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逆流者の旗 ~勇者じゃないけど、理不尽には逆らいます!~  作者: 秋月 爽良


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第3話 追放の種子

「……おっと、アンタ大丈夫かい?」


 声の主が、俺の顔をのぞき込んでくる。


「あ、あはは。大丈夫です」


 目当ての薬草を摘むのに、つい夢中になっちゃったな。

 木の根に足をとられて、後ろにひっくり返ってしまった。


 慌てて起き上がると、腰にカゴを下げた中年の女性が、心配そうにこっちを見ている。

 この近くに住んでる人かな……?


「これ、ギルドの依頼なんです」

「へぇ、薬草採りかい? でもその薬草なら、こっちの方がよく効くんだがねぇ」


 彼女は、自分のカゴから薬草を一本取り出して俺に見せた。


「見た目はよく似てますけど、葉の先が少しだけ丸いんですね」

「お通じにも効くし、なにより痩せるって評判でね」


「痩せる薬草ですか……?」


 知識なんて全然ないけど、痩せる薬草って、俺がいた場所じゃ良いイメージがないんだよな……。

 でもせっかくだし、摘んで帰ってみるか。

 

「ありがとうございます。じゃあ、こっちも少し摘ませてもらいますね」

「そうするといいよ。じゃあ、アタシは帰るとするかね」


 女性はカゴを抱え直すと、慣れた足取りで歩いていった。


「よし……このぐらいでいいだろ」


 採取を終える頃には、太陽がずいぶん高くなっていた。

 袋も薬草でいっぱいだ。

 

 この世界に来て初めてお金を稼げるのがなんだか嬉しくて、戻る足取りは来た時よりもずっと軽かった。


「お、着いたみたいだな」


 ギルドの建物が見えてくると、ほっと肩の力が抜ける。


「おかえりなさい、どうでしたか?」

「採ってきました。これです」


 カウンターには朝と同じ受付嬢がいて、俺の姿を見つけると声をかけてくれた。

 袋の中身をひとつずつ確認していく手元を、緊張しながらじっと見つめる。

  

「あら、こちらは?」 

「あ……それは近くの村の人に教えてもらったんです。依頼の薬草よりよく効いて、痩せるって評判らしくて」


 首を傾げる彼女に説明すると、受付嬢はにこやかにうなずいた。


「そうでしたか。ですが、申し訳ございません。今回はこちらの薬草が指定されておりますので、そちらはお受け取りできません」

「あ、そうですよね……すみません」


 やっぱりダメだったか。

 

「では、こちらが今回の報酬です。お受け取りください」

「はい、ありがとうございます」


 報酬を受け取り、カウンターを離れようと踵を返す。


「アンタ、ちょっといいか?」

「え? あ、はい」


 この人、カウンターで隣にいたよな?


「その薬草、痩せる効果があるんだって?」 


 行商人らしい男は、興味深げに俺の手元をのぞき込んでくる。

 

「ああ、はい。ヨークの森で、近くの村人から聞いた話ですけど……」

「その薬草、ワシに買い取らせてもらえないか? そんなに高くは買えないが」


 このまま持って帰っても、使い道はないしな……。


「構いませんよ」

「おお、そうかい。助かるよ」


 結局、残った薬草は行商人に買い取ってもらった。

 わずかでも持ち帰る銀貨が増えたのは嬉しい。


「ただいま戻りました」


 教会の中は相変わらず静まり返り、冷たい空気が肌に触れる。

 

