアクアクから街の皆を守り、秘密結社アークを倒す事ッピ。敵との馴れ合いは不要ッピ」

 

「今すぐ倒すココ」

 

 いつもとは雰囲気が違う。何というか、悪女を目の前にして2匹共火花を散らしているというか、殺伐として穏やかではない。嫌悪感を抱いている。

 

「まどろっこしいのはあまり好まないから、単刀直入に聞くわ。ピュアアニマルは、地球を支配しようとしているのかしら?」

 

ヴァリアブルの銃口を向ける。冷たく突き刺さる凶器の目の脅しでも、2匹は然程動揺せず平然としている。

 

「何か、変な入れ知恵をされたッピ?」

 

「そんな訳の分からない戯言に耳を貸す暇があるなら、早く魔法少女に変身した方が良いココ」

 

 話を逸らそうとしている。何が何でも悪女、秘密結社アークを倒す事で一点張り。ふと、悪女の方に視線を向けて様子を見た。

 

 特にこれといった怪しい動きは見せていない。見せてはいないが、ココモリとピッピーに対して激しい殺意を向けている。それだけで、どれだけ憎悪を内に秘めているか、どれだけピュアアニマルにヘイトを溜めていたのか漂う空気で丸わかり。

 

「質問にはちゃんと答えてくれるかしら? 別に疑う気はサラサラ無いのよ。ただちょっと、そうほんの少しだけ黒美達は疑心暗鬼なの」

 

 誰を信じ、誰を敵として見るか。

 

「ねえピッピー、あの悪女の話だとピッピー達は宇宙人って言ってるの。違うと言うならちゃんと答えて、証明して」

 

 こんなモヤモヤとした状態のまま変身したって何も変わらない。

 

「サクヨは、ピッピー達よりも悪女の言葉を信じるッピか」

 

「別にそんなつもりじゃ──」

 

「分かったッピ──それならもう終わりにするッピ」

 

 ピッピーが口角を上げた、その時だった。

 

「あえ?」

 

 ──悪女は縦二つに割れた。

 

 盛大な血飛沫が黒美達に降り掛かり、グチャリという音と共に悪女の左右の半身がその場に崩れ落ちていくのをこの目で見た。

 

「プッ、一瞬ッピ」

 

 彼女の最期の言葉としてはなんとも呆気なく、そして情けなく終わる様を見てピッピーは吹き出していた。

 

 黒美はそれをただ呆然と立ち尽くして見て、咲夜は悲鳴を抑えるのに必死になっている。

 

「それにしても遅かったココ」

 

「何が遅、い?」

 

 黒美達2人に差し掛かる一つの人影。見上げるとそこには、自分達と同じ年頃の少女、魔法少女がこの場の様子を見下ろしていた。

 

「誰? 知ってる黒美さん?」

 

「いいえ知らないわ。黒美も初めて見る魔法少女よ。それにしても……」

 

 姿だけじゃない。宙に浮いている事から魔法も初見。黒美の見立てでは恐らくこれも魔法ではないかと。

 魔法少女でも、何かしらの魔法を使用ない限り宙には浮けない。過去に似た様な魔法を使う魔法少女が居た。

 

《浮》という魔法属性だが、浮くだけというなら《風》属性でも一応可能である。

 

 ──故に。

 

(憶測だけで、安易に近付くのは危険)

 

 得体の知れない相手だからこそ慎重に、臆病になるくらい警戒をしていて損はない。

 

「ラビピョン、ギリギリセーフッピ」

 

「「ラビピョン⁉︎」」

 

 思わず二度見したくなるくらい耳にした言葉に、戸惑いと驚きを隠さなかった。

 それもその筈、ラビピョンはピュアアニマルであって人間ではない。けれど現にピッピーは浮遊している少女を「ラビピョン」とその名を口にした。これには流石に冷静を少しばかり失う。目元が引き攣り、嫌な汗が吹き出す。

 

「笑えない冗談は冷めますわ」

 

