↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/24

第十一話 商品カタログ

 闇が支配する洞窟の奥、CheyTac M200の自動生成ラインが静かに、組み立て続けている。稼働するシステムの淡い光に照らされながら、山門武は『異世界トレーダー』の膨大な取引ラインナップを今一度、網羅的にスクロールしていた。


 網膜に映し出される情報の質量に、武の思考がわずかに凍りつく。


 そこには、これまでに購入した銃器や人力の工具、医薬品、缶詰をはじめとする食料といったサバイバル用の物資だけが並んでいるわけではなかった。「兵器」のカテゴリを深く掘り下げた瞬間、凄まじい数の羅列が視界を埋め尽くした。


 実戦配備されている現用戦車や装甲車といった車両の数々。超音速で空を支配する最新鋭の戦闘機。一国家の予算を容易に吹き飛ばす巨躯の軍艦。さらには、一撃で都市を焦土と化す無誘導爆弾や巡航ミサイル。そのリストの最深部、最悪の項目に到達した時、武の顔が引き攣った。


【大量破壊兵器:核兵器】


 冷徹なデジタル文字が、現代日本の一般人であった武の倫理観を容赦なく揺さぶる。この未開の原始地球において、神の領域すら超えた絶対的な破滅の力が、ただの数値と引き換えに手に入るという事実。


(……これ一つで、人類の歴史を始める前に終わらせられるぞ)


 背筋に冷たい戦慄が走る。この圧倒的な暴力を前にすれば、原始の獰猛な猛獣も、これから出会うかもしれない異民族も、すべて等しく塵へと還る。だが同時に、あまりにも過剰すぎるその力が、自分の背負う狂気の重さを物語っているようだった。安住の地を作るために、自分は世界の命運すら買い叩けるシステムを握っているのだ。


 武は小さく息を吐き、奥歯を噛み締めて気を取り直した。


(落ち着け。今の俺に必要なのは、国家を滅ぼす戦略兵器じゃない。明日の生存確率を1%でも引き上げるための現実的な道具だ。分不相応な玩具に溺れれば、それこそ足元をすくわれる)


 喉の渇きを覚えながら、武は冷酷なまでに実用的な次なる商品へと、血走った眼を向け続けた。


 視線をさらに下層へと滑らせると、そこには「未来」の項目が連なっていた。


 網膜に投影されるのは、驚異的な技術の結晶だ。極薄で透過型の未来的な携帯デバイス。装着するだけであらゆる電磁波や生体反応を視覚化する多機能な電子メガネ。そして、数百年単位の終末環境ですら完全に品質を維持し、あらゆる栄養を完全に補給できるという謳い文句が躍る加工食糧の数々。


「人類、まだ始まってないんだけどな……」


 暗闇の中で乾いた独り言が漏れる。文明の夜明け前であるこの原始地球において、時空の終着点にあるようなオーパーツを買い漁る状況の歪さに、武は奇妙な眩暈を覚えた。


 武は意識を切り替え、今度は「魔法」や「超能力」と銘打たれた未知のカテゴリへと指を動かした。


 魔法の欄をタップすると、古めかしい羊皮紙の巻物や、禍々しくも美しい意匠が凝らされた魔導アクセサリー、刀身から陽炎を揺らめかせる炎の剣が立体像として浮かび上がる。さらに、濁った色彩を放つ各種の魔法薬品や、一頭分で一国を買い落とせそうなドラゴンの爪、極彩色の鱗といった幻想的な素材が、整然と価格と共に陳列されていた。


 一方で、超能力の欄を開くと、そのラインナップは奇妙な現実感を帯びていた。


 生活用品の項目は現代日本のものと大差ない。だが、能力そのものに関わる機材はどれも胡散臭く、かつ冷徹な実用性を漂わせていた。超能力を一時的に三分間だけ爆発的に増幅させる謎の液体が詰まったアンプル。対象の精神波を測定して強度を測る特殊な電子キット。さらには、特定の脳波を妨害して超能力の不法行使を防ぐという、ディストピア的な防犯装置にいたるまで、多種多様なシステムが並んでいる。


