1 俺だけが数値を弄れるらしい
「見ろよ。あれがZだ」
嘲笑は石壁に反響し、何度も俺を刺した。
ギルド中央の水晶板に、俺の数値が浮かぶ。
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【アルセモニウス】
力:1
魔:0
種族:???
総合評価:Z
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魔力ゼロ。
この世界 《ギガンディア》において、それは“存在しない”と同義だ。
剣も振れず、魔法も撃てず、祝福も受けられない。
Zは最下層。いや、そのさらに下だと誰かが笑った。
「荷物持ちにしてやるよ。Zは荷物だ」
AAAランクの男が俺の肩を掴む。
周囲がどよめいた。
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【ラクタ】
力:120
魔:145
種族:人
総合評価:AAA
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眩しい数字。
信頼。尊敬。暴力。
この世界は三項目でできている。
力。
魔。
種族。
すべては数値に還元される。
――だが。
俺だけは違う。
俺には見える。
数値の“縁”が。
境界線が。
触れられる余白が。
値は絶対ではない。
ただの記述だ。
俺はラクタの表示に、そっと指を伸ばした。
撫でる。
削る。
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力:120 → 12
魔:145 → 14
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「……?」
男の表情が歪む。
次の瞬間、膝が崩れ落ちた。
「な、なんだ……力が入らねぇ……」
ざわめきが広がる。
俺は静かに告げた。
「数値に頼りすぎだ」
もう一度、触れる。
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力:12 → 1
魔:14 → 0
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完全に、俺と同じ値へ。
AAAが、Zへ堕ちた。
男は床に伏し、震え、何もできない。
ギルドは凍りついた。
「嘘だろ……ZがAAAを……?」
違う。
俺はZじゃない。
ゼロだ。
どこにも属さない点。
観測の外側。
だからこそ、枠をずらせる。
そのときだった。
「面白い」
低い声が、空気の層を変えた。
振り向く。
いつの間にか、老人が立っている。
誰も気づいていなかった。
だが俺は理解する。
空気の密度が違う。
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【???】
力:1
魔:1
種族:?
警告:観測されています
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触れられない。
表示が揺れる。
固定値ではない。
演算中。
いや――俺を演算している。
「弄ったな、少年」
老人が杖を鳴らす。
コツン。
世界が、重くなる。
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【空間】
力:5
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床鳴りが止まり、空気が押し潰すように満ちる。
これは個ではない。
層だ。
構造そのものを触っている。
俺の喉が初めて乾いた。
「三日やろう」
老人は微笑む。
「改竄者として排除されるか」
一拍。
「管理側へ来るか」
管理。
世界の数値を決める側。
俺は初めて理解する。
この世界には“触っていい場所”と
“触れてはいけない場所”がある。
そして俺は、すでに踏み越えている。
老人の姿が揺らぎ、消えた。
痕跡はない。
ログもない。
弱体化した男が俺を睨む。
だが、もう興味はない。
三日後。
消されるか。
それとも。
俺は拳を握る。
数値では測れない震えが、確かにあった。
Zではない。
ゼロだ。
世界の外側から、世界を書き換える者。
三日後――
俺は“定義”される。
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