来週からテストなのに釣りに来た
「息抜きも大切よ。それに、明日は月曜の試験科目をちゃんと勉強するし」
鳳来さんの言葉に頷く明槻さんと笹嶋さん。
さて、テスト前週間の土曜に釣りへとやってきた。理由はバイトも強制で休みになるからだ。参加者は烏野さん以外となっている。烏野さんは県内の大学にも進路希望があるみたいで勉強する事が増えるみたい。進学コースは東京にある有名大学向けだから、そちら側へのクラス替えはしなかった模様。ま、進学コースもガチな進学校の大学向けでは無いんだけどさ。
「じゃあ、雪華はキスやコチの底物狙いで頼むな。キスの小型で飼育サイズの個体が釣れた場合は、今飼育中の個体と入れ替えるから」
「Kyllä」
雪華に底物を狙ってもらうのは金曜まで一緒に登校した青イソメを消費する為。一応、来週の月曜からも持参するけど、それは明日新しいのを購入する。
「それじゃ、俺はすぐ下の岩場でやってるから。上の状況を確認しながらやるけど、何かあればすぐに教えてくれよ?」
「Ymmärretty」
そして、俺の狙いはアオリイカ。産卵期間が近づいているから、狙う人達が増えるからな。釣れる場所はその人達ばかりになるからやらなくなるし。
エギのルアーを十数投したところで本日最初のイカを釣り上げたから、クーラーボックスに入れる為に防波堤に上がる。
「あ、ひろ君。こっちはさっきまでカタクチイワシとコノシロが入れ食いだったよ」
「おおー、いいねー」
笹嶋さんのクーラーボックスを確認するとカタクチイワシとコノシロが大漁だった。ただ、コノシロは体長が“シンコ”サイズだな。
鳳来「内宮さ、コノシロってどんな味なの?」
「寿司ネタのコハダは知ってる?あれと同じだよ」
「う〜ん。うちが食べたのは魚の味より酢の味のほうが強かったから良くわからないな」
「イワシやアジが好きなら、好きな魚になると思うよ。ただ、小骨が多いから注意してね」
「なるほどね」
「ちなみにコノシロもブリとかと同じで体長によって名前が変わる魚でさ、このサイズはシンコになるかな。もう少し成長したのがコハダだよ」
「へえ〜」
「雪華の釣果はどうだ?」
「ご覧の通り、良型のメゴチが一匹だけ。ま、さっきまでサビキ釣りをしてたからイワシとシンコは確保済だけどね」
「ま、潮の流れが少ないから仕方無いか。朝や夕方のマズメ時じゃないと無理かもな」
「だね。アジの回遊も無いみたいだし」
「よし、俺もイカ釣りに戻るな」
「うん、お互い頑張ろうね」
「おうよ」
5月とはいえ、今日は暑いから水分補給をこまめにしている。すると、防波堤側がキャーキャーと騒がしいのに気付く。雪華から呼ばれてはいないけど念の為に防波堤に上がる。
「何かあったのか?大丈夫か?」
「あ、ひろ君ごめんね。サビキのイワシにマダイが食い付くハプニングがあって騒いじゃったの」
「そうか、安心したよ。あれがそのマダイか」
「うん。防波堤だとかなりの良型だよね」
「船釣りして来たって言われても納得のサイズだな」
「だよね」
釣り上げたのは明槻さん。今は記念撮影をしているんだけど、表情が苦笑いに見えるのは気のせいだよな?
