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第15話 日常のひとコマ

久し振りとなりました

 いつも通りの日常。いつも通りの学校が終わり、いつも通りの放課後がやってきた。順風満帆に過ごした青春の後には、それと同じくらいのデザートが待っている。


「やあ、のあちー。さくよんも」


 校門前では、髪を風に靡かせながら黒美が待っていてくれていた。特にこの後共に行動する予定は立てていないのだが、何気ない日常の場面。これが友達というやつだ。


「2人揃ってデートですか? でしたら、黒美も混ぜていただければ」


「普通に帰るだけなんだけなんで遠慮しておく」


 身体を寄せて迫る黒美を適当にあしらい、歩き始める。校門を出た辺りで黒美は思い出したかの様に振る舞って口を開く。


「2人共、とある魔法少女の噂を耳にした事ある? なんでも、悪女を千切っては投げ、千切っては投げを繰り返している子」


「だから?」


「興味無いって思って?」


 乃亜は呆れ果てた溜め息を吐き、薄目で黒美の事を見つめる。


「黒美って私の事どう思ってるの?」


「敵に情け容赦無く魔法を使う冷徹で、残忍な魔法少女?」


「色々誤解を招く言い方。はあ、私はあくまでピュアアニマルにしか敵意を向けないの。何でもかんでも噛み付く野犬じゃあるまいし。それこそ理由がないと」


「そうなの? それじゃあ、さくよんはどう思う?」


「わたし? わたしはその……」


 口籠る咲夜に察した2人は目を伏せた。


「ま、さくよんの言いたい事は分かるわ。理由がどうであれ、殺しは良くないって思ってるのでしょう?」


 こくりと小さく頷く。敵とはいえ、元は同じ魔法少女。同じ人間なのだ。形や過程がどうであれ、自分達と同じ人間を手にかけるというのは人としてどうなのか。


「悪女。秘密結社アークに狙われるという事は、それ相応の理由があるって事なんじゃ?」


 誰も理由なくして襲いはしない。それは乃亜だって同じ。その手段に至るのは、あくまで必要と感じた時のみ手段。それ以外での魔法を振るう事は基本しない。


「ところで、その魔法少女の魔法ってどんなの? あと特徴も」


「そーねー。噂によれば、黒美達よりも背が低いのかしら? それと紫でこう、ポワポワとした感じだと聞いてます。それと」


「「それと?」」


 黒美が続きを話そうとした矢先、角から出てきた小さな少女とぶつかってしまう。話に夢中になっていて、完全に乃亜の前方不注意による衝突だ。


「あっ、ごめんね。痛くなかった?」


 右手を差し出す乃亜。それを受け取ろうとする少女。互いの手を取り合った。その時だった。


「「──」」


 2人に電流が走る。手を取り合ったまま、動こうとはせず膠着する。


(この子)


 なんとなく、だけど不思議と同種の類いを感じ取った。多分この事を直感というのだろうか。

 目覚めには早い本能が微かに刺激され、次第に鮮明となっていく。


「貴女、魔法少女ね」


 目の前に居る少女は言い放たれた言葉に目を丸くさせる。その反応だけで確信へと変わる。まさか本当に魔法少女とは思わなかった。案外、自分の直感は当たりやすいのかと自信もついた。