「人間は、常識では考えられない事が目の前で起きたらまず現実逃避をする。そういうの、ピョンは少しだけ嫌いピョン」

 

「その声……黒美さんあの子」

 

 皆まで言うな。少し高い声に、独特な「ピョン」という語尾。わざわざ口にしなくともハッキリと分かる。目の前に居る謎の魔法少女はラビピョンだ。

 

「で、そろそろ降りて来たらどうなの? それとも、ずっとそこに居ますの?」

 

 傍観者のつもりか、いつまで経っても地上に降りて来ようとしないラビピョンに挑発めいた言葉を黒美は投げ掛ける。

 

「ますます貴女方の存在が分からなくなったわ。兎の癖して、優雅にお空のお散歩とは些か奇妙ですこと」

 

「力を持ったピュアアニマルなら、人間の姿になるなんて造作もないピョン」

 

「全く、サラッととんでもない爆弾発言を」

 

「えっ、何?」

 

 今の会話で黒美は察した。人間に擬態したピュアアニマルがこの世の何処に、蔓延っているという。信じ難い事だが、一体どのくらいの数のピュアアニマルが人間社会に紛れ込んでいるのか。想像するだけでも恐ろしい。

 

「……ッ」

 

 僅かなアイコンタクトで咲夜に伝える。

 

(変身して戦う。良いですか?)

 

 コクリ、と咲夜は頷いた。状況を飲み込むよりも早く、本能のままに従う。

 

 ピュアアニマルは遥か上の存在。野放しにしていたら危険だと言うことを、本能で察知し、対処する事を選んだ。

 本来ならもう少し情報を聞き出したいところ。でも、状況が状況でそんな悠長な事は言っていられない。

 

(ノーモーションで変身。即座に戦闘。隙を与えさせてはいけない、そんな気がしますわ)

 

 黒美達は生唾を飲み込みながら変身する体勢になる。

 

「「レッツ、ピュアチェンジ!」」

 

 膨大なピュアエナジーが全身を包み込み、公園に2つの柱が天高くそびえ立つ。何人たりともこの変身中を邪魔されない結界。

 

 なのだが。

 

「そう易々と変身はさせないピョン」

 

 ラビピョンが宙を蹴った。凄まじい速度で2人との距離を縮めている。

 

「まさか!」

 

「変身中に攻撃!」

 

 その事が分かった以上、防御しない訳にもいかない。両腕を交差させ、腰を落とし、両足は更に地面を踏み締め、歯を食いしばる。

 

 まだ変身は終わらない。早く。

 

 変身が終わるその前に強靭なバネを有した兎のキックが、咲夜の腹部に炸裂。勢いのまま蹴り飛ばした。

 身を包ませていたピュアエナジーはラビピョンの妨害によって飛散して空中に消えた。

 

 咲夜は何度も地面をバウンドしながら、公園の中心にある噴水にダイブしてそこでようやく止まった。

 変身が途中の事もあってまともに身体能力が強化されてない為、全裸で浮いて気絶している。

 

「変身中に攻撃なんて御法度もいいところよ」

 

「最高の隙を狙わない敵が馬鹿なだけピョン」

 

 咲夜に蹴りを入れた脚が、返す刀で黒美の方へ襲い掛かって来る……が、右腕で受け止める。

 

「結構簡単に止めたピョン。流石クロミピョンね」

 

「当たり前ですわ」

 

 と、強がりを言う。正直なところギリギリもいいところ。受け止めた直前で右腕のみ変身出来たが、それでも衝撃までは緩和する事は無理だった。

 

「まだまだ行くピョン」

 

(マズいですね、これは)

 

 蹴り付けた脚を引っ込める入れ替わりで、今度は左拳が脇腹目掛けて打ち込もうとして来る。

 咄嗟の判断で、左膝を駆使して拳を弾き返す。同時に左脚も変身が完了。

 

「やるピョン。でも、他が一部変身出来てないピョン。ほら、そこも丸裸ピョン!」

 

