3 古代種が恐れた少女、上位捕食者レイリア
古代種の咆哮と同時に、空間が裂けた。
黒い奔流が一直線に俺へ迫る。
視界の端で数値が点滅する。
【改竄残数:0】
終わった。
改竄できない。
削れない。
止められない。
死。
その二文字が脳裏を過った瞬間――
世界が、凍った。
いや、違う。
止まったのは時間ではない。
数値だ。
【古代種】
力:■■■■
魔:■■■■
その表示が、更新をやめている。
黒い奔流も、空中で“固定”されていた。
まるで誰かが、この世界の更新ボタンを押すのをやめたみたいに。
足音が一つ。
静かな、柔らかな音。
振り向くと、そこに少女が立っていた。
銀色の髪が、動かない空気の中でだけ揺れている。
蒼い瞳。
無表情。
だがその視線は、古代種をまっすぐ射抜いていた。
古代種が、初めて後退する。
『……なぜ、貴様がここにいる』
声が震えている。
あの圧倒的存在が、恐れている。
少女は答えない。
代わりに、空間へ指を伸ばした。
ぱきり、と。
何かが砕ける音がした。
【古代種】
力:■■■■ → 更新停止
魔:■■■■ → 更新停止
「捕食、完了」
淡々とした声。
黒い奔流が、音もなく消える。
数値が、削れたのではない。
“凍結されたまま、存在できなくなった”。
理解が追いつかない。
俺の改竄は内側から削る行為だ。
だが彼女は違う。
世界そのものの更新権限に触れている。
少女がこちらを向いた。
その瞬間、俺の視界に表示が浮かぶ。
【レイリア】
力:表示不能
魔:表示不能
種族:上位捕食者
上位――捕食者?
古代種が呻く。
『やめろ……我らは管理構造の一部だ……』
レイリアは静かに首を傾げた。
「だから、食べるの」
次の瞬間。
古代種の数値が、完全に“消えた”。
ゼロではない。
削除でもない。
最初から存在しなかったかのように、表示そのものが消失する。
世界が、再び動き出す。
風が吹き抜ける。
森の音が戻る。
だが古代種は、いない。
レイリアは俺の前まで歩み寄った。
至近距離。
透き通る瞳が、俺を覗き込む。
「あなたも、外側の干渉者?」
心臓が跳ねる。
俺は、答えられない。
彼女は小さく息を吐いた。
「なら、まだ死なせない」
その言葉に、わずかな温度があった。
次の瞬間。
遠くの空で、赤い警告が走る。
【管理構造:異常検知】
【上位存在干渉確認】
空がひび割れる。
レイリアが空を見上げ、初めて眉を寄せた。
「……来る」
俺は理解する。
古代種は、序章にすぎなかったのだと。
そして俺は、彼女と同じ側に立ってしまったのだと。
空が裂ける音がした。
――続く。




