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第十三話 準備の後の脅威

 武は、発電機から発せられる低いエンジン音を背に、アンドロイドたちが淡々とプレハブ小屋の内部を整えていく様子を見つめていた。給電ポッドのインジケーターが鮮やかな緑色に点灯し、彼女たちの稼働限界という目下の生存リスクは事実上払拭された。


 アンドロイドたちが最初に出現した際に伴っていたポッドそのものが高い給電能力を有しているため、新たな電源ポッドをわざわざ追加でクラフトする必要はない。これは非常に大きなアドバンテージだった。しかし、長期的かつ大規模な運用を見据えれば、現在の供給源だけでは決して十分とは言えない。まだまだ必要な充電施設や周辺の電力インフラは必要であったが、一応のところは何とかなったと言える。武はこの安定した状態を維持し、今後のさらなる拡張に備えるため、このまま必要な施設や電力網を構築するための資材の数を増やしておくことにした。


『異世界トレーダー』の画面を展開し、高出力の配線ケーブルや並列化用のアダプター、あるいは今後の充電容量を底上げするための蓄電ユニットのコンポーネントを次々と選択していく。


【異世界トレーダー:クラフト実行】


 ・高遮蔽高出力給電ケーブル・配線資材一式(パーツ単体:約12kg):200,000エン


 ・大容量リチウムイオン蓄電コンポーネント(パーツ単体:約18kg):800,000エン


 ・計算式:104,156,000エン - 1,000,000エン = 103,156,000エン


 至近距離の地面に、重厚な金属の輝きを放つパーツ一式が静かに具現化する。どれも武一人の人力で組み立て・調整が可能である「パーツ単体20kg以下」の絶対条件を完璧にクリアしている。すぐさま周囲のアンドロイドたちがそれを手に取り、プレハブ小屋の側面へと手際よく組み込んでいった。これでエネルギー供給の冗長性は大幅に高まり、拠点としての機能は一段と強固なものへと引き上げられた。


 作業が一段落したその時、アンドロイド部隊のリーダー格であるジルが、端正な顔立ちを崩さないまま武のもとへと歩み寄ってきた。彼女は周囲の状況を報告すべく、静かな声で告げた。


「マスター。拠点の周囲に防衛用の見張り塔を建設したほか、新たに兵員の練度を維持するための運動場を場所も作りました。」


 ジルの案内で開墾地の一角へと足を運ぶと、そこには周囲の原生林が完全に払い払われ、強固に踏み固められた平坦な敷地が広がっていた。四方には素早く組み上げられた丸太調の堅牢な見張り塔がそびえ立ち、ライフルを携えたアンドロイドが鋭い視線を周囲の密林へと走らせている。


「ここでトレーニングをして、原始の過酷な環境に対する生存率を上げるというわけか」


 武が呟くと、ジルは小さく頷いた。現時点ではまだ近代的なトレーニング器具や機材の類は何一つ用意されていない。しかし、ジルは自らの強靭な肢体を軽く示しながら、冷静に言葉を続けた。


「器具はありませんが、私のシステムに記録されている戦闘術および肉体鍛錬のプログラムに基づき、マスターへ様々な指導を行うことが可能です。自重を用いた高負荷トレーニングから、実践的な近接格闘の基礎まで、効率的に肉体を適応させます」


 前夜に専門書から速習したサバイバル知識に加え、実戦経験豊かなアンドロイドによる直接の指導。武は己の肉体を引き締め、この未開の古代地球を泥臭く生き抜くための基礎体力を、さらに向上させる決意を新たにした。


「わかった。早速だが、指導を頼む。この世界で生き残るためなら、どんな泥臭い訓練でも耐えてみせる」


 武の言葉に応じるように、ジルの琥珀色の瞳がわずかに輝きを増した。


「了解しました。では、基礎的な肉体能力の引き上げと、近代戦術に基づく近接制圧術の初歩から開始します。まずは呼吸法の矯正と、体幹の安定化から行います」


 器具のない運動場での訓練は、想像を絶する過酷さだった。武はこれまでも自重トレーニングとライフルの猛特訓を重ねてきたが、軍事用に調整されたアンドロイドであるジルの指導は、人間の限界を精密に見極めた上での容赦のないものだった。


「マスター、重心が左にブレています。原始の不整地でその姿勢は、命取りになります。体幹を意識し、大地の起伏を足裏全体で捉えてください」


 ジルの厳格とも言える正確な声が、踏み固められた土の上に響く。武は言われるがまま、器具を使わない自重による極限のプッシュアップや、スクワットの変形姿勢を維持し続けた。筋肉が悲鳴を上げ、全身から滝のような汗が流れ落ちる。前夜に頭へ叩き込んだ専門書の知識が、ジルの実践的なアプローチによって、生きた技術へと昇華されていく感覚があった。


 単なる筋力増強ではない。過酷な自然環境に翻弄されず、いかなる体勢からでも即座に近代兵器を構え、正確な射撃へと移行するための「動的体幹」の構築。それがジルのプログラムの本質だった。武の呼吸は荒くなり、視界が熱さで歪みそうになるが、生存への執念がその足を支え続けた。無用な血や争いは避けるのが本意だが、もし明確な脅威が牙を剥いた時、自らが引き金を引く手が震えていては話にならない。圧倒的な暴力を躊躇なく、かつ完璧に行使するための肉体が、今まさに作られようとしていた。


