父さんの会社へ
「あたしの事をバイト先に送っていて平気なの?」
「おう!昼過ぎに行けば平気だからな」
「ところで、明日は専門学校のオープンキャンパスに行くんだよね?ちょっと緊張する」
「生徒のほうは夏休みだけど、俺達みたいな見学組はいるだろうけど俺が一緒だから安心して」
「よろしくね旦那様」
今日は父さんの会社に昨日釣り上げたヒラスズキを持参する。で、雪華はバイトなんだけど同じシフトが明槻さんと鳳来さんだから来客がいない時は昨日の釣りの話になるんだろうな。そんな事を考えながら歩いていればバイト先に到着する。
「あ、姉御先生お久しぶりです!しばらくお会い出来なかったので安心しました」
「まったくお前というやつは。心配性というか何というか……」
「事務所にいつもいる人と会えなければ心配になりますって」
「まあ、健康面に問題無いし、その…妊娠もしていないから安心しろって」
「了解っす」
と、ここで姉御先生の息子の奏汰君が見上げているのに気がついたから抱き上げる。
「へーイ、奏汰くーん」
「キャッ、キャッ」
姉御先生に会えなければ息子君にも会えないんじゃねーの?と思うかもだけど、夏休みになってからは愛美と朝輝の送迎で保育園に行く機会が多いから会えることがあるんだよねー。だから、知らない人に格下げになっていないから泣かれないんだよ。
午後の2時過ぎ、父さんの会社へとやってきた。
「企画部所属の内宮の息子ですけど、アポ取りはしてあります」
「はい、連絡が来ております。念の為、身分証の提示をお願いいたします」
「はい。高校の学生証になります」
「確認しました」
「それと失礼ですが、その箱の中身は何でしょうか?」
「こちらは本社社長にお見せする魚になります。ご覧になりますか?」
「では、念の為に」
受付の人が父さんに連絡してくれたみたいで、入社証を首から下げてからクーラーボックスを開けていると父さんが迎えに来てくれた。
「今日はこのまま社食のあるフロアに向かうぞ」
「はいよ」
社食の調理は終了していて、食堂内は先日お会いした本社の社長や支社長が集まっていた。
「はじめまして。本社広報部に所属しています。本日は取材をさせていただきますのでよろしくお願いいたします」
「そうなんですか。よろしくお願いいたします」
父さん「申し訳ないのですが、息子はまだ学生で支社にも所属していないので顔出しはNGでお願いします」
「そこは承知していますので、ご安心下さい」
父さんがやり取りをしている中、俺は準備を進めていく。
「では、こちらが自分で釣ってきたヒラスズキになります。それで、こちらが購入していただいたマルスズキですね。体長の差は関係無いから見分けるポイントは変わらないのでもう一度説明しますね」
という事でマルスズキとヒラスズキの違いをもう一度説明する。比較対象があるから社長達の反応も上々だ!
さて、次に味を知ってもらおうと捌き始めようとしたんだけどパーティで怒られていた社員が小バカにしたような薄ら笑いをしているのが気になったから指摘してやった。
「あのぉ、釣ってきたのが小さいって雰囲気が後ろにいるパーティにいた方から感じるのですが、購入するとなると値段は全然違いますからね?」
「何?」
「後方で腕組みしながら見ているあなたですよ!そこからなら見えないと思ったんでしょうけど、生憎と俺は視力が抜群に良いんで顔の表情まで丸見えですよ」
「キミぃ、ここに来た目的を忘れたのかね?悪いが場の空気を乱すのなら退出してくれるか」
「チッ。わかりましたよ」
「あのぉ、値段が違うというのは具体的にどの位違うのですか?」
「そうですね、卸価格で2〜3倍で小売になると4〜5倍になりますかね」
「そ、そんなに違うのですか?」
「はい。マルスズキと生息環境が全然違うので漁をするのも難しいんですよ。台風中継で白波が岩場に打ち寄せている光景を見た事がありますよね?ああいう環境が好きな魚なんですよヒラスズキって。なので、荒磯の王者なんて呼ばれているんですよ」
「なるほど。そんな環境下で釣ってきたんですか?学生なのに危険ですよ!」
「あ、安心して下さい。成魚サイズは無理ですが、このサイズは比較的釣りやすいんですよ。ただし、生息場所を知っていればという前提がありますが」
「そうなんですね」
「では、捌いてみますね」
「あなたが捌くのですか?」
「はい。プロの調理人からすればまだまだ、だと思いますけどね。家庭で調理する分には十分な技術はあると思ってます」
まずはマルスズキからなんだけど、旬の時期という事もあり脂のノリがいい。
「見えますかね?このラードみたいな部分が見た目通り脂になります。塩焼きとかの熱処理をする調理方法がオススメですね」
マルスズキを三枚おろしにしたら、次はヒラスズキの番。
「その青白い光のライトは何ですか?」
「これはアニサキスライトですよ。寄生虫のアニサキスを簡単に探すことが出来るんです。食中毒は怖いですからね」
「へえ。便利なのがあるんですね」
「それではヒラスズキは刺身と炙り刺身に調理しますね。支社長から、刺身での提供まで頼まれていますので」
「炙りなんて出来るんですか?ガスバーナーなんて無いですよ」
「ここで活躍するのが卓上バーナーです。これで皮目を焼いてあげると、ご覧の通り炙りの完成です」
社長と支社長、それぞれの秘書課の方数名、本社広報部の方数名と人数が多いので刺身も炙りも数切れずつなので、社食のお皿を利用させてもらい提供させてもらった。
皆が食べている間にマルスズキの塩焼きを準備する。流石は社食の調理場で、多人数対応が出来るから人数分の塩焼きもあっという間だった。
「今日は色々とありがとう。部外者のキミに詳細は言えないが、参考にさせてもらえるとても有意義な時間だったよ」
「ありがとうございます」
本社の社長からお褒めのお言葉をいただき、今日のミッションは無事終了!
使用させてもらったお皿や包丁とかは丁寧に洗って片付けておいたぞ。




