わかさぎ釣り(後編)
「ポイントに到着しました。始めて下さい」
船長の言葉に一斉に糸を垂らす釣り人達。俺達もまずは湖底までオモリを沈めて水深を確認しておく。魚群探知機の反応で水深を船長が知らせてくれるからな。
雪華「船酔いする人いなくて良かったね」
「湖だし、揺れも少ないからね。海の場合は違う可能性はあるぞ?俺、船酔いする自信あるもん」
「あたしも遊覧船とかの大型船なら平気だろうけど、漁船は無理かも」
「俺達には防波堤がお似合いだよ。流れ藻採集も出来るし」
「だね」
雪華と会話しつつも、竿に伝わる反応には神経を集中させている。
鳳来「釣れた!」
「鳳来さん。残念だけど、一番下の個体はわかさぎじゃなくてオイカワかウグイだね」
「そうなの?リリース?」
「一緒に天ぷらやフライで食べられるから任せるよ」
「なら、一応キープで」
そう言って目の前の小型バケツの中に入れた。
鳳来「そこから見分け出来るの?」
「俺、両眼の視力いいから」
動体視力もいいんですのよ?
「順調だね」
「だな。ただ、家族分以外も釣りたいから気を抜かずに釣っていくぞ」
「うん!」
釣り始めて数時間。わかさぎは順調に釣れている。皆には言って無いけど、バイト先の姉御先生や出勤の花穂さんにもお裾分けしたいから頑張らないと。
明槻「不思議に思ってたんだけどさ、バケツの魚とわかさぎを分けてる理由って何なの?」
「バケツの中のはモツゴ。生かして持ち帰って飼育するんだよ」
「あー。いつものやつか」
「それ」
「わかさぎは飼育しないの?」
「わかさぎって1年で寿命なんだよ。繁殖可能なら1年で寿命の魚も飼育してるけど、わかさぎは無理だから飼育しないの」
「そうなんだ」
俺が炭酸飲料を飲んでいると明槻さんが質問してきたので答えておく。船内の他の人から「飼育なんてしてどうすんだよ」なんて小声も聞こえるけど無視。わかさぎ釣りに集中なさったら?釣れてませんよ?
「終了時間となりました。仕掛けを回収して下さい」
楽しかった船釣りも終了の時間となってしまった。最後に大きな群れが来たのがデカかったな、あれで一気に数が釣れたし。
「ひろ君。地域限定の炭酸を飲ませて」
「はいよ」
船内にいる釣り倶楽部以外の方達に報告します。〈間接キスだね〉なんちゅう甘酸っぱい空気にはならないので、ご了承下さい。
笹嶋「楽しかったけど、おなかすいた」
烏野「そうですね」
鳳来「駅に戻って食事して帰りましょ」
明槻「えーと、バスの時間は、と」
「今度来る次のに乗るから」
雪華「今度のはダメなの?」
「遠回りのルートなんだよ。だから、乗っても駅の到着は遅くなるんだ」
「なるほどね」
バス停にはまだ行かずにワイワイしてたんだけど、俺達以外の釣り人は遠回りルートに全員乗車した。観光地巡りでもするのかな?
鳳来「他の人がいないから言うけど、うちら以外の釣果少なかったよね」
烏野「ですね。同じ船なのに不思議でした」
ふっふっふっ、それは集魚効果の高い人工餌を使用していたからだよ?わかさぎ釣りの定番はサシ餌だからと、それだけを使用してただけじゃダメなんだよ。
鳳来「内宮さ、今後は防波堤の釣りでお願い」
「移動時間とか大変だもんね」
「それもあるけど、お金の事を考えるとさ」
「まあ、ぶっちゃけ買ったほうが安いしね」
「うん。楽しいけど出費の多い釣りだなって。防波堤みたいな思わぬ高級魚が釣れる事もないし」
「海釣りは魚種の豊富さも魅力だからな」
烏野「でも、いい経験にはなったので無駄とは感じてませんから」
笹嶋「そうだね」
明槻「出費が多いから釣れなかった時が悲惨だよね」
「「「「「そうだよね」」」」」
「今後の釣り倶楽部は海釣りに戻ります。ま、船の予約状況から無理なんだけどね」
鳳来「まあね」
船内は暖房されていたとはいえ、移動で寒くなったので食事はラーメン屋にした。家族連れとかも意識している店で、会話出来る範囲に全員で食べられたから良かった。そして、金額的に次回のわかさぎ釣りは無いかもしれないな。
鳳来「内宮とゆきちゃんが似た考えで助かるわ」
最寄り駅へと戻ってきた俺達は駅で解散する事に。早朝に起きた影響もあって帰りの電車内では、みんなウトウトしてたよ。俺は乗り換えとかがあるから起きていたけどね。
解散後、俺と雪華と鳳来さんは洋菓子店へと行く事にした。テスト期間じゃないのに快くバイトを休ませてくれた姉御先生夫婦や出勤した花穂さんにお裾分けを渡すためだ。
「「「お疲れ様でーす」」」
「ん?三人してどうした?」
鳳来「今日は快くバイトを休ませてくれてありがとうございました!これ、お裾分けのわかさぎです」
「そんな、気にしなくていいのに。テスト期間は土日休みなんだから、一緒の考えでいいんだぞ」
鳳来「でも、遊びですから。受け取って下さい」
「こっちは、店長と先生の兄弟の分です」
「はー。まったくお前達は気を遣いすぎだ!学生なんだから遊ぶのも重要なのは共通で認識しているから、いいんだぞ」
鳳来「まあまあ、いいじゃないですか」
雪華「ひろ君、花穂さん連れて来たよ」
「花穂さん、テスト期間じゃないのに高校生組が休んですみませんでした。これ、今日釣ってきたわかさぎなので家族で召し上がって下さい」
「あらあら、いいのに。それに、こんなに受け取れないわ」
鳳来「うちらの家族分はしっかり確保してますから、ご心配なく」
花穂「そうなの?じゃあ、ありがたくいただくわね」
事務所の冷蔵庫に入れてから「またね」と言って売場に戻っていく花穂さんに手を振る。
鳳来「ゆきちゃん、明日バイト頑張ろうね」
「うん!また明日ね」
事務所を出た俺達は鳳来さんと別れて帰路につく。姉御先生や花穂さんには俺達だけの意思なので、と伝えて他のバイト仲間にはお礼を言わないように口止めしておいた。
「わかさぎは明日?」
「おう。元々その予定だったから」
「魚群探知機で群れの有無は判別出来ても釣れるかどうかは別問題だもんね」
「だな。それに油料理は急にやるのは面倒臭いよ」
「確かにね」
そんな会話をしながら帰宅すれば、大漁のわかさぎに妹弟達は喜んでくれた。
夜に厳さんから俺だけの宛で『明日食べるわ。ありがとな』とメッセージが届いたのだった。