「そっちも、魔法少女だよねー?」


 乃亜は表情を特に変えない。寧ろ、こちらが気付いて相手が気付かない訳がない。そのような言葉が返ってくるのは想定内。


「この辺りじゃあまり見ない顔だけど、最近新しくなったのかな? それとも、巷で話題となっているかなり強い魔法少女かな?」


「ちょっと乃亜」


 いくらなんでもその尋ね方はあまりにも失礼極まりない。これではまるで喧嘩腰だ。何をそんなにヒリついているのか、咲夜には分からない。

 魔法少女にも人間だ。自分達の様に温厚な魔法少女ばかりではない。中には誰彼構わず戦闘を仕掛けてくる狂気的な人も居ないとは限らない。


「ご、こめんね! ほら行くよ乃亜。黒美もそんなマジマジと見ないの。みっともない」


 2人の背中を押してその場を後にしようとする。ただでさえ、ピュアアニマルの件で空気が重苦しくなっているのだから、学校くらい平凡に過ごして欲しいとつくづく思う。


「貴女達こそ、最近ピュアアニマルから聞いた噂の3人組トンデモ魔法少女だよね? わたし知ってるよー」


 ピタリと乃亜は足を止める。続いて背中を押していた咲夜の顔が後頭部と打つかる。鼻を軽く痛めて疼くまる彼女だが、乃亜はそれを全く気に留める事もなくゆっくりと振り返りこう言った。


「今、何て言った?」


「だーかーらー、あのトンデモ3人組の魔法少女だよねーって」


 言い切るより早く、乃亜は怨嗟刀を抜刀して喉元へその切先を突き付けていた。


「聞き違いじゃなければ"ピュアアニマルから聞いた噂"って。はは、冗談で笑えるのは最初だけだよ」


「噂よりもえらい物騒だ」


 少女の喉に、一雫の赤い液体が肌を伝って流れ落ちる。脈絡も無く脅されているにも関わらず、目の前に居る少女は至って冷静。この状況の危機など然程感じ取ってない怖いもの知らずか。それとも。


「ピュアアニマルから話を聞いたって言っただけなのに、この態度はいくらなんでも殺意あり過ぎる。わたしが一体何をしたっていうのー?」


「あの妖精共と随分と仲良くしている。それだけで十分よ」


「あーそういう解釈の仕方しちゃう感じ? いくらなんでも早とちり過ぎるし」


 乃亜にとってピュアアニマルとの接触=敵という認識。それが少女にとってとても理不尽なもの。話し合いの余地が無いと、思われても仕方ない。


「わたしにだって人脈ルートというものを形成しててー」


「そりゃ随分と信用性に欠けた人脈ルートだね。今すぐ縁を切る事をお勧めするよ」


「乃亜、話が一方的に過ぎるよ! 黒美もなんとか言って止めてよ!」


「黒美もそうしたいのは山々ですが、最近ののあちーは急速に力を付けているの。止めるのに骨が折れるから、あまりやりたくないのだけど」


 そんな事を言われても、街中で魔法少女同士がぶつかり合えばどれだけ周囲に被害が及ぶか。面倒だろうがなんだろうが、今は乃亜を抑え込みたい。


「とにかく、少しばかりお話しようか」


 乃亜が手を伸ばしたその時だった。


「アクアクゥー‼︎」


 突如として現れた怪物アクアク。同時に市民による恐怖の絶叫合唱。流石の乃亜も、手を止めてはアクアクの方へと視線を向ける。


「悪いけど今、取り込み中なの! 怨嗟刀!」


 ノータイムで乃亜は魔法少女へと変身をし、魔力を怨嗟刀に込めて刀身を光らせる。刀の平地にアクアクが映り込んだ瞬間、即座に縦真っ二つに斬られて霧散する。


「それが、貴女の魔法少女としての力なんだね」


「邪魔者は居なくなった。これで話の続きが」


「と、思うじゃーん? アクアクが居たって事は、すぐ近くに悪女が居るって思わなーい?」


 少女の言うように、4人に新たな影が差し掛かった。上を見上げれば、こちらを建物の屋上から1人の女性が見下していた。


「悪女は私達に危害は加えないみたいだから、あんなのはガン無視よ」


「貴女がそうでも、あっちはそうはいかないみたいだよー」


 悪女が何かこちらへ投げ付けた。太陽を背にしている為、それが何なのか不明。しかし、キラキラとしたものが微かに見えて。


「のあちー、さくよん。アレ、ダイナマイトみたいよ」


「だ、ダイナマイト⁉︎」


 咲夜からお手本のような反応があった時、ダイナマイトと認識したソレは乃亜達4人の頭上で爆発した。爆音、爆撃、爆風が辺り一面に襲い掛かり、派手に吹っ飛ばした。


 乃亜、咲夜、黒美の3人は大きく後退して直撃は免れた。が、もう1人の少女の姿がない。


「のあちー、一瞬足を出したの見えたけどもしかしてわざと?」


「あの程度避けられない方が悪い」


 どうやら後退する直前で、乃亜は意地悪く少女を蹴り飛ばしてダイナマイトの雨の中に置き去りにしたのだ。それも、自分は何も悪くないといった素振りなうえ相手に非があると口にする始末。


