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 1ー2 「終わりの始まり」

体を焼かれた感覚はしなかった。

 ただ、閃光を見てから意識が途絶える刹那に思った色々なことは覚えている。

 劇薬(除草剤)をコーヒーの近くに置いておくんじゃなかったとか、もっと真面目に書類を処理すれば良かったとか、そんなありふれたこと。

 そして、別れの挨拶くらいはしたかった相手のこと。

 

 あと大事なのが、私が残していったあの魔術達のこと。


 振り返ると、後悔が無かったようであった人生。


 できるのならば、もう一度、魔術が存在する世界に魔術師として生まれたい。



 私はそう強く願った。


 何度も、何度も。繰り返し。


 

 ──そよそよと流れるそよ風に誘われ目を開けると、眩しいくらいの日差しが降り注いでいた。大の字で寝転がっていた私は光の方に手をかざす。

「おてんとさま?」

頭がぼんやりしていたのだが、もう見るはずのない太陽に驚き飛び起きる。

 見渡す限りに青々とした草、草、草。

 そして、慣れない感覚。背中に何かふわふわとした何かがついているような。確かに自分のものなのに、自分が持っているものではないような。試しにその何かを自分の手前に持ってくる。

「つっ、翼?」

 私の目に映ったのは、純白に輝く一対の大きな翼。

(ここは死後の世界?いや、何かが......違う)

 そう思っていた時、周りの景色がみるみると変わっていった。青々とした草原から、黄金色の麦畑に。


 ヒュゥゥッ


 突風が吹き、黄金色の麦が一斉にさざめいた。その時

「こんにちはぁ、ルシアちゃ〜ん」

 後ろから大人っぽい女の声がしたので、振り返ってみる。その先には、おっとりと笑っている神々しいオーラを纏った金髪の女がいた。

 純白と金のシンプルなデザインのドレープドレスに、髪には葉の形が形どられた金のサークレットが飾ってある。

「ルシア?」

 私の名前はリリー・フロスティアだ。何かの間違いではないのだろうか。

「あらぁ、まだ自我が芽生えたばかりで状況がよく分かっていないのね」

 女はそう言うと、人差し指を一振り。すると、目の前にティーセットの乗った白いテーブルと二脚の白いチェアが現れた。

「座ってゆっくりお話しましょ〜」

立ち上がって、言われた通りにチェアに座ってみる。そして、同じく女もチェアに座る。

「う〜ん、どこから話せばわかりやすいかしらぁ。とりあえず説明するから、よ〜く聞いてね」

 私はこくりと頷く。

「まず、私は女神。皆からは女神さまぁって呼ばれてるのぉ。そして、ここは天界。無数ある世界を管理している特別な世界よ。こうした方がわかりやすいかしらぁ」

 女神がそう言うと瞬く間に周りの景色が、黄金色の麦畑から無数の星がキラキラと輝く星空に変わった。

「わぁ!」

「綺麗でしょう?この星一つ一つが世界なのぉ。本当は別々の世界だから繋がっていないんだけれど、ここではこんなふうに繋がって見えるのよ」

 私は、吸い込まれるように星空を眺める。すると、星屑を散らす流れ星を見つけた。

「女神様、あれは?」

「あれは、とある世界が滅びたところね」

 平然とそんなことを言う女神を見て、転生やら天界やらで、もう十分混乱している頭がさらに混乱し、頭が完全に機能を停止する。

 そんな私をよそに、女神は上品にティーカップを持って紅茶を啜っているのだが。

「この世界達を管理するのがあなた達、天使なのぉ。ルシアちゃんは上級天使ね」

脳内に、言葉の爆弾が投下される。だが、ちゃんと反応はするべきだ。

「はあ」

 女神はルシアを見て柔らかな笑みを浮かべる。

「では早速......」

 ルシアは固唾をのむ。これは、面倒臭い世界の管理を頼まれる流れではないのだろうか。

「第七十二世界の管理を頼みたいのぉ。前の担当の子はおイタをしちゃったからぁ、翼をもいじゃって☆」

 ルシアの頭の中で「翼をもいじゃって☆」がエコーする。この女神様、実は結構物騒だったりするのだろうか。自分が故意に世界を滅亡させても同じことを言いそうだ。

 とにかく、仕事でヘマをしたら消される......ということだ。

「ルシアちゃんも気をつけてね〜」

 この言葉ががやけに冷ややかに聞こえたのは気のせいだと思いつつ、ルシアは、仕事でヘマをしたら消されるということを肝に銘じるのだった。


 ──100年後。

「仕事やだぁ〜」

 全面スクリーン張りの部屋の中央で、プラチナブロンドの髪を乱しながら駄々をこねているのは私、ルシアである。


 天界に転生してから100年、本当に色々なことがあった。


 まずは仕事について。

初日に天界全書とかいう、とてつもなく分厚い本を丸暗記させられた。

 それからは毎日のように世界の管理、管理、管理。

今は、第十四世界の管理をしている。

 第七十二世界の管理はどうしたかって?