「ユウマさん、おかえりなさい。初めてのギルドはどうだった?」


 ちょうどシスターが掃除を終え、片付けをしているところだった。


「はい、あの……自分なりに上手くできたと思います」

「そう、それは良かったわね。あら、これは?」


 俺は報酬の詰まった布袋を、そっと彼女の前に置いた。

 シスターは首をかしげながら、不思議そうに俺を見上げる。


「この教会のために使ってください」

「そんな大切なものを……」


「お願いします。自分だけじゃ、今日までの日々を越えることもできなかったんです」


 心からそう思っていた……温かい食事も、安心して休める寝床も、ここでもらったものだ。


「その気持ちは嬉しいけれど、そのお金はあなたが自分で手に入れたものだわ。いつか必要になる時まで大切に取っておいて」


 優しい笑みを浮かべて、シスターは袋を俺に押し戻した。


「でも……」

「気持ちだけで十分よ。ありがとう、ユウマさん」


 そこまで言われると、無理に押しつけることもできなかった。


「……分かりました」

「ええ。あなたに神のご加護がありますように」


 布袋を受け取り、俺は小さく頭を下げた。


「誰もいないよな……?」


 その夜、静まり返った教会の廊下を、俺は小さな袋を胸元に抱えたまま礼拝堂へと向かった。

 募金箱が、入り口近くの柱の影にひっそりと置かれているのは知ってる。


「うん、これでいい」


 銀貨を箱の中にそっと落とすと、乾いた音が響いて胸の鼓動が少しだけ速くなった。

 その夜、俺は久しぶりにぐっすりと眠ることができた。


 ◆


「おい、あいつじゃねぇか? ほら、例の新米冒険者」

「そうそう、最近、噂になってるらしいぜ」


 初めての依頼を達成してから、今日もギルドの掲示板の前に立っている。

 少しずつ仕事にも慣れてきた。

 

 依頼書を眺めていると、周りのヒソヒソ話が嫌でも耳に入ってくる。


 新人でも、目立つ奴ってどこにでもいるよな。

 もしかして俺のことだったりして……いや、そんなわけないか。


 なんて思いながら依頼書の一枚に手を伸ばす。


「久しぶりね、ユウマ」


 聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはメイとエイドが立っていた。


「あ、えっと……メイさんとエイドさん、久しぶりですね」

「さん付けも敬語もやめない? 私たちとそんなに年変わらないでしょ」

 

 呆れたように笑うメイと、その後ろで腕組みしながら無愛想にこっちを見ているエイド。

 ……俺、何かやらかしたっけ?


 彼を気にしているのに気づいたのか、メイはその視線を遮るように一歩近づいてくる。


「私たち、ある依頼を受けようと思ってるんだけど、少し厄介でね。手伝ってもらえない?」

「えっ! お、俺?」


「そう。噂の新人さんに、ぜひお願いしたいの」


 え……さっきの噂って、もしかして俺のことだったのか。

 

「それで? 俺たちと一緒にやる気はあるのか?」

「だってエイド、ずっと仏頂面してるだろ? 受け入れてくれるなら、全力で手伝うけどさ。あ……!」


 まずい、スキルが発動したか……?


 慌てて両手で口を塞ぐ俺の様子を見て、メイが吹き出した。

 エイドが、ふん、と鼻を鳴らす。


「へぇ、なかなか言うじゃねぇか」

 

 不機嫌そうだったのに、ほんのわずかに顔が緩んでる……ような気がする。


「噂通り、口はよく回るじゃねぇか。まあ、俺たちにはその口が必要だから、頼りにしてるぜ」

「え……俺の口?」


「そう、あの依頼にはどうしてもユウマが必要なの」

 

 俺のスキルが役に立つのか……!

 メイたちと組めるなら心強いし、メンバーがいない不安も消える。


「じゃあ、えっと……これからよろしく」

「受けてくれるのね? こちらこそよろしく!」


 握手を交わしたふたりの手は温かくて、ちょっとだけ泣きそうになった。

 俺こんなに泣き虫だったっけ?


「それで、その依頼ってどんな内容なんだ?」

「今から説明するわ。あっちで話しましょう」


 ふたりについて行くと、掲示板の並ぶ場所を離れ廊下へと出た。

 へぇ……ギルドの中って広いんだな。


 廊下の両側には部屋がいくつも並んでいる。


「遅くなりました」

「ああ、もうお待ちになってるよ」


 メイが職員に声をかけると、俺たちはそのまま一室へと通された。


「アトーリオさん、お待たせしました」

「ああ、ずっと待っていたよ! それで、この人が……?」

 

 20代くらいの男性が慌てた様子で、ソファーから立ち上がる。

 泣いてたのか……なんだか目が腫れぼったいな。


 彼は肩を震わせながら、俺の両手をぎゅっと掴んできた。


「お願いします。どうか、魔獣に奪われた指輪を取り戻してください……」

「ま、魔獣!? メイ、一体どういうこと?」

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