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第十八話 摩天楼計画その1

 下級アンドロイドたちが油圧ショベルと大型チェーンソーを唸らせ、原始の巨木を次々と切り拓いていく。凄まじい内政の駆動音をBGMにしながら、武(たける)はすでに拠点に設置されている既存の大型高断熱プレハブ小屋の中にいた。


 最新ツールを用いたハインの緻密な工程計算によると、外で下級アンドロイドたちが土地を均し、追加のプレハブ小屋2棟が完全に実体化して立ち上がるまでには、あと正確に2時間が必要だった。


「マスター、お疲れのところ恐縮ですが、この2時間の空き時間を利用して、今後の長期的な要塞化構想に関する座学、および基本戦略会議を始めさせていただきたく存じます」


 ハインが手際よくプレハブ内の折りたたみデスクに、チート権能から出力した電子タブレット型の端末を並べる。その隣には、漆黒のフルスペック装備を身に纏ったジルが、洗練された動きで静かに着席した。


 武は昨日ジルに叩き込まれた「肉体適応訓練」のせいで、今も腰や太もも、背中の筋肉が激しくきしんでいた。パイプ椅子に腰を下ろすだけでも「……つ、つううっ」と小さく声が漏れてしまう。それを見た軍事系統トップのジルが、ヘルメットの防弾バイザーをスライドさせて上げ、すまなそうな、だがどこか容赦のない冷徹な視線を向けた。


「マスター、昨日の訓練による筋肉痛の度合いを考慮し、本日の実技による共有運動はすべて『休み』とします。無理な負荷は肉体の構築効率を下げます。今日一日はこの座学による戦略構築に集中し、筋肉の超回復を待って、『明日になったらまた再開』いたします。覚悟しておいてください」


「あ、ああ……了解した。明日はもう少しお手柔らかに頼む。それよりハイン、会議を始めよう。俺たちの次のステップについてだ」


 武が痛む体をそっと伸ばしながら言うと、ハインがタブレットの画面をタップした。プレハブの薄暗い空間に、鮮やかな3Dホログラムの設計図が浮かび上がる。


「はい。現在、追加された人員に動力ツールを持たせて周囲の木々を伐採していますが、これ以上の平面的な『土地を広げる開墾』は、防衛線の肥大化、および原始生物との不要な接触確率の上昇を招きます。我々が取るべき最も効率的な内政・防衛手法は、平面ではなく垂直――すなわち、ここに『大型のビルを建築する』ことを最終目標とした、集中的な立体要塞化計画です」


「大型ビル、か。原始の世界に摩天楼を建てるってわけだな」 


 武の目が輝いた。ハインの言う通り、周囲の獰猛な原生生物から身を守りつつ、限られた防衛フェンスの範囲内で最大の効率を叩き出すには、高層化して一つの建物にすべてを詰め込むのが最も賢い。


「その通りです。土地を広げるより、一つの超高層建築物に集約した方が、電力効率、防衛密度、物資の移動コスト、そして防壁コストのすべてにおいて圧倒的に優れています。この『絶対立体ビル計画』において、上層から下層まで組み込むべき予定施設の一覧がこちらになります」 


 ハインが指先でホログラムを操作すると、ビルの内部構造が細分化され、武の前に詳細なテキストとなって展開された。



  【絶対立体ビル・予定組み込み施設一覧】

 * 常温核融合発電施設(地下・最下層)

  * 外部からの燃料補給をほぼ必要とせず、水(重水素)から無限に近いクリーンエネルギーを半永久的に生み出す、ビル全体の完全自給自足型心臓部。


 * 生活・工場排水濾過システム & ごみ焼却施設(低層部)

  * ビル内で発生するあらゆる汚水や工場排水を分子レベルで完全に濾過し、極上の飲料水として循環させるシステム。さらに、出た廃棄物はすべて超高温で無害に完全焼却し、その排熱すらもエネルギーへと還元する。


 * 医療施設(中層部)

  * 武の肉体管理や、今後の不測の事態に備えた最新鋭の自動診断・治療カプセル、無菌手術室を完備した最高水準のメディカルセンター。


 * 工場施設・全自動生産ライン(中層・広域部)

  * 現在はインベントリ内で並行生産している武器やツールの錬成ラインを、物理的なベルトコンベアとロボットアームに置き換え、CheyTac M200以上の高効率・大量生産を可能にする巨大ファクトリー。


 * 武のプライベートルーム(最上層・防衛最高権限区画)

  * 原始の喧騒から完全に隔離された、武専用の居住スペース。高級家具、ジャグジー、パノラマ防弾ガラスを配し、ジルの軍事指揮所とも直結した最安全聖域。



「良いね……完璧じゃないか。この原始のど真ん中に、地球の最新科学すら超越した完全自給自足の要塞ビルを建てる。燃えてくるな」


 武がホログラムのビルを見つめながら呟くと、今度はジルが口を開いた。


「軍事的観点から見ても、このビル建築案は極めて理にかなっています、マスター。周囲を鋼鉄フェンスで囲い、四隅の自動銃座(RWS)で平面を警戒しつつ、最終防衛線としてこのビルに籠城すれば、メガカンが何万頭押し寄せようとも、上層からの豊和20式小銃の狙撃と、M249の圧倒的な撃ち下ろしの弾幕で完全に文字通りの『殲滅』が可能です」


「よし、決まりだ。俺たちの次なる大目標は、この『大型立体ビルの建築』とする。ハイン、このビルをクラフトするのに必要な資材と追加予算、そして何よりこれを建てるための地盤基盤の計算を、この2時間で徹底的に進めておいてくれ」


「御意に、マスター。これより詳細な必要エネルギー量および構造計算に入ります」


 ハインは静かに一礼し、凄まじい速度で電子タブレットに数式を打ち込み始めた。


 既存のプレハブ小屋の外からは相変わらず、チェーンソーが巨木を断ち切る重厚な音が響いている。だが、その原始を切り拓く音は、これから始まる「原始世界での超近代摩天楼建設」という壮大な計画の、ほんの序曲に過ぎなかった。武は痛む腰を摩りながらも、網膜に表示された11億エンを超える残高と、未来のビルの姿を重ね合わせ、確固たる勝利を確信していた。



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