ひな祭り
「ひろ君が飼育しているハマグリは内湾に生息する本物のハマグリなんだよね?」
「だな。希少価値が一番高いやつ」
「で、普段使いはシナハマグリだよね」
「だな。在来種では無い輸入した種類になるな」
「去年もそうだったけど、ひな祭り用に買うハマグリは何なの?」
「あれは外洋に生息するチョウセンハマグリだな。チョウセンという漢字は文献により様々だから省くけど、立派な在来種なんだぞ」
「それも今年から飼育するなんてどうしたのよ?」
「いやー。チョウセンハマグリも水揚げが減ってるから飼育しとこうかなって。あと、色彩が豊かだから興味出た」
「色彩豊かって砂の中にいるんだから、わからないじゃん」
「まあねー」
今日は3月3日のひな祭り。ひな祭りといえばウチではちらし寿司とハマグリのお吸い物は欠かせない。登校の話題はそんなハマグリについてだった。去年購入したハマグリの貝殻は飼育中のカイカムリ君が現役で背負っているよ。
時間は過ぎて放課後。母さんから《放課後になったら電話して》とのメッセージが来ていたから電話する。
「もしもし、母さんどした?」
『授業は終わったの?』
「うん。これから校門前のバス停に向かうとこ」
『悪いんだけど、高校近くのスーパーに絹さやが売られてないか見てくれない?近所のスーパーは売り切れてたのよ』
「わかった、見てみる。他は大丈夫?イクラとか」
『他は大丈夫よ』
「りょーかい。後でまた電話すっから」
『悪いけどお願いね』
通話終了をタップする。
雪華「何だって?」
「近所のスーパーで絹さやが売り切れているから、高校近くのスーパーにあれば買ってきて欲しいってさ」
「それじゃ、行きますか」
「おう!」
「無事に絹さや買えたから、これから帰るよ」
店外に出て母さんに電話して無事に購入したのを伝える。
「ひろ君が栽培しているのはまだ先の収穫だもんね」
「だな。端午の節句がちらし寿司なら買う必要は無いんだけどな」
「それよりも余計な物まで買ったよね?」
「美味しそうなデコポンとちらし寿司の具材にもなるシャコだし、いいじゃん。雪華だって「シラウオがあるよ」なんて言ってたじゃん」
「いや〜、お恥ずかしい」
ちなみに、シラウオとシロウオは名前は似ているけど完全に別種で、両種とも今捕獲されているのは産卵前の個体だから飼育を始めてもすぐにダメになる。ま、両種とも1年魚だし水槽で繁殖させて継続的に飼育するのは難しいから飼育しないけど。
「「ただいまー」」
「おかえりなさい」
「部屋着に着替えたら、早速すし飯作りすっか」
「あたしもお手伝いするね」
「ハンディファンでも良くない?」
「雪華さん?趣ってのも大事なのよ?扇ぐのが辛ければ交代する?こっちはこっちで熱いけど」
「扇がせていただきます」
「あやちゃんとあみちゃん、おいでー」
「「なーに?」」
「これから晩ご飯なんだけど、今日はおひな様だからちらし寿司。手をキレイに洗って錦糸卵とかを飾りつけしてくれるかな?」
「「やりたい」」
という事で両手を液体石鹸でキレイに洗ってからキッチンぺーパーでよーく拭いたら盛り付け開始。
朝輝「おにいちゃん、ぼくもやりたい」
「今日は女の子のお祝いの日だから、ママやお姉ちゃん達にやってもらおうね。あっくんは出来上がるまでお兄ちゃんと一緒にテレビを見てようか」
「うん」
母さんと雪華が愛美と彩夏の盛り付け指導をしていると、父さんが帰宅したから晩飯のお時間だ。
父さん「エビもいいけど、シャコも美味いな」
「だよな。手頃な値段で買えない場合が多いけど安かったから思い切って買って正解だよ」
彩夏「おにいちゃん、つれないの?」
「シャコだけ狙うのは意外と難しいんだよ。他にも釣れるお魚さんがいるからね」
「そっかー」
シャコ釣りは青イソメで可能なんだけど、魚のように確実な針掛かりが無いからバラしていると思うんだよね。持ち帰るのも大変で、シャコは死ぬと酵素によって身が分解されてドロドロになってしまう。ま、俺の場合は常に携帯用エアポンプを持ち歩いているから偶然釣れても大丈夫だけどさ。
ちなみに、鳳来さん達に提案しようとしている潮干狩りでのアナジャコとは完全に別種となる。あれぇ?今日は似た名前の別種の解説を前にもしたなあ。
「ひろ君てシャコは飼育する気が無いよね」
「シャコってさ鎌のような大きな捕脚の威力がすごくて、種類によっては水槽のガラスを割る可能性があるから飼育しない」
「確かにそれは困るわ」
飼育部屋に行ったら水槽が割れて床が水浸しなんて事態になると困るし、塩水だから片付けが大変だよ。きちんと処理しないと床材が劣化するし。
今年もハマグリの貝殻は丁寧に洗ってから乾燥させて保存しておく。
食後少しだけひなあられを食べたいと言う愛美に、スーパーでひなあられは買えなくなる事を伝えると愛美が「えー」と叫ぶ声がリビングに響き、ひな祭りの日も終わったのだった。




