第10話 わたし達の存在理由
《孕み袋》それだけで、ラビピョンの言う目的が判明した。黒美達魔法少女の事を、こう思っているに違いない。
「黒美達は苗床って訳ね」
「強く、気高く、勇猛なピュアアニマルを誕生させるには母体となる者の質が必須条件ピョン。そこでピュアアニマル達は素質のある人間を魔法少女に変え、能力の高い魔法少女を苗床にすると決めたピョン」
「ピュアアニマルは、他の生物よりももっと賢く、強い存在じゃないといけないッピ」
ピュアアニマルが自分達の種族が、この宇宙でより上位の存在になる為に人間を利用して都合の良い繁殖の道具として扱っている。
《魔法少女》という力は、その幾多の繁殖と犠牲の上に成り立った力という訳か。そしてその意味も全て、最高峰のピュアアニマルを誕生させる為だけの贄。
「大人しく投降するというなら、手荒な真似はしないピョン。さっきも言ったけど、キミ達は他の星じゃ類を見ない貴重な魔法少女ピョン」
「ピッピー達が待ち望んだ魔法少女ッピ」
「例え苗床になっても利点はあるココ。それは、死ぬ程気持ちの良い快楽ココ! 女の子はみーんな快楽が好きココ!」
「とんだクソ野郎ですわ」
「わたし達女の子をなんだと思っているの?」
目の前に居るピュアアニマルは笑いだした。
「だからさっきから言ってるココ。キミ達はただの孕み袋、繁殖させる道具に過ぎないココ」
「逆に何でそこまで怒るッピ? サクヨだって、毎日最低4回は自慰行為してるッピ」
さくよんの顔がトマトのように赤くなった。歯ぎしりをしては恨めしそうな目でピッピーを見る。
「クロミちゃんだって裸で夜の徘徊プレイに、いつも性的興奮を覚えてるって言ってたココ」
「そうなの⁉︎」
今度は黒美が秘密にしていた事を暴露された。それでも黒美としては「だから何?」としか言いようがない。だって。
「黒美の趣味だから恥ずかしくなんてないわ」
堂々と黒美は言い切った。そうじゃなくても、実際快感を得ている事は事実。
「とは言え、あくまでそれは性欲の強い人であって、皆が皆そういう訳じゃありません。だから黒美としては、肯定もするし否定もする」
こんな状況じゃなければ、もっと自分を曝け出したかも知れないけれど。こんな風にくだらない話をいつまででも、ずっとする為に、黒美達が今しなければならないのはたった一つ。
「十分話せましたし、そろそろこちらも本気で相手をしますわ」
「そうピョン。ピョン達としても、あまり長居はしないつもりだったピョン」
そして口を揃えて言う。
「「気が合ったね」」
それが戦闘続行の合図となり、ラビピョンが先に飛び出した。狙いは勿論。
「黒美ですか」
遠距離武器であるヴァリアブルの弱点は、よくある近距離に大してだ。接近されれば遠距離武器としてのアドバンテージを失い、対策を講じなければすぐさまやられるのがオチ。体術も多少なりと心得ているが、得意としている相手にそれは付け焼き刃の程度。
「ま、何も考えていない黒美じゃありませんが」
引き金を引き、魔力で固められた弾丸が放たれる。
「遅いピョン」
一切スピードを緩める事なく、最高速を維持したまま地面を蹴り、左右に身を振らせながら回避した。
流石兎の脚力だ。敵ながらあっぱれと言いたい。だけど感心ばかりじゃ勝てない。
「《貫》の魔法の強みは貫通力。当たらなければ意味が無いピョン」
「言ったはずよ。何も考えていない黒美じゃないって」
瞬間、地面の一部が隆起してラビピョンを宙へ放り出した。突然の不意打ちに目を見張っていたが、すぐさま誰の仕業なのか察する様子をみせる。
「黒美達は2人で戦っているの。彼女を、さくよんを忘れちゃ困りますわ」
「忘れる訳無いピョン。だから、油断もしないピョン」
「でも、受け身の取れない空中じゃ出来ないよ!」
ラビピョンを打ち上げた少女、咲夜が隆起した地面を駆け上り、トールハンマーを片手に飛び出した。