 だが、武はただ盲目的に身体を動かしていたわけではない。彼は訓練の合間のわずかな呼吸の隙を突き、脳内の『異世界トレーダー』を動かしていた。肉体の強化と並行して、拠点の防衛力と資金力の強化を同時に進めるための「仕込み」を行うためだ。


 狙うは、先ほど選定していた驚異的な資金増殖の主軸――一挺あたり1,000万エンの市場価値を持つ、伝説的な多砲身機関銃『M134 ミニガン』のパーツキットである。

 分解されたパーツ単位は単体20kg以下を完全にクリアできてるので作成は可能だ。システムは即座に武の要求を承認した。


 武は自身の右手を運動場の端にある、平らな岩の上へと向け、権能を発動させた。


【異世界トレーダー:クラフト実行】


 ・M134 ミニガン パーツキット(完品市場価格:10,000,000エン)


 ・材料費(4分の1):2,500,000エン


 ・クラフト所要時間:15分


 ・計算式:103,156,000エン - 2,500,000エン = 100,656,000エン


 精神を集中させる。足元の空間が微かに歪み、緻密に削り出された6本のバレル(銃身)の束、堅牢極まるスチール製のレシーバー、そして電動駆動を司る強靭なドライブモーターの部品が、精密なパズルのように1つずつ形を成していく。ガトリング砲特有の重厚な金属パーツが、圧倒的な密度を伴って物質化していく光景は、シリアスな静寂の中で厳かに進行した。


 15分という錬成時間は、これまでのグロックやブレイザーの比ではない。だが、この最初の1挺さえ完了すれば、次からはシステム上の『自動連続クラフト・売却機能』を設定できる。すなわち、2挺目以降は武自身がその場に張り付いて精神を集中させる必要はなく、バックグラウンドでの自動錬成と自動売却が可能となるのだ。武は利便性を高めるため、あらかじめ5挺分の自動クラフトおよび自動売買のクラフト予約を一括で入力しておいた。


 ジルの指導による過酷なプッシュアップを耐え抜くと同時に、1挺目のパーツキットが至近距離の岩の上に具現化を完了した。武はすぐさまこれをトレーダーの売却(セル)ウィンドウへと放り込む。


【異世界トレーダー:自動売却実行】


 ・M134 ミニガン パーツキット売却:10,000,000エン


 ・純利益:7,500,000エン(差額4分の3)


 ・計算式:100,656,000エン + 10,000,000エン = 110,656,000エン


 ここからが本番だ。武はすぐさま思考の海でクラフト予約を起動させ、訓練へと意識を完全に戻した。


「マスター、背筋が曲がっています。あと15秒維持してください」


「くっ……了解……!」


 武が土の上で己の限界と戦っている間も、脳内のトレーダー画面では、武の精神を一切拘束することなく、まずは5挺だけ作ってみる。自動連続クラフトと自動売金が粛々と繰り返されていく。張り付く必要のない完璧な不労所得のシステムが、ジルの声の裏側で静かに資産を膨らませていく。


 手動の一挺、そして予約機能による五挺の自動サイクルが終了したとき、武の肉体は心地よい疲労感と、これまでにない充実感に包まれていた。原始の環境に適応し始めている己の身体が、一回りも二回りも強固になった実感が確かにあった。

 汗を拭いながら、武は脳内の最終リポートを確認する。


【異世界トレーダー:連続自動売却完了】


 ・合計6挺分の総純利益:45,000,000エン


 ・最終残高:148,156,000エン


 十万エンどころか、一千万エン単位の数字が目まぐるしく動き、武の資産は再び強固な大台へと乗り上げた。これだけの資金があれば、拠点の防衛設備をさらに近代化し、アンドロイドたちの装備を完全に実戦仕様へと移行させることが可能となる。


 武が思考を現実へと戻したその瞬間、見張り塔の上から鋭い警戒音が響いた。


「マスター、前方の密林、距離300。複数の大型生物の動体反応を感知。こちらへ向かって急速に接近中」


 見張り塔のアンドロイドが、手にしたライフルの銃口を鬱蒼と茂る緑の深淵へと向け、迷いのない声で報告する。ジルの表情が一瞬で引き締まり、武の前へと進み出て庇うような体勢を取った。


 不気味に揺れる巨木の隙間から、地響きと共に現れたのは、現代の地球では決して見ることのできない、原始の巨獣たちの姿だった。飢えと凶暴性を孕んだ眼光が、新しく作られたばかりの運動場へと向けられる。


 武は恐怖に身をすくめることはなかった。生存への強い執念が、彼の瞳に冷徹な光を灯す。温慢な一般人としての心はあれど、牙を剥く明確な脅威に対しては、近代兵器の圧倒的な暴力をもって全力で粉砕する。そのために、彼はこれまで血の滲むような準備を重ねてきたのだ。


「ジル、各員に告げろ。迎撃用意。我々の安住の地を汚す肉食獣どもに、近代兵器の火力を叩き込む」


「了解、マスター。全ユニット、エンゲージ。圧倒的火力をもって、脅威を完全に排除します」


 ジルの厳格な号令と共に、アンドロイドたちが一斉に射撃姿勢を取る。原始の静寂を破り、最先端の戦術と暴力が、古代の怪物たちを迎え撃つために発動しようとしていた。


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