近寄るピエロ
▽
中に入るのにも一苦労だった。
自動ドアの隙間から入ろうにもまさかの通れず、動くかと思って自動ドアを押してみてもびくともしない。結局、そのへんから拾ってきた木の棒を使って二人で力いっぱいドアを押してやっと人一人が通れる隙間が出来上がった。
「中入るだけでこんなに疲れたけど大丈夫だよね、多分」
「ここまで疲れそうな所は他には無いと思うけどね、まぁ、最初は院長室にでも行きますか」
中が真っ暗だったため、持ってきていた懐中電灯の明かりだけが頼りだった。
病院内はまるで嵐が通った後のようだった。カルテは床に散乱し、薬品棚に収まっていたであろう薬品はその辺に転がっているし、はちゃめちゃだ。
壁沿いに進んでいくと院長室があった。
ドアが開けっ放しだったので中に入ってみると、受付のところとは大違いで綺麗に整頓されていた。棚にはたくさんの本がジャンル分けされて綺麗に入っているし、院長席であろう机の上には丁寧に辞表が置かれていた。
ふとその隣にその場所には不相応なものがあった。ピエロのお面だ。
頬の方まで裂けた赤い口に、丸くくり抜いて黒く深い影を落としている目、その目の周りには泣いているかのようなメイクが施されている。
「なんでここにピエロのお面があるんだろ、もしかしてこれ見てピエロが出たと勘違いして町でピエロが出たなんて噂が流れたのかな?」
そう笑いながら黒崎は机の上にあったピエロを持ち上げ――ようとして固まってしまった。
「どうした?黒崎?」
よく見るとさっきまで笑っていた黒崎の顔が真っ青になって、鯉のように口をパクパクさせているし、手が震えている。
「ほんとにどうした?!大丈夫か!おい!」
俺が黒崎を揺さぶるとやっと気づいたようで、
「あ、いや、、これ、、う、裏に、、」
「ん?裏?」
そう言って黒崎の持ってるピエロのお面の裏を見ようとして手にとったところで思わず俺も固まった。
黒崎のお面持ってた方の手に真っ赤なナニかがべったりついていたのだ。
「これ、、血、だよね」
「え、誰の、なんでピエロのお面の裏に血がべったりついてるんだ、?」
お面を裏返してみると、乾いていない滴り落ちるほどの血がべったりついていた。
「い、いや、前に来た誰かが次に来た人を驚かすためにこんなことをしたのかもしれない。きっとそうだ」
「そうだよ、きっとそうだ。たちの悪いイタズラだな」
結構無理があるかもしれない。実際、血生臭い感じもする。けど、そうでもしないと恐怖で腰でも抜けてしまいそうだった。
「とりあえず俺手洗いたいんだけど、、多分血糊かなんかだろうからすぐ落ちると思うんだよね」
「黒崎、さっきこの階に診察室あるっていってたよな?もしここに水道が通ってたらそこに水道だってあるだろうし、なくてもタオルとかあると思うからとりあえず診察室まで行こうぜ」
「そうだな、お面ここにまた置いとけばいいよな?」
「良いんじゃないかな?よし、次行くか」
そんなこんなで俺らは受付まで戻って来た。
するとそこにはさっきまで無かったはずのものがあった。
___ピエロのお面だ。
そしてそのお面があるのは、輸血パックが破れて床に水溜りのようになっていた真ん中だった。
「え、あんなものさっきまで無かったよな、」
「もしかして俺らの他にも今この病院の中に誰か居るのか?」
「同じように肝試しとか?」
「かもなー」
「とりあえず俺らは診察室向かおうぜ」
そう言いつつお面のことはあまり気にせず進むことにした。
診察室までつくと黒崎は真っ先に手を洗いに水道に行った。水道は幸い出たみたいだ。
「あーさっぱりした。べとべとだし手真っ赤だし気持ち悪かったんだよなー」
「俺もさっき持ったときに多少ついちゃったから洗ってくる」
「じゃあ俺先に診察室見てるよ」
そうして俺も手を洗うと先に診察室を見ていた黒崎に合流した。
すると合流した瞬間黒崎に驚いたような声で話しかけられた。
「見ろよこれ」
「ん?なんだこれ、新聞記事か?」
「みたいなんだけど、全部この病院関連の記事なんだよ」
「ほんとだ、死亡事故とか行方不明者とか、、行方不明?病院で行方不明者ってどういうことだ?」
「ほらこの病院、ピエロの噂のせいで独り身の人が最期を迎えるために多く来てたでしょ。その人達の死体の行方がわからなくなってるんだって」
「まじかよ、そんなことあんのか」
「身寄りがないから死体を引き渡す親戚もいない。そうすれば病院側がどうにかする。その結果って感じなのかもね」
そういうものなのか。
親戚がいないならなぜ行方不明なことを知っている人がいて、新聞記事で問題になっているのか気になったが、俺らの知り得ることでは無いのだろうと思った。
「まぁここもなんかあったわけじゃないから次、2階に行きますか!」
そういって診察室のドアを開けようとして思わず後ずさってしまった。
「またかよ、、なんでドアにピエロのお面が貼っつけてあるんだか」
「これじゃピエロ病院って呼ばれても仕方ないよ」
「しっかし、またえげつない」
「これじゃまるで血の涙だな」
診察室のドアにあったピエロはくり抜かれていた目から血がどんどん滴り落ちていたのだ。ドアに貼られているので、どんな仕掛けなのかはわからないが、気味が悪いったらありゃしない。
「前に来てピエロのお面おいていった人ってのは随分悪趣味だな」
「もしかしたら全部の場所にお面置いてあったりして」
「ありえるな」
なんて言いつつ、だんだんお面に慣れてきたのかあまり大げさに驚くこともなく、俺らはそのままドアを開けて2階に向かった。