「それで、これからどうします?」


「邪魔をするんなら排除するまで。といったところかな」


 完全にスイッチが入った。足腰を屈め、跳躍の準備へ移行する。


「事情がどうであれ、こっちの会話を遮ったんだ。ちょっとだけ痛い目に遭って貰うから」



 ◯

 


 地面を蹴り、瞬く間に悪女が居る建物屋上まで辿り着いてひと息吐く。相手と相手で、一瞬で距離を詰めて来るとは思いも寄らなかったのか乃亜の姿を見て言葉を失っていた。


「その表情。この高さまで来るなんて予想外だったかな?」


「逆だ。ここまで予想通りだとは思わなかった。ただひとつだけ言うことがあるとするなら、あの魔法少女乃亜があいつと接触してるなんて意外だったと」


「さっきの人知ってるんだ」


 秘密結社アーク側が知っているとなると、それなりの情報源だったのが悔やまれる。


「残念だけど、あの子は貴女が放り投げたダイナマイトで吹き飛んだよ。嗚呼、可哀想に」


「ふわぁ……死んでないよー」


「「ッ⁉︎」」


 乃亜と悪女は声がする方へ体全体を向けて振り返った。そこには、先程の少女が眠たそうに目元を擦りながらあくびをして腰を落としていた。


「無傷?」


 よく見ると、ダイナマイトで浴びた爆撃の傷は何処にも見当たらない。それどころか、土埃すら衣服に付着していない。それに加え、2人に気付かれずこの場に現れた事への得体の知れなさ。


「危なかったー。大丈夫?」


 少女は誰かに心配の声を掛けた。一体誰に言っているのかと思っていると、彼女の裾部分から何か蠢いた。そこから顔を覗かせたのは、魔法少女の相棒とも呼べる生物。


「わっふ。息苦しかったワン」


 1秒とも満たない刹那の間。信じられない速度で怨嗟刀に魔力を流し込み、目に映った犬のピュアアニマルに向けて魔法を発動させる。

 簡単にピュアアニマルの頭部は宙を舞い、冷たいコンクリートの上に転がり落ちる。


「なるほどー。どうやら噂は本当だったみたい」


「警戒しといて正解だったワン」


 斬られたピュアアニマルが霧の如く塵となって消える。


「幻覚?」


「幻覚じゃないワン。これは彼女の夢ワン」


 霧散した筈の塵は次第に集まり、元の形と成していく。目の前の事態に乃亜と悪女は目を奪われている。それが油断となった。


「何が起きて──ッ⁉︎」


 ほんの少し。隙を見せてしまった乃亜の身体に異変が生じる。急に右の視界が暗く閉ざされ、左腕の感覚が無い。そのうえ、お腹には内側から手が生えていた。


「魔法少女夢乃の夢の世界へようこそワン」


 とても理解し難いが理解した。右の視界は閉ざされたのではなく無くなった。頭の右側が頭蓋骨ごと消し飛んでいる。左腕も残った左目で確認すれば足元に落ちていた。そしてお腹には手が生えているのではなく、正確には背後から貫かれていた。


「夢のワンワンだけど、一応ね。ほら、ワンワンの頭斬っちゃったから自分もこうなる覚悟はあるよね」


 夢乃は無慈悲に手を引いた。そして、ついで感覚で乃亜の長い小腸を引き摺り出していた。

 事実を受け止めれぬまま乃亜は膝を落とし、前に倒れ込んで動かなくなった。


「ふわぁぁ……おやすみなさい」


 血の池にて、乃亜はそのまま瞼を閉じるのだった。

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