俺も岩場に戻って再開すると、またもや騒がしくなった。ああ、もう!気になるからイカ釣りヤメて防波堤に居ることにしよう!納竿予定の時間までまだあるけど騒ぎに慣れて惨事に気付かないってのが一番怖いからな。
そう思いつつリールを巻いていると、ルアーに何かが絡まったらしい。うわ、面倒臭いなと思いつつリールを巻き続けると様子が変なのに気付く。念の為に慎重に手繰り寄せて玉網の中に入れて正体を確認するとバラさなくて良かったとホッとひと息する。
「また騒がしかったけど、今度はどした?大丈夫か?」
「あ、ひろ君。何度もゴメンね、マダイが群れでいたみたいで全員が釣れたから騒いじゃったの」
「潮の動きが悪いのに珍しいこともあるもんだな」
「それより、ひろ君もまたアオリイカ釣れたんだね」
「残念ながら、これはアオリイカではなくカミナリイカだ」
「これはアオリイカでは無くてカミナリイカ。モンゴウイカと言ったほうが馴染みはあるかな?」
俺がイカをまた釣り上げたと聞いて来た皆に説明する。
笹嶋「モンゴウイカなら知ってる。肉厚で美味しいよね」
「だね。それと、イカスミパスタの墨で多く使われるコウイカと同じ仲間だから、スミの量が豊富で気を付けないとスミを吐かれて大惨事になる可能性もあるんだよ」
「「「なるほどね〜」」」
カミナリイカの説明を終えて、クーラーボックスの上に座って皆が釣りをしている様子を眺める。
雪華「もうイカ釣りしないの?」
「ありがたい事に蔵持先生の分も含めて全員分のアオリイカは釣れたからね。カミナリイカなんて偶然だから無理だしウチの分だけ」
「でも、全員分釣れるなんて珍しいね」
「もしかしたら、海藻の繁茂具合とかを確認しに来てたのかもな。これより大型の個体はいるんだから産卵に良い場所は大型個体に占領されているだろうし」
「そっかー」
「それじゃあ、また月曜にね」
笹嶋「いつも悪いよ。気にしなくてもいいのに」
鳳来「そうよ」
「気にしてないよ。ウチの分しか釣れてない時は渡さないだろ?」
明槻「まあ、そうだけど」
「このサイズは今回が最後になるからさ」
「「「ありがとう」」」
最寄り駅に戻ってきた俺達は駅で全員とお別れする。アオリイカを渡したからクーラーボックスが重くなるから帰りの電車内で迎えに来るように親御さんに連絡してもらっていたのだ。
烏野「内宮君」
今日は不参加だった烏野さんが最寄り駅まで来てくれた。本当は明槻さんと自宅マンションが一緒で知っているからマンションに届ける予定だったけど、申し訳ないから親の車で駅に行くと言われたのだ。何か不都合があって駅を指定した可能性もあるから素直に同意した。
「あ、烏野さん悪いね勉強中なのに」
「いえ。それより参加していなかったのにいいんですか?」
「お礼なら参加した皆に伝えて。烏野さんの分も最初から釣るつもりだったみたいだから」
「わかりました」
「これが今日の釣果のカタクチイワシとアオリイカね」
「イワシは大漁だったんですね!それに、高級なアオリイカもいいんですか?」
「もちろん!イカ釣り自体が面白いからさ、それの釣果だから気にせずに受け取って」
「ありがとうございます」
「それじゃ、また月曜に」
「はい!」
烏野さんと手を軽く振って別れたら高校経由のバスに乗り、蔵持先生のお宅に。
「来週からテストですよ?」
「そんな事を言うなら渡しませんよ?」
「ごめんなしゃーい。一応、先生として言っとかないとってだけなのー」
「わかりましたよ。明日の日曜は月曜の科目の勉強をするので安心して下さい」
「それなら安心ですね」
安中先生が玄関に歩いて来たのが見えたのかキリッとした表情に変えて俺からアオリイカを受け取る先生に雪華が後ろを向いて笑いはじめた。悪いけど俺の分も一緒に笑っといて。
「烏野さんと蔵持先生にマダイは渡さなかったんだね」
「笹嶋さんは桃瀬さんの分も自力で釣り上げたけど、二人の分は無いから仕方無いよ。雪華が一緒になって釣ったマダイはウチの分だし」
「蔵持先生にカタクチイワシを渡さなかったのは?」
「アオリイカだけで十分かなって。このカタクチイワシは蔵持先生用に釣ってないからさ」
「そっか」
蔵持先生と別れて、バスの車内で雪華と会話しながら俺達も家路につく。
帰宅して、鮮度落ちするカタクチイワシだけは晩飯のおかずとして食卓に並び、イカやマダイやその他の魚種は明日以降に食べることになった。




