表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者を交換ですか?いいですよ。ただし返品はできませんので悪しからず……  作者: ゆずこしょう
新しい婚約者。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/38

どうやらアポロ様は王太子殿下の顔を知らなかったようです。

「話の途中に入ってきてしまってすまないね。」


扉が開くと同時に、聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「オスト様……」


オスト様の後ろからは、バネッサとオスト様の従者であるアルマンが入ってきた。


どうやら、バネッサが見るに見兼ねてオスト様を呼んできてくれたらしい。


もしかしたら、アルマン様が呼ぶように指示を出したのかもしれないけれど……。


「やぁ、ヘリーオストじゃないか。元気だったかい?」


先ほどまでとは打って変わった態度で、オスト様に向かっていくダルデンヌ公爵。


アポロに至っては、パーティーの時とはあまりに風貌が変わりすぎていて、誰だか分かっていないようだ。


「プロメティオス叔父上。——いや、ダルデンヌ公爵。お久しぶりですね。パーティー以来ですから三か月振りでしょうか。お変わりなさそうで何よりです」


見た目は笑顔で近付いてくるものの、その場の空気は明らかに張り詰めていた。


——怒っている。


そう感じさせるには十分すぎる空気だった。


「あ、あぁ……それよりヘリーオストは何故ここにいるんだ?ここはそこの阿婆擦れの家だろう?」


私を顎で指しながら言い放つダルデンヌ公爵。


普段から女性を軽視しているのがよく分かる発言だ。


こんな場面をお母様が見ていたら——間違いなく大惨事になっていただろう。


少しだけ、お母様がこの場にいないことに安堵する。


「ほぅ……なぜ私がここにいるのか、ですか」


オスト様の声が、わずかに低くなる。


「ダルデンヌ公爵は何もご存知ないのですね。それとも忘れてしまったのでしょうか?でしたら——その頭は飾りですか?」


言葉の一つ一つに、棘がある。


明らかに怒りを抑え込んでいる声音だった。


普通ならば、ここまで言われれば動揺するはずだが——


ダルデンヌ公爵も、アポロ様も、まるで効いていないようにあっけらかんとしている。


……ある意味、強者かもしれない。


「アポロ殿は、あの場にいたのですから、一部始終をご存知のはずですが?聞いておられないのですか?」


オスト様が視線を向けると、アポロ様は首を傾げた。


「君は、誰だい?僕は君とどこかで会ったことがあるだろうか。可愛い子猫ちゃんの顔なら忘れないんだけどね……」


「「「「は?」」」」


私だけでなく、オスト様、バネッサ、そしてアルマンの声が重なる。


婚約者の頃から少し頭が弱いとは思っていたが——


まさか、ここまでとは思わなかった。


婚約破棄できて良かったと、心の底から思う。


「どうやら、私の顔も覚えられていないようですね。一応、従兄弟なのですが……自己紹介した方が良さそうだ」


オスト様のこめかみが、ぴくりと動く。


「アポロ殿。私はヘリーオスト・アンベール。《《アンベール国の》》王太子です。以後、お見知り置きを」


静かだが、確実に圧を乗せた声音だった。


「ヘリーオスト王太子殿下のことは知っているぞ。父上が言っていた。なよなよしていて頼