第14話 魔法少女は夢をみる
新キャラシュート
夢を見ていた。
普通に生きていれば絶対にその様な事は起きない。そんなハラハラドキドキとした、毎日が退屈にならない出来事に。
夢を見ていた。
TVに放映されている未だ謎深き魔法少女に憧れを持ち、なんにでもなれて、何でも出来るそんな自由を。
そして、夢が現実となった。
何でも叶えてくれる不思議なアイテムを持って、世のため人のためにとわたしは尽くす事を誓う。怖いものなんてない。恐れるものなんてない。いつだって、どんな時だって、わたしの隣にはいつもパートナーである妖精が側に居てくれる。
嬉しい時も、悲しい時も、寂しい時も、時に喧嘩した時も。それは友達であったり、時に家族の様に悩みを相談したり打ち明けたりと。心のよりどころだ。
「ふわぁ……今日もねむねむチンチンだよー」
「こーらっ! 女の子が、そんなはしたない言葉使っちゃ駄目じゃないワン」
「いいのいいのー。どうせわたしは、いつだってそういう女の子ですよーだっ」
薄紫の毛色をしている犬のピュアアニマルの顎を撫でるのは、パジャマにも似た衣装に身を包ませる1人の魔法少女。その子も同様に、薄い紫の長髪をして、ビルの屋上から夜の街並みを見下ろしながらあくびをする。
「ねえ、ワンワン。わたしって、結構頭お花畑なんかなー?」
「急にどうしたのワン? 貴女らしくもないワン」
「うーんとね。さっき、悪女の人に言われたの。『お前は真実を知らない頭お花畑の魔法少女』だって」
ワンワンは眉をひくつかせ、少し押し黙った。彼女はワンワンに教えられた通りに秘密結社アークと戦っては、街の人達を守り、そして勝利を収めている。
沢山の人達に感謝の言葉を頂いており、讃えられている。そんな彼女に失礼な言葉を投げ掛けた今は亡き悪女に、ワンワンはぶっきらぼうに言い返す。
「どっちが頭お花畑かしらワン。そんな言葉に惑わされちゃ駄目ワン。貴女は、貴女が思う正義を貫いて行けば良いワン」
「そーなの?」
「そうワン。例えそれがどんな結果になろうとも、ワタシは貴女が決断したその答えを信じてるワン」
少女の目が少し潤む。そして抱っこしては、顔をうずくめる。
「ワンワンはやさしーねー」
「優しいワン。それはそうと、最近面白い噂を耳にするのだけど聞くワン」
「うん。聞きたい聞きたい」
少女の目は、先程までとは打って変わったキラキラとした輝きを宿したものとなった。興味を惹かれたのは間違いない。
「なら教えてあげるワン。その面白い噂とは!」
「噂とは?」
オウム返しで聞き返したその時、一つの人影が2人を覆った。
「──ピュアアニマルはっけーん!」
瞬間、お調子者の女の子の声がした。その声と殺気を感じた少女はすぐさま跳躍した。それも座ったままで。
跳躍と同時に横一閃に大きな斧が振り翳された。空を裂き、空振りした斧の刃が月明かりの下でその凶器がチラつかせる。
「あぶなーい」
間一髪のところだった。あとほんの僅か、察知するのが遅ければ上半身と下半身が永遠に別れているところ。
「なんて言ってる割には随分とよゆーそーじゃん」
「あっ、黒ギャル」
少女はわざわざ指をさしては目の前にいる相手を小馬鹿にする。その態度が気に入らなかったのか、言われた彼女も言い返す。
「今あっしの事馬鹿にしたでしょ? したよねぇ!」
「一人称『あっし』って、また随分と古い言い草ワン。今令和ワン」
「カッチーン! マジギレ、しちゃうけど良いよね?」
「勝手にしてなさいワン」
黒ギャルの怒りのボルテージが最大まで溜まりに溜まって、それが爆発した。彼女の手に持つ斧に魔力が流れ込み、それが金色に輝いた。
「ぶっころ!」
斧が再度振り翳される。それを少女は余裕の紙一重で回避する。それも全て。避けるその一つ一つの動作は、まるでバレリーナの踊り。軽やかで、鮮やかなステップ。月の下故にその可憐さがより際立つ。
「あ゙ー! マジ腹立つんですけど‼︎」
「それはこっちの台詞。いきなり襲って来て、文句言われるのは筋違い」
「うっさい! 黙れや!」
縦の大振り。それを少女は臆する事なく両の手で白刃取りで受け止めた。
「なっ⁉︎」
紫の魔法少女はとても鍛えている様には見えない。華奢な手足で、筋肉が付いているとは到底思えない。魔法少女特有の身体能力と仮定するにしても、それはお互いに言える。
何か仕掛けがあるとするなら。
「一体何の魔法使ってんの?」
「別に。これと言った特別な魔法は使ってない。それよりも、一つ訊きたいのだけど」
「何よ?」
会話をしながらも静かな攻防は引き続いている。少しでも気を抜けば紫の魔法少女は真っ二つにされ、黒ギャルの方は押し返される。
「どうして、貴女達悪女はわたし達を狙うの?」
