元日
「やっぱ1時位まで起きてりゃ、こうなるか」
現在時刻は朝の7時。俺にとってはかなりの寝坊だ。
「おはよう。母さんすまねぇ、かなり寝坊した」
「珍しいわね。体調が悪いの?」
「いや、夜ふかしして1時頃に寝たからさ」
「お正月なんだものいいわよ。それに本来、ご飯の準備は親の役目よ」
「顔を洗ってきたら手伝うから」
キッチンでは母さんが朝食のお雑煮の準備をしていた。雪華はまだいないから寝ているのかな?と思っていたら洗面所にいた。父さんと妹弟達はテレビの初日の出の中継リレーを見ている。
「新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」との父さんの挨拶の後に家族全員で「あけましておめでとうございます」と言うのは毎年同じ。愛美と朝輝は去年はキョトンとしていたけど、今年は一緒に言えたから成長を感じるね。
「雪華の家のお雑煮の汁は再現可能になったの?」
「お母さんにレシピは教えてもらったけど、実際に作ったことは無いからなあ。具材が違うだけで味付けは大して変わらないよ」
「そうなんだ。味噌汁代わりに今度作ってよ」
「いいよ。でも、いわしの煮干しだからソコは違うかな」
「なるほどな」
ウチでは普段の味噌汁はいわしの煮干しで出汁を取るけど、正月用はあごだしと呼ばれる“トビウオ”を使用している。多分、味付けは同じでも風味は違うものになるだろうな。
「ねえ、ひろ君、釣りに行かない?」
「は?」
ダイニングテーブルで内宮班のみんなから来ていたメッセージに返信していたら、雪華が釣りに行きたいと言ってきたんだが?
「昨日、出かけたいところがあるなら言って欲しいって言ってたじゃん」
「そうだけども」
「ねー、ダメー?」
そんな甘えた声を出すなよ。
「わかったよ。ただ、釣りだと時間的に釣果が見込めないから岸壁採集なら行く」
「うん!それでいいよ!」
「じゃあ、準備してすぐに出発するぞ」
「おー!」
準備のために2階へと向かう雪華を見ながら。
「母さん、そういう訳で海に行ってくるわ」
「恋人の希望なんだからいいわよ。気をつけて行ってらっしゃい」
「うん。晩飯の準備までには帰ってくるから」
「わかったわ」
正月くらい自宅でゆっくりしようと考えている人は多いみたいで電車内は座って移動出来るくらい空いている。初日の出を見に海辺に行った場合の時間帯では混雑したのかもしれないけどね。
さて、採集する防波堤に到着したので雪華も一緒にまずは東の海に向かい手を合わせて目を閉じる。
(今年も海の恵みを頂戴します。事故無く、楽しく海遊びが出来ますように)
「さて、何が採集出来るかな?」
「この時期だと冷水系の魚が採れるんだよね?」
「だな。去年は冬も釣りはしたけど岸壁採集しなかったよな?」
「そうだったはず」
内宮班釣り倶楽部含めて、防波堤に来る機会が激増したから記憶が曖昧になってしまった。
「何だか、採れる魚が半透明なのばかりだね」
「もしかしたら、深海系の稚魚も混じっているのかもな」
「それだと飼育は難しいよね」
「だな。ダンゴウオみたいな超小型種であれば冷蔵庫で飼育するという手段があるけど、普通の水槽の場合は水槽用クーラーが必要になるな」
「採集したのはどうするの?」
「とりあえず、気になるのは外で飼育して様子見。2月後半位まで飼育すれば判別可能になるだろうから飼育部屋の室温で飼育可能な種類は飼育続行で、それ以外はエサだな」
「なるほどね」
種類がある程度判明しているのは最初から飼育部屋行きだ。例えばフウライウオの仲間とかな。
「寒かったけど楽しかったー」
「喜んでくれて何より。今日は風呂から出たら暖かくして寝ろよ?旅行が控えているんだからな」
「うん!」
現在は帰りの電車内。防波堤の滞在時間は数時間だったけど、雪華の笑顔が見れればそれでいいのだ。俺にとっても収穫はあったしな!特にダンゴウオやホウボウの稚魚が得られた事だ。ダンゴウオは夜行性で採集するのは夜の潮溜りが主な場所だから採集しに行く事が無いから、スゲー嬉しい。
「あれ?鳳来さん?」
「あ、やっほー!」
「「あけましておめでとうございます」」
「あはは。あけましておめでとう。今年もよろしくね」
「「今年もよろしく」」
最寄り駅に到着して、帰宅ルートのバス停では鳳来さんに会った。
雪華「デート帰りなの?」
「うん。彼氏はこの後、部活の人達と遊ぶみたいだけどね」
「じゃあ、あの初日の出の画像は彼氏と一緒だったのか」
「そゆこと。内宮達はどこ行ってきたのって聞くほうが変か」
「まあ、クーラーボックスを持ってりゃな。ただ、釣りではなくて岸壁採集だけどな」
「岸壁採集?」
雪華「ほら、釣りの合間に網でガサガサやっている時あるでしょ?アレのこと」
「ああ!飼育するのを見つけるってやつかあ」
雪華「それ」
「なるほどね。ま、釣りの場合で誘われても三が日は彼氏も部活が休みだから彼氏を優先させてもらうけどね」
「その考えでホッとしたよ。彼氏より釣りを優先したら困るもん」
「あはは。まさかあ」
「いや、鳳来さんは立派な釣り好きになっているからね。マジで彼氏を優先するように注意しなよ?」
「え?マジで?」
雪華「マジで」
そんなやり取りをバス内で鳳来さんとしてから別れた。バス停から自宅への帰り道で雪華が「コントみたいだったね」と言うので、笑ってしまった。




