終業式とめかぶ料理
「君、それは何ですか?」
「校長へお渡しする物です」
「中身を見せなさい!」
今日は終業式でいよいよ明日から高校在学中では最後の春休みになる。
そんな終業式の日に俺は発泡スチロール箱を持って登校したら、先生から注意をされてしまった。この先生は先日、産休になった代わりの先生で俺の奇行をまだ知らないから注意をしてきたみたいだな。ちなみに男性教師だ。
「ここで開封するのは生モノですから無理です。それに、持参したのは生徒ですがこれは校長の私物ですよ?注意を受けるのは先生の方ですよ?」
「ぐぬぬ……」
ぐぬぬと唸っている先生の横を通り過ぎ、教室へと向かう。
「その先生に餅つき機の時に出会わなくて良かったね」
雪華は先生と出会う前にトイレに行きたいとの事で先に行ったからいなくて良かった。万が一、矛先を雪華の髪色に向けられたら許せないからな!まあ、先生間で地毛なのは知れ渡っているし、念の為に証明書もあるから責められるのはあの代理の先生のほうだけど。
講堂での終業式の内容は、3年に進級して受験や就職に忙しい日々になる俺達2年に対する言葉と、春休みにハメを外すなよ?との内容だった。
そういや、俺達が1年の時の終業式恒例だった校長の頭髪に関する発言は聞かなくなった。もしかしたら、当時の3年にワンパクな問題児がいたのかもな。
「教頭先生!彼ですよ、登校時に注意したら校長へ渡す物だと言ったのは!」
「ああ、彼ですか。彼にはこの学校の教師は色々とお世話になっているんです。産休明けの先生が復帰してからも、この学校の教師でいたいなら彼とその恋人にはチョッカイを出さない事ですね」
「な!」
終業式も終わった放課後に校長室へ向かう為に俺が職員室前を通過しようとすると今朝の先生が俺を指差してムキーしてきた。でも、隣にいる教頭が俺の味方をするもんだから茫然と校長室に入る俺を見ていたので笑いそうになった。
「校長!以前話した“めかぶ”を入手したのでお持ちしました!」
「待ってました!」
「生鮮品なので渡す箱は開封せずに、試食用に持ってきたのがあるので調理室に行きましょうか」
「わかった。箱はこのテーブルの上に置いてくれて構わないよ」
「わかりました」
校長室を出て、職員室にいる多澤先生に調理室のカギを開けてもらい入室する。
調理室の備品の鍋をまずは洗って、水を入れて沸騰させる。
「これが鮮度抜群のめかぶになります」
「ほう。焦げ茶色なんだね」
「はい!スーパーなどて市販されている生ワカメは釜揚げした物を加工しているので鮮やかな緑色ですが、海中での本来の色はこれになります」
「なるほど」
「何となくテレビ等で聞く事があるかも知れませんが、旬の食材は栄養価が高いので食べるべきと考えています」
「確かに、聞いた事があるな」
そんな会話をしながら、めかぶをキッチンバサミで切り分けていると、水が沸騰した。
「では、実際に鮮やかな緑色になるのをご覧下さい」
沸騰したお湯の中にめかぶを入れると一瞬で鮮やかな緑色に変化する。
「おお!」
「これをまな板の上で包丁でたたくと、加工品や料理で良く見る粘り気が出てきます」
「確かに」
「なので、お湯に入れる前にキッチンバサミで切り分けておく必要があります。湯通しした後まで、とはいかないですが生の状態でも多少粘り気はあるので包丁よりもキッチンバサミのほうが扱いやすいですよ」
「なるほどな。妻に伝えておこう」
「折角なので、たたいて刻んだめかぶにうずらの生卵1個とかつお節を少々加え、醤油を少し垂らしたのを召し上がって下さい」
「これは美味いな」
「ポン酢や酢醤油など、お好みの味付けにして下さい。もちろん、山芋やオクラなどのネバネバ食材と一緒に調理してもいいですよ」
「ところで、乾燥させたら昆布のように出汁は出るのかい?」
「残念ながら無理ですね。ワカメと同じ扱いになりますから」
「そうか。なら、味噌汁にもいいんだね?」
「もちろんです。ただ、食べる前に味噌汁に軽く湯通しするだけにしたほうがいいかと」
「わかった!いや〜ありがとう」
「いえいえ。では、めかぶ料理の作製に移るので一旦退室をお願いします」
「うむ」
そう言って上機嫌に出て行く校長と入れ替わるように、雪華含めた内宮班が入ってくる。
「えー、それではこれより先生方に振る舞うめかぶ料理の作製を開始します。厳さんと昌史は酢めし作りを頼む。熱いから交代でな」
「「おう」」
今日は、ひな祭りの時にウチでやったような団扇では無くてハンディファンを使用する。
「下津木さんと新山君は山芋のすりおろしをお願い。山芋は直接触れるとかゆくなるから使い捨て手袋とハンドタオルを使って慎重にね」
下津木「手を洗えば平気では?」
「それが、液体石けんで洗ってもかゆみがあるのが山芋なんだよ。個人差があるとは思うけど、少しの間はかゆくなるから一応ね」
下津木「わかりましたわ」
「それじゃあ、めかぶ関連は俺と雪華と笹嶋さんでやるから、ご飯の盛り付けとか味噌汁作りは鳳来さん達で頼むな。酢めし作りは本当に大変だから急かす事はしないであげて」
鳳来「もちろんよ」
という事でそれぞれ作業開始。今日のメニューはネギトロ丼にとろろとめかぶをかけた物となっております。
舞原「酢めしは少し酢を感じる程度だけどいいの?」
「ネギトロに醤油をかけるだろうから、控えめにした。白ご飯のままより、少し酢の味がしたほうが美味しいからね」
「確かにそうね」
調理室の備品の丼ぶり用の器に酢めしを装い準備完了。
「鳳来さん、悪いけど職員室に知らせに行ってくれる?校長には教頭が知らせてくれるから、校長室に行く必要は無いから」
「了解よ」
「あとは、流れ作業でネギトロとかを丼ぶりに盛り付けて行くよ」
「「「「「はーい」」」」」
鳳来さんと一緒にゾロゾロと先生方が入室してくる。めかぶ料理と聞いていたのに、ネギトロもあったので一部の先生から歓声が上がった。
「「「「「いただきまーす」」」」」
先生方への分配を終えた俺達も食べ始める。
笹嶋「はー。ご飯がすすむ」
鳳来「だよね」
めかぶは内宮班のみんなにも好評。好評なのは実はネギトロの可能性もあるから聞かないけど。
多澤先生「今回もありがとね」
「好評みたいで良かったです」
「後片付けは先生達でやっておくからいいわよ」
「ありがとうございます」
食事も終わり、いつも通り後片付けは先生達がやってくれるみたいなので我々は調理室から退室する。
調理室前には代理の先生が驚きの顔で調理室を覗いていたのでニヤリとしておいた。俺はこれだけの先生の胃袋を掴んでいる有名な生徒なんだぞってね!