「はぁ? アンタそれ本気で言ってんの?」
「うん、本気」
呆れながらも黒ギャルの悪女はその質問に答える。
「ピュアアニマルの悪行。ソイツらが人類にとって、どんだけ害しているのかわっかんないの?」
少女は少し考え、そして口にする。
「分かんない。ので、襲い掛かって来てる悪女を倒してるだけ」
「寝言は寝て言え!」
急激な腕力+魔力の増幅に少女は目の色を変える。堪らず刃を持つ手を離して離脱する。相手の武器を封じるという優位性を手放したのはプラスかマイナスかで考えると、この状況でなら前者だ。
事実、振り下ろされた斧は屋上のコンクリートの床をぶち抜いた。凄まじい威力に目を見張る。あのまま、力と力の勝負を続けていたら間違い無く死が待っていた。
「寝言は寝て言え、か。そーだね、そうしよっか。丁度寝たいし、ふわぁ……」
呑気にあくびをする姿を見て、一層黒ギャルの神経を逆撫でる。
「ハンッ! そんなに寝たいのならあっしが手伝ってやるよぉ!」
巧みに操り、翻弄する斧の前に、少女はなす術もなく四肢を瞬く間に切り刻まれた。手応えはありと感じた黒ギャルは自然と頬が緩んでおり、口角も釣り上がっていた。
「これで」
「──随分と嬉しそうな顔してるね」
「は?」
声のする方へ振り返れば、そこには悠然とあくびをしている少女が居た。切り落とした筈の四肢は健在。それどころか、衣服にすら傷が無いときた。
「もしかして、わたしを倒す夢でも見たのー?」
「こんの!」
高速で少女の死角に入り、今度は首を切って落とした。なのだが、背中から重たいものがのしかかった。
「ふわぁ……あれ? 寝かしつけるのに手伝ってくれるんじゃないの?」
戦慄が走る。明らかにおかしい。手応えは確実にあった。だというのに、彼女は無傷でいる。今まで遭遇した事のない未知の魔法少女。
余裕綽々で浮かべていた笑みはいつの間にか消えており、逆に今は焦燥に駆られて冷静さが失われつつある。
「魔法には様々な性質が存在してる。その中に傷を癒やし、再生するものだってある。けれどね……いくら何でも!」
歯を噛み締め、少女を振り払う様に斧で追い返した。
「死すら回避する魔法なんてあるわけないじゃん‼︎」
「死? 何を言ってるのか知らないけど、わたし死んでないよ?」
「さっきからうっさい!」
「『うっさい』って。そーやって、自分の思い通りにならないとすぐに癇癪起こす癖でもあるの?」
少女は更に口撃する。
「少しは女の子らしく振る舞った方が良いよ。じゃないと最後まで売れ残るよ?」
その瞬間、黒ギャルの中で理性を保っていた糸がぷっつりと切れた。
「フンッ!」
斧で土煙を巻き上げ、少女の視界を遮る。怒りに身を任せながらも、戦闘面では最適解をちゃんと選んでいる。伊達に悪女ではない。
「貴女の精一杯はそれだけ? ま、いーや。悪女だろうと少女が夢見る時間はもうお終い」
煙幕の中から黒ギャルの姿が現れた。それも真っ直ぐに。
(敢えて真っ直ぐ来たという事は煙幕は囮。別方向から襲い掛かって来るという警戒心を煽るための揺さぶり)
「これで死ね!」
斧に膨大な魔力が注ぎ込まれている。それによって斧の形状が変化し、その大きさもまた一段と変わる。身の丈以上となった斧は、一振りで全てを破壊する威力を持つ。
まともな力と力の勝負をすれば、拮抗ではなく一瞬で決着が付く。
でも。
「言ったでしょう」悪女だろうと少女が夢見る時間はもうお終いって」
少女は右手を出し、中指に着けている指輪に魔力を込めて光を灯す。
「悪女だろうと少女が夢見る時間はもうお終いって」
更に目も眩んでしまう程光量は増し、瞬きをしたその時。
「エ゙ッ──?」
頭と手脚を残し、胴体のみが瞬く間に消し飛んだ。バラバラと崩れ落ちる悪女を目の前に、優しげな笑みを浮かべる。
「今度は良い夢見れると良いね」
◯
亡骸と化した悪女を蹴り飛ばしながら、少女は掃除をしている。夜ももう遅い。ずっと我慢していた眠気が一気に爆発しそう。あくびが止まらない。
「ふわぁ……やばい。限界。眠い」
「掃除はちゃんとしないといけないワン。風邪引くワン」
「寝る前にひとつ。面白い噂って何だったのー?」
急激な舵取りにワンワンは呆れつつも、言わんとしていた内容を口にする。
「前に話した魔法少女とピュアアニマル、秘密結社アークの三すくみは覚えてるワン?」
「うい」
「どうやらその真実に触れた別の街の魔法少女が、妖精狩りをしてるワン。どう、面白いと思わないワン?」
「面白いかどうかはさておき、接触してみる価値はありそうね」
ワンワンは少女の肩に乗って頬を舐める。
「魔法少女夢乃。ピュアなハートを夢の世界へ誘います」
夢乃は、口角を上げて夜の街へと消えた。




