2 S級試験ダンジョン、改竄は一日三回だけ
空気が裂けた。
老人の杖が床を打った瞬間、視界が白く塗り潰される。
「試験だ、改竄者」
落下感。
次に足が触れたのは、石ではなく“骨”だった。
巨大な空洞。
天井は見えない。
赤黒い霧が満ちている。
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【試験空間:深層相当】
危険度:S
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「……いきなりS級かよ」
返事はない。
代わりに、地面が割れた。
現れたのは四足の魔獣。全長五メートル。牙から紫電が走る。
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【雷牙獣】
力:380
魔:420
種族:魔獣
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AAAの三倍。
通常なら即死だ。
だが俺は、恐怖より先に“数値の縁”を見る。
触れられる。
だが――
警告が走った。
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【改竄残数:3】
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残数?
さっきまで、そんな制限はなかった。
世界は俺を観測し、制御を始めたのか。
雷牙獣が跳ぶ。
速い。
避けられない。
俺は一つ使う。
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力:380 → 3
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巨体が空中で失速する。
着地と同時に地面へ沈む。
続けて削る。
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魔:420 → 4
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紫電が霧散した。
魔獣はただの大きな獣になる。
最後の一手。
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種族:魔獣 → 兎
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光が弾けた。
そこに残ったのは、小さな白い兎だった。
静寂。
S級相当が、一瞬で無力化。
だが同時に表示が変わる。
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【改竄残数:0】
【次回復:24時間後】
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「……一日三回か」
無限ではない。
観測された瞬間、枠を付けられた。
俺が世界を書き換えるのではない。
世界が、俺を“管理可能な存在”へ落とし込んでいる。
そのとき。
空間が歪んだ。
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【監査ログ】
未定義個体:アルセモニウス
干渉成功率:100%
危険度:上昇
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霧の向こうに、老人の気配。
「理解したか?」
声だけが響く。
「力とは、許容量だ」
天井が割れる。
次の魔物の気配。
だが、改竄は使えない。
残数ゼロ。
素の俺は――
力:1
魔:0
ただのZだ。
影が落ちる。
巨大な何かが降りてくる。
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【試験最終体】
力:???
魔:???
種族:古代種
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観測不能。
数値が表示されない。
つまり、触れられない可能性。
初めて、本物の恐怖が走る。
「三日後と言ったが、訂正だ」
老人の声。
「今日生き延びられれば、だ」
巨影が咆哮する。
改竄はない。
数値は動かない。
俺は拳を握る。
ゼロは、何も持たない。
だが――
何も持たないからこそ、
まだ“書かれていない”。
巨体が振り下ろされる。
第二の選択が、迫る。