この一撃を決めたい。その想いに呼応して、咲夜のピュアエナジーは最高潮にまで達し、トールハンマーに凝縮されている。振り翳すは現状出せる咲夜の必殺の破壊撃。
「インパクトブレイク・砕滅!」
完璧なシチュエーション。これを防ぐ手段は無い。
──そう思っていた。
「がっ──⁉︎」
破壊の一撃を振り翳すその瞬間、咲夜は何も無い空中で何かに阻まれ、激突しては顔面を強打した。
「さくよん?」
咲夜の目の前には障害物なんて一切無い。しかも空中で。だけど、見えない何かがそこにはある。
「これで1人脱落ピョン」
何かに勢いそのままに突撃したせいで、咲夜の意識は一瞬にしてかり取られて撃沈。地に伏せた彼女は、今度こそ戦闘不能となり、裸のまま大の字で痙攣している。
「さてと、残るはキミ1人ピョンクロミ」
恐らく今のはラビピョンの魔法によるものだ。空中に浮いているのも、そして今の一連の光景。明らかに《浮》属性の魔法じゃない。もっと他の魔法。
余計に謎が深まってしまった。
(考えてもしょうがないわね。もう、悠長にしていられる相手じゃない。覚悟、決めるしかないわ)
深呼吸し、目を見開き、空中に留まっているラビピョンに殺意を向ける。同時に、黒美が持つ全てのピュアエナジーを解放。膨大なピュアエナジーが周囲を覆い尽くし、多種多様の銃器の形へと具現化していく。
その数、数百。
「残りのピュアエナジーを全部使い果たすピョン? 面白い、真っ向勝負するピョン。そして、その心ごとへし折るピョン」
「人間は、貴女達の玩具じゃない。黒美の全力を持ってラビピョン、貴女を排除するわ」
「まだピョンの魔法がなんなのか分からないのに、大口叩くようになったピョンね」
「大口? 違いますわ、大真面目」
鋭い眼光を飛ばして、黒美はいつもの口上を高らかに叫んだ。
「魔法少女ピュア黒美! ピュアなハートをより黒く、美しく染めて差し上げます!」
◯
全てを掛けて、全力で戦った。持てる力を余す事なく絞り出したというのに黒美は、黒美達は。
「人間にしてはよく頑張ったほうピョン。でも所詮はその程度、そこが限界ピョン。人間が、ピュアアニマルを超えるなんて事は絶対にあり得ないピョン」
負けた。完膚なきまでに叩きのめされた。あらゆる手を尽くし、最善たる策を講じて挑んだ。それでも尚、黒美の銃弾が、手が届く事は一度たりともありはしなかった。
(これだけ尽くしても、まだ届かないって言うの?)
ピュアエナジーは完全に枯れ果て、もはや変身する事すらままならない。
今の黒美はただの少女。こうやって、裸になってラビピョンに頭を踏み潰されるだけの哀れな少女。
「やっぱりキミ達は凄いピョン。結果は残念とはいえ、内容だけ見れば褒めるところが沢山あるピョン。これなら、立派な苗床になるピョン」
ラビピョンに首輪を付けられた。屈辱的だ。でも、どうする事も出来ない。力も入らない。ピュアエナジーも空っぽ。
「そんなに怯える必要は無いピョン。怖いのは最初だけピョン。後は気持ち良くなって、何も考える事をやめればそれで楽になるピョン」
それならいっそ、死んでしまいたい。
「ピッピー、ココモリ準備出来たピョン?」
「大丈夫ココ」
「ある程度躾けは出来たッピ」
さくよんの方に目を向ければ、犬のように四つん這いとなり、舌を出して無様な姿で堕ちていた。目には光など無い。
「さあ、ピョン達の秘密の場所に帰るピョン」
黒美も、もう諦めようとした時だった。黒美に繋がれている首輪が細かく切り刻まれ破壊された。
「──ごめんね、遅れちゃって」
ゆらりぬらりと気配も無く、黒美の背後から声がした。その声の主が誰なのか理解している。
「へぇー、今来たんだピョン」
もはやこの子に後を託す他道は無い。ようやく姿を現した彼女に。
「待ってたピョン──ノア」




