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第十七話 現代開拓

「よし、二人とも。これより朝一番の『本格的な投資決済』を開始する」


 武の力強い宣言が、ひんやりとした原始の朝の空気に響き渡った。


 網膜の視界いっぱいに展開されたチート権能のシステム画面。そこには、昨夜の全自動クラフト売買循環システムが叩き出した、国家予算級のデジタル数字が眩い光を放っている。


【口座残高:1,633,156,000エン】


 16億エンを超える圧倒的な資産。昨日までリソースの限界と、原生生物への恐怖に怯えていたサバイバルは、この瞬間に完全に終わりを告げた。武はためらうことなく、実体化の権能を司る操作パネルに触れ、最優先事項である「人員の拡充」の項目を選択した。


「開墾の速度向上、および拠点の防衛網を二層化する。ハイン、ジル、それぞれの手足となる人員を5体ずつ、計10体追加だ」 


 武の指先が画面上の購入確定ボタンを迷わずタップする。


 * 下級アンドロイド:5体(単価20,000,000エン/計100,000,000エン)


 * 万能兵士アンドロイド:5体(単価50,000,000エン/計250,000,000エン)


 決済が完了した刹那、プレハブ小屋の前の開けたスペースに、淡い純白の光の粒子が収束していった。光が霧散すると、そこには衣服を綺麗に纏い、一糸乱れぬ直立不動の姿勢をとった10体のアンドロイドが整然と姿を現した。これで武の配下は、初期の22体に今回の10体を加え、総勢32体の強力な大所帯となった。


「ハイン、ジル。新しい人員のシステム同期は完了した。ここからは、昨夜相談していた『お前たちが真に求めるもの』を順次決済していく。まずハイン、民間系統の維持と生活基盤の強化に必要な物資のリストを出してくれ」


 一歩前に出たハインが、抑揚の効いた整然とした口調で報告を始めた。


「感謝いたします、マスター。人員が大幅に増加したことにより、現在のプレハブ小屋1棟では生活スペース、およびインベントリ外の物資保管能力が物理的な限界を迎えます。そのため、追加の民間用プレハブ小屋2棟の増設を申請いたします。また、今後の自動生産ラインのさらなる拡張を見据え、安定したクリーン電力を24時間供給するための『産業用太陽光発電パネル一式、および大容量リチウムイオン蓄電コンポーネントシステム』。そして、マスターの健やかな休息のために『高級スプリングベッドおよび高断熱・防ダニ寝具一式』。……これらがまずベースとなります」 


 ハインはそこで一度言葉を切り、背後に広がる広大な原生林へと視線を向けた。太古の巨木が複雑に入り組み、鋭いトゲを持つ植物が地面をびっしりと覆っている。


「ただし、マスター。これらすべての建築物や太陽光パネルを設置するには、現在の開墾地では土地が圧倒的に足りません。より高速に、かつ効率的に原始の巨木を切り拓き、居住区画を拡張する必要があります。そのために、チェーンソーや小型油圧ショベルといった『工事用動力ツール一式』の支給、およびそれらを稼働させるための追加燃料の確保を強く要請いたします」


「なるほど、土地不足か。確かにプレハブを建て増しするスペースすらカツカツだな。よし、承認だ。ツールも含めてまとめてクラフトする!」


 武はハインが指定した建築設備、インフラシステム、そして原始の森を爆速で消し去るための最新鋭の電動・油圧工具一式を即座に一括購入した。これで民間区画の拡張と、土地の強制開墾に向けた完璧なバックボーンが確立された。


「次はジルだ。軍事系統の最高責任者として、昨日の巨大狼(メガカン)の襲来、および今後の不測の事態を踏まえた、実戦的な防衛装備の要求を聞こう」


 ジルは鋭い眼光を一瞬たりとも原生林の境界から外すことなく、冷徹で硬質な軍人の声で告げた。


「はっ。昨日の戦闘データを解析した結果、この原始世界における原生生物は、個体戦闘力・群れの連動性・耐久性のすべてにおいて地球の野生動物を遥かに凌駕していると判断。今後の安全を担保するためには、防衛の自動化、および全兵士の武装を最大スペックへ刷新することが急務であります。具体的には、拠点外周を完全に遮断する高強度の『鋼鉄製防護フェンス』、およびそのフェンスの死角を補う四隅への『M249軽機関銃を組み込んだ遠隔操作式自動銃座(RWS)』4基の設置を。さらに、新配置された万能兵士5名を含めた全兵員の兵装を、昨夜妥協した最小限の装備から、完全防弾バイザー付き戦闘ヘルメット、防弾プレート入り重キャリアベスト、夜間暗視ゴーグル(NVG)のフルスペックへと換装します」


 ジルの言葉に熱が帯びる。彼女の網膜にもまた、必要とされる兵器の膨大なリストが並んでいた。 


「そして、兵士たちが手にする主兵装として、日本の最新鋭アサルトライフルである『豊和20式小銃』を計15挺。近接防衛および面制圧用の『M67破片手榴弾』を各兵員に配備するため計120発。副兵装として、近距離での確実なストッピングパワーを持つサイドアーム『グロック19』を計15挺。これらに付随する弾薬として、5.56x45mmNATO弾、9x19mmパラベラム弾を含めた各種弾薬を各口径3万発ずつ、合計9万発。最後に、これら大量の近代兵器と精密弾薬が、原始の超高湿度環境によって劣化・錆び付くのを完全に防ぐため、内部の湿度と温度を24時間最適に保つ『ミリタリースペック・防湿銃器コンテナ(AI提案)』の支給を求めます」 