第七十二世界は滅びた。もちろん私のせいではない。

 どうやって滅びたかというと、魔王を討伐し終わった勇者がうっかり自爆して、その衝撃波で世界がバーン!

みたいな感じ。

 そういう運命だったとはいえ、あまりにもあっけない。私の死に方の方がまだ良いのでは?と思うほどに。

 そして、今管理している第十四世界はというと......

 

 正直言って、早く滅んでほしい。


 魔術の代わりに、科学?とかいうよくわからないものが発展している世界なのだが、魔術一筋の私にとってはつまらない世界なのだ。

 それに、もう70年ほど魔術に触れられていないせいか、鬱がすごい。

 夜には「うぅ、かみさまぁ、なんでっ、なんで、まじゅつがある世界に、ヒック、てんしぇいさしぇてくれなかったのぉ、うぅ、うわぁぁん!!!」と泣き叫ぶ始末。

 さらに、天使は不老だとかいう情報も追加されて、鬱が酷くなったところである。

 そんな魔術廃人の私が70年も持ち堪えられたのはまさに奇跡だ。


 次は、印象的だった第三次天冥大戦について。

世界の秩序を司る天界と輪廻転生を司る魔界。

 力を欲した魔界の悪魔たちが、天界と魔界が最接近する「交界の日」に、天界を侵略しようと攻撃を始めた。

 この戦争は一週間ほどで終戦を迎えたのだが、その被害は甚大だった。

 私は天界で絆を深めた唯一の友を失い、天界は半壊した。

 ......というような感じだ。あまり良い記憶ではないので、ここまでにしよう。


「はぁ」

 圧倒的無気力感と疲労感。

「転生したのは良いものの、魔術が無くては意味がないのだよ」

 そう呟いた時だった。

体がふわりと浮かび、柔らかな光に包まれた。

 これは......


  女神の呼び出しだ!!!


 えっ?私、何かした?何もしてないよね?


私は断言する。女神の呼び出しにはろくなことがないのだと。


 目を開けた瞬間に瞳に映ったのは、数多の世界を表した星空。

 そして、その向こうに

「久しぶりね、ルシアちゃん」

女神がいた。

 ティーセットと菓子が置かれた、白いテーブルに二脚の白いチェア。あぁ、前回と同じだ。

 私は恐る恐る座り、挨拶を返す。

「お久しぶりです」

「今日はねぇ、大事なお話があって呼んだのぉ」

 嫌な予感しかしない。私は固唾をゆっくりと呑む。

「第一世界が滅びちゃうの〜」

「へ?」

 天界全書に載っていた、始まりの世界のことだ。詳しくは書かれておらず、ただ一行「第一世界とは全ての世界の根源であり、力の源である」と書いてあっただけ。

 でも確かなのは、第一世界が滅びたら、他全ての世界が力を失って連鎖的に滅びるということ。

 ここまでの話から、私が何をさせられるのかがわかってきたが、一応女神に聞いてみる。

「それで、私は何をすれば良いんですか?」

「転生して、第一世界を救って〜」

 にこりと微笑む女神。そして私は、予想の斜め上の返答に目を点にする。

 いやいや、一旦落ち着こう。

私はティーカップを手に取り、ほんのりと香る甘い匂いを吸い込んでから、紅茶を啜る。

「あっ」

 落ち着いたところで、重要なことを聞き忘れていることに気づいた。

「あの、いつどんなふうに滅びるんですか?」

「第一世界には、直接干渉できないからぁ、わからないのぉ」

 微笑む女神に微苦笑する私。これは割と、いや、だいぶ致命的ではないのだろうか。

「じゃあ、いってらっしゃ〜い」

「ちょっと待っ......」

 私は猛烈な眠気に襲われる中、思った。


うぅ、どこかに籠って魔術の研究がしたい......と。


 そして、天界でルシアの転生を見届けた女神は呟いた。

 「お手並み拝見☆」

次回、「アルステリア」

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