 原始の闇、超科学の兵器、そして未知の神秘。それらすべてを金で支配できるという全能の権能を前に、武の指先は静かに次の選択へと動きを求めていた。


 画面の青白い光が、武の冷徹な眼差しの奥で静かに揺らめいていた。


(銃器だけに拘る必要はない。この『重量の制約』を逆手に取るなら、小さくて、軽くて、狂ったように高いものこそが、最強の錬金素材になる)


 武は、明日以降のさらなる資金増殖を見据え、次なる主軸となる候補の選定に入った。直ちにラインを切り替えるわけではない。今夜は CheyTac M200 がすでに安定して金を紡いでいる。だからこそ、じっくりと冷酷に次の一手を値探る時間が残されていた。


 まず目をつけたのは、米軍特殊部隊仕様の双眼式ナイトビジョン『AN/PVS-31A』だ。重量はわずか約450グラム。手のひらに収まるサイズでありながら、現実の市場価格は一基あたり約250万円に達する。構造は電子部品と光学レンズの複合体だが、 CheyTac M200 ほどの可動金属パーツの擦り合わせはない。錬成時間が短縮できれば、時間あたりの効率は跳ね上がる。


 次に、未来カテゴリの『超高精度多機能電子メガネ』。こちらも重量は数十グラムと皆無に等しいが、オーバーテクノロジーゆえに一売却あたりの単価は3,500万円という狂った数値を弾き出している。さらに魔法カテゴリの『古代ドラゴンの逆鱗(精製済)』にいたっては、数センチメートル四方の結晶でありながら、取引価格は一片1億2,000万円。組み立ての手間すらなく、インベントリ内での生成・売却ループにはこれ以上ない劇薬に見えた。


 だが、武の指先は、その「未来」と「魔法」の項目を前にしてぴたりと止まった。


(……待て。まだ未知のテクノロジーやオカルト素材の『売却の安定性』が分からない。もしシステム側で一時的な買い叩きや、錬成に必要な未知のバグが発生したら、今の盤石な資金ラインが崩れる。何より、俺の知識の外にある構造物は、ハンドクラフトの『組み立て・調整』のフェーズで思わぬエラーを誘発しかねない)

 生存確率を確実に上げるための現実的な目線。それが武の暴走を押し留める。


(確実にいく。まずは現行の地球に存在する、物理的かつ最高峰の工業製品だ)


 武が最終的に視線を定めたのは、兵器カテゴリの怪物――『M134 ミニガンのパーツキット』だった。


 毎分最高6,000発の弾丸を吐き出す電動式ガトリングガン。完品の総重量は約18キログラム。一挺あたりの現実世界における市場価格は、軍用グレードで約1,000万円と跳ね上がる。総重量18キロであれば、パーツ単体は最大でも数キロ程度。「武一人の腕力で組み立て・調整が可能」という絶対条件を完全に、かつ完璧な余裕を持ってクリアしている。


( CheyTac M200 の単価は225万エン。対して M134 ミニガンは1,000万エンだ。一回あたりの純利益が4倍近く違う。構造はモーターと6本のバレルによる回転機構で複雑だが、パーツ単位での錬成なら、一回あたりの組み立てに要する時間は15分掛かる。だが、それを差し引いても一発の利益がデカい。)


 これならば、重量制限のペナルティに怯えることなく、一度の錬成サイクルで莫大な資金を安全に、かつ爆発的に増殖させられる。


(次の主軸候補は、このミニガンで決まりだ。CheyTac のラインで行き詰まったら、即座にこれへ切り替える)


 暗闇の中、次なる錬金計画の青写真を脳内にしっかりと刻み込んだ武は、静かにシステム画面を閉じた。網膜を焼いていた青白い光が消え、洞窟は再び CheyTac の生成ラインが放つ微かな明かりだけになる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。