「……分かった。すべて許可する!」


 武の指が画面の決済ボタンを激しく叩きつけた。


 直後、拠点の敷地全体が激しく震動した。まばゆい光の壁が走り、拠点の外周をぐるりと囲むようにして、高さ3メートルを超える漆黒の鋼鉄製防護フェンスが地中深くからそびえ立った。そのフェンスの四隅には、カメラセンサーと電動アクチュエーターが不気味に駆動する遠隔操作式自動銃座(RWS)が計4基設置され、その中央には銃身を鈍く光らせたM249軽機関銃が、まるで獲物を待つ猛獣のように原生林へと銃口を向けた。


 それと同時に、待機していた兵士アンドロイドたちの装備が一瞬にして切り替わる。安価な迷彩服から、最新のタクティカルコンバットスーツ、重厚なセラミックプレートが挿入されたボディアーマー、そして顔面を完全に覆う防弾バイザー付きヘルメットのフルスペック軍事装備へと漆黒の換装を遂げた。彼らの手には、各種光学サイトとフォアグリップがフルカスタムされた豊和20式小銃が握られ、腰のタクティカルベルトにはM67破片手榴弾の安全ピンが整然と並び、太もものホルスターにはグロック19が強固に収められている。


 プレハブの隣に突如として実体化した巨大な緑色のミリタリーコンテナからは、乾燥剤の匂いとともに、何十箱もの密閉された亜鉛引きの弾薬箱が整然と積み上げられていくのが見えた。

 朝一番の、文字通りの「驚異的な爆買い」がひと段落し、武は大きく息を吐きながら、チートシステムが弾き出した詳細かつ精密な計算明細を網膜上にスクロールさせた。




  【決済・詳細計算明細】


【1. 人員拡充費用】


 * 下級アンドロイド × 5体(単価:20,000,000エン) = 100,000,000エン


 * 万能兵士アンドロイド × 5体(単価:50,000,000エン) = 250,000,000エン


 * 小計:350,000,000エン


【2. 民間・開墾・インフラ設備(ハイン要求分)】


 * 追加民間用大型高断熱プレハブ小屋 × 2棟 = 4,800,000エン


 * マスター用高級スプリングベッド & 高断熱寝具一式(3セット) = 1,000,000エン


 * 産業用太陽光発電パネル & 大容量リチウムイオン蓄電コンポーネント = 1,000,000エン


 * 工事用動力ツール一式(小型油圧ショベル2台、工業用大型チェーンソー5台、削岩機、専用混合ガソリン2,000リットル含む) = 19,000,000エン


 * 小計:25,800,000エン


【3. 軍事・防衛・重武装化装備(ジル要求分)】 


 * 高強度鋼鉄製防護フェンス(外周500メートル分) + 遠隔操作式自動銃座(RWS) × 4基 = 3,000,000エン


 * 全兵員用フルスペック防具換装一式(バイザー付きヘルメット、重プレートキャリア、NVG含む15人分) = 2,000,000エン


 * 兵員用最新鋭武器一式 = 4,000,000エン

  * 主兵装:豊和20式アサルトライフル × 15挺


  * 副兵装:グロック19(9mmサイドアーム) × 15挺


  * 投擲兵器:M67破片手榴弾 × 120発


 * ミリタリースペック・防湿銃器コンテナ(24時間自動調湿・空調機能付き) & 各種弾薬計90,000発(5.56mm弾×3万発、9mm弾×3万発、既存M249用7.62mm弾×3万発) = 86,000,000エン


 * 小計:95,000,000エン


【総合収支計算】


 * 現在残高:1,633,156,000エン


 * 今回の総支出額:470,800,000エン(計算式:350,000,000 + 25,800,000 + 95,000,000)

 * 差引残高(現在の最終口座残高):1,162,356,000エン


 4億7000万エンという巨額の投資を実行したにもかかわらず、手元にはまだ11億6235万6000エンという莫大な資金が残されている。

 しかし、その支出に見合うだけの、いやそれ以上の圧倒的なリターンが目の前に具現化していた。拠点は瞬く間に「原始の孤島」から、いかなる脅威をも跳ね返す「超近代的な重武装要塞」へとその姿を変貌させたのだ。


「全員、ただちに作業を開始せよ!」


 ハインの鋭い号令が飛ぶ。新しく配属された5体の下級アンドロイドたちが、支給されたばかりの工事用動力ツールへ一斉に駆け寄った。


『ガガガガガガ!』『バリバリバリ!』


 油圧ショベルの強靭なアームが原始の地盤を力強く穿ち、工業用大型チェーンソーの凄まじい駆動音が静かな原始の森を引き裂く。人間であれば何日もかかるであろう太古の巨木が、アンドロイドたちの24時間ノンストップの超人的なパワーと最新ツールの前には、まるでマッチ棒のように容易く切り倒され、プレハブをさらに建てるための広大な土地が爆速で確保されていく。


 一方、ジル率いる漆黒の兵士たちは、新配備された豊和20式小銃のボルトキャリアを小気味よい金属音とともに引き、グロック19の装填を確認すると、フェンスの各警戒ポイントへと音もなく散っていった。四隅の自動銃座(RWS)がウィーンと小さな電子音を立てて旋回し、完全に自動化された死のドームが拠点一帯を覆う。


 筋肉痛の残る体でその光景を眺めながら、武の口元には自然と、絶対的な強者の不敵な笑みが浮かんでいた。


「よし……これで基盤は完全に整った。ハイン、ジル、ここからさらに効率を上げるぞ。俺たちの領域を、この原始の世界に知らしめてやるんだ」


 数分前までただの開墾地だった場所は今、文明の暴力的なまでのテクノロジーによって、完璧に統制された軍事・内政基地へと進化を遂げていた。



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