第4話 なんかすっごいヤバい魔法少女
「あはは、魔法少女についてわたしが話せる事ってあるのかなぁ?」
お昼ご飯を食べた後、乃亜は咲夜の家にお邪魔していた。
魔法少女については大雑把にラビピョンから聞いたので、今度は同級生とはいえ魔法少女の先輩でもある咲夜にも話を聞きたいが為に訪問をした。勝手に。
「昨日の事もあるし、いいよ。わたしに答えられる、知っている事なら全部話してあげるね」
「わーい!」
「それで、何話したらいいの?」
「普段どんな活動をしているの?」
「か、活動と呼べる事をわたしはしてないけど。わたしの場合は、平日にいつもピッピーが街に出ているの。その時に何かあれば連絡を受け、その都度変身しているの」
学校生活を送りながら、そうやって街の平和を守っているなんて凄いとしか言いようがない。
乃亜自身、両方こなすのは無理だと思う。学校にしたって大切だ。何より母親にだけは心配を掛けさせたくない。
「先生とか何か言われないの?」
「えっ、言われるよ。途中退席も成績に響くから今後は控えるようにって」
(それダメじゃん。ダメなパターンじゃん)
乃亜はそう心の中で盛大にツッコんだ。
「両立が難しいところ。でも、わたしがやらないと街の平和は保たれないから」
「その覚悟は流石ピョン」
「当然ッピ。なんせ、ピッピーの魔法少女なんだからッピ」
自分でも気が付いていないが、今の乃亜の表情は強張っている。学校か魔法少女って思っている時点で中途半端。
こんな状態で本当に──。
「魔法少女になった後に言うのも卑怯だけど、もう引き返せないピョン。それに覚悟を決めて、自身の決断で変身したピョン」
「うん、そうなんだけど」
「もしかして、あまり自信が無い感じなの?」
「そうです。自信がこれっぽっちも無いです」
咲夜は苦笑いして「そうなんだ」と小さく呟き、顎に手を添えて何か考え込んだ。そして、何か閃いたのか両の手を合わせて乃亜を見た。
「であれば、実戦あるのみですね!」
実戦あるのみと言われても、そうそう秘密結社アークと対峙する機会なんてある筈なんてない。そもそもあってたまるか。と、乃亜は少しばかり思った。
「それなら、もう1人の魔法少女と手合わせするッピ」
「もう1人魔法少女が居るの⁉︎」
「それは初耳ピョン」
「いいよね、サクヨ」
同意を求め、全員が咲夜の顔を見ると。
「えぇ……」
すっごく嫌そうな表情をしていた。
事情は知らないけれど、そのような顔をするくらいそんなに嫌悪感を抱いている。何も知らない乃亜からすれば、どんな人物なのかあまり想像し難い。
「わたし、あの人嫌いなんだけど」
「そんなに性格悪いの?」
「悪くはないけど。なんて言うかこう、合わないって言うのかな?」
「でもでも、もしかしたら私となら合うかも」
「だとしたら、わたし乃亜さんのこと幻滅しますよ」
咲夜は凄く優しい子の筈だ。何故なら、魔法少女になるくらいだから。そんな子に、ここまで言わせるなんてその魔法少女はどんな事をしたのか。
「ノアに、秘密結社アークとの戦い方をレクチャーさせるのならあの少女を頼った方がいいッピ。歴はサクヨより浅いけど、場数だけなら圧倒的ッピ」
「と、言っておりますが?」
「……もう、分かりました。どうなっても知りませんよ」
◯
「愛崎? 此処に3人目の魔法少女が居るんだ」
咲夜の家から片道30分の距離で、噂の魔法少女が居る家まで来れてしまった。咲夜もそうだけど、こんなにも魔法少女が身近に居たなんて予想外だ。
昔から言う。魔法少女は、正体を知られてはならない。木を隠すなら森の中って事だ。
「いくよ」
生唾を飲み込みながら咲夜ちゃんは、手汗びっしょりの手でインターホンを押し、家の住人を呼び出した。
「気を付けてよね。あの人は本当に危険で──」
──パリイイイイインッ‼︎
盛大にガラスが割れる音を耳にした私達は、その音の鳴った2階へ視線を集める。
窓が割れて、人影が飛び出した。太陽を背にしながら、乃亜達に華麗な着地を見せびらかす様に地に片膝と足を付ける少女。
割れたガラスは雨のように降り注ぐ凶器となると同時に、太陽の光が反射して美しい絵面とその迫力を目の前に乃亜達は言葉を失った。
「皆さん揃って盛大な訪問。黒美はとても歓喜しております。ええ、すっごくとても最高潮に」
黒い髪のおさげ。黒いオフショルダーに裾の短いスカートとタイツ。
上から下まで全身真っ黒な、乃亜と同じ背の少女が整った顔を上げて微笑みを向けてきた。
「それよりも大丈夫なの? こう、色々と」
窓を突き破ってダイナミックに現れるし、しかも2階から飛び降りたときた。普通ではあり得ない、目を疑う様な光景を目にしたのだ。それに、受け身を取っていた様にも見えなかったしで。
「黒美はこう見えて、意外と頑丈なんですよ。ほら」
力こぶを見せつけて、私鍛えていますよアピール。
「腕じゃないよね。どちらかと言うと脚の方だよね?」
「ノア、この人は愛崎黒美さん」
頭を抱えながら紹介をしてくれる咲夜に乃亜は同情する。
何故、咲夜がこの人に苦手意識を持っているのかその一部を乃亜は触れた。正確には見てしまった、と言い換えた方が正しいだろう。
「何で、窓ガラスを破って来たの? それも2階から……」
「そんな気分だったから」
行動もそうだけど、いざその理由を聞いてみると頭痛がする。まだ出会って数分だけど、正直なところ「かなり危ない人」というレッテルを貼り付けてしまっている自分が居る。
そりゃあ、頭も抱えるし関わらないのが自分の為にもなる。
「それで用件は何でしょうか? わざわざ新しい魔法少女……というより魔法幼女ですね。そんな子を黒美に自慢する為だけに連れて来た、という訳じゃないわよね?」
「えっ、何で私が新しい魔法幼……魔法少女だって分かったの?」
「匂いで分かります。黒美と同じ魔法少女だって。確証までは出来ませんが、貴女の汗を舐めればより確実性は増しますが」
恍惚とした瞳、そして美味しそうに舌舐めずりをしている。
苦笑いをする乃亜の背後で、盾にしては猫のように髪の毛を逆立てて威嚇する咲夜。喉も鳴らして、警戒心はアクアクと戦う時以上のものだ。
「さくよんは警戒心が強いですね。何故でしょうか?」
その見た目や口調であだ名まで付けている始末。愛想はとても良い人だが、思っている以上に癖者というのもまた事実。
「そ、それを貴女が言いますか⁉︎」
「えっ、何かされたの?」
「いえいえ別に何も。ただ黒美は、さくよんの全身を舐め回しただけです。非は一切無いですから気にしないで下さい」
それだ。絶対それだ。この人、明らかにわざと言っているようにも思える。ていうか、全身を舐め回したって。
「な、何ですか乃亜さんその目は。そんな同情するような目でわたしを見ないで下さい!」
(そんなつもりじゃなかったんだけど)
「さくよんは、結構あまーい味でした。特に下が……」
気色の悪い視線を感じた咲夜の表情が青くなり、寒気を感じさせていた。バッ、と咲夜は両手で下半身を覆った。赤面して、何か言いだけな表情で口をパクパクと動かしている。
「ま、さくよんをいただくのは今度にしまして」
「あのド変態ウンコ少女をぺったんこにしても良いよね? 良いよね⁉︎」
「はいはい落ち着いて、女の子がそんな汚い言葉使っちゃダメだよ。あと、さっきから話が全然進んでいないから」
黒美が口を開けば、奮起極まった状態で咲夜も喋るものなので一度落ち着かせる。
「黒美に用があるのは、そっちの可愛い白髪幼女ですよね?」
「幼女言わないで下さい」
「でも事実よね?」
ぐぅの音も出ない。早いところ、ちゃんとした魔法少女になりたい。このままだと、いつまで経っても幼女扱いのまま。
「じゃあ、幼女ちゃんのお名前は何でちゅか?」
「剣城乃亜です」
「のあちーね」
許可無くあだ名呼び。幼女よりはまだマシ。
「のあちーは、黒美に何か用なのかな? 教えてご覧なさい」
なんていうかこの人、キャラが定まってなさ過ぎて調子が狂う。一挙一動がもはや未知。
「魔法少女の戦い方を教えて貰いに来ました」
「それは別に構わないけど、さくよんは何で教えないのかしら?」
「こういうのは、黒美さんの方が適任かと思ったの。わたし、そこまで戦いが得意じゃないしその逆というか。寧ろ争いごとが嫌いだから……」
魔法少女になったからといって、全部が全部変わった訳じゃない。この身が強くなっても精神感情は今まで通り。
本当に思う。咲夜は、魔法少女になるべくしてなったんだって。
「さくよんが嫌なら、黒美は何も言わないわ。魔法も感情も十人十色、その人その人だものね」
黒美が優しげな目で乃亜に微笑んでいる。
「じゃあ早速だけど、場所を変えましょうか。ココモリ」
割れた窓ガラスからバサバサと羽音を立てながら、一匹のコウモリが飛び出しては黒美の左肩にちょこんと乗った。
「クロミちゃんどうしたのココ?」
「いつもの山に行くから乗せてくれるかしら? 皆一緒にね」
「任せてココ! ただ、その分ピュアエナジーも欲しいココ」
「いいですよ。必要な分だけ持って行って」
コウモリは羽を丸めて黒美から、ピュアエナジーを蓄え始めた。
「このコウモリってもしかして」
言葉を喋り、ピュアエナジーの存在も知っている。となると、やはり。
「気になってます? この子もピュアアニマルよ。ココモリって名前なの。よろしくしてあげて」
「クロミ、出来たココ。いつでも羽ばたけるココ」
「それじゃ、大移動しちゃおっか」
ココモリは、蓄えたピュアエナジーを血液の如く全身に巡らせ、両翼を大きく広げて鳴き声を発した。
「大きくなるココー!」
目を覆いたくなる程の光輝。ココモリからそれが発散とし、昼間だというのに遠目からでも分かるくらいの光量が住宅街全体を明るく照らし付けている。
「いやー目が潰れるッピー!」
目が眩む程の光が収まると、ココモリの大きさは人間3人を背中に乗せられる程のものとなっていた。驚愕だ。
「ピュアアニマルってあんな事も出来るの⁉︎」
「「無理無理」」
並ぶラビピョンとピッピーは、2人して首を横に振って全力否定をしている。ピュアアニマルにも何か個体差があるのかなぁ、と考えた。流石にココモリだけっていう例外は無いと思いたい。それにしても。
「ピュアアニマルって本当に不思議な生き物。一体何処から来たんだろうね」
「準備万端ココ。皆乗るココ」
「山に行くって言っていたけど、また何でなの?」
「魔法少女の戦い方を教わりに来たのよね? でしたら、十分に暴れられる場所に移動するのが筋でしょう?」
黒美ちゃんがココモリの背中に乗り、その手を借りながら乃亜達も乗せてもらった。
暫くは、空の上で空中散歩を乃亜達は過ごした。