 弾かれた左で、そのまま肘での攻撃に切り替えてきた。狙いは左肩。最小限で腰を捻り、上体を後ろズラして寸前で回避。

 捻った勢いそのまま利用し、右足を軸にしてその場で反時計回りで優雅にターン。ラビピョンの肩をさり気なく掴み、逃げられなくもする。抉るように左の踵で、ラビピョンの顔面へと蹴りを繰り出した。

 

「その判断は上々ピョン」

 

 蹴りが炸裂してバギャ、という鈍い音と骨を砕いた感触を黒美は得た。

 

 ──だけど。

 

「嗚呼、それを耐えるんですね」

 

 ラビピョンは顔を逸らすなどをしてダメージと衝撃を逃す事無く、耐え切り、あまつさえ黒美の足首を掴む始末だった。

 

「流石にそれは、笑ってしまいますわ」

 

 化け物じみた耐久力。アクアクだったとしても、食らえばひとたまりもない一撃を軽々と、そして平然として受け切った。

 

「骨は砕いていますのに」

 

「骨を砕いたからと言って、倒せると思い上がるのはいけないピョン」

 

 掴んだ脚を振り上げられ、力強く地面に叩き付けられた。胸から来る痛みと衝撃に、肺の中にある酸素を全て口から吐き出してしまい一瞬眩暈が生じる。

 必要以上に叩き付けられており、ダメージが蓄積されていくばかり。変身も未だ中途半端。足掻きというか、抵抗を示しているものの不十分な体勢で力が入っていない。

 

(意識が、飛ぶ……早く変身を完了させなければ!)

 

 ヴァリアブルを構え、ラビピョンの眉間に銃口を向けて発砲。それを紙一重で避けた。1メートルもあるか無いかに等しい距離を余裕で回避された。

 

「元気有り余ってるみたいピョン?」

 

 持ち方を変え、今度は黒美を突き刺すようにして地面に叩き付けた。上半身は完全に地面に埋まり、脚が開いた状態の羞恥姿を晒してしまっている。

 ダメ押しに股目掛けてラビピョンは踵落としで執拗に攻め始める。その度にハンマーで釘を打っているかの如く、黒美は更に地面に突き刺さり、埋まっていく。

 

「この街の魔法少女も案外大した事ないッピね」

 

「コココ、あのクロミちゃんが股間丸出しで倒れてるココ!」

 

 外野にいるピュアアニマル2匹は、倒れている黒美達の事を嘲笑い、馬鹿にしている。その腐り切った言葉を黒美の耳にちゃんと届いている。

 

「でも、まだまだやれるピョン」

 

 無様で女の子としては情け無い醜態を晒しているこの僅かな間。ピュアアニマル共は完全に油断し切っている。「ここしかない」そう全身に力を込め、一気に再度変身を遂げる。

 

「言って、くれますね!」

 

 ガシ、と地中から頭を出して這い出てきた黒美。満を持して変身完了。けれども、既に満身創痍。ボロボロな身体に鞭を打って無理矢理動かしているに過ぎない。

 

「まだ、わたし達は!」

 

 反対方向からは咲夜が。咲夜も同様、変身はしているもののトールハンマーを杖代わりにして立っているのがやっとでいる。踏み出す脚はおぼつかなく、子鹿のように震えている。

 

 お互いに、ダメージが脚まで響いている。

 

「現代において、キミ達より優れている魔法少女は未だ存在しないピョン。ピョンとしても、これ以上の争いは避けたいピョン」

 

「でしたら、この地球から手を引いて欲しいですわ」

 

「それとこれとは別ピョン」

 

「じゃあ、どういう意味なの?」

 

「より優秀で、より最高峰のピュアアニマルを誕生させるのが、ピョン達ピュアアニマルがこの星に降り立った理由ピョン。ピョン達が欲しいのはとても上質な孕み袋ピョン」


 強烈なカミングアウトに、黒美と咲夜は気分を害して目元をヒクつかせる。

 これから2人に聴かされるのは、世にも悍ましいピュアアニマルの本性だ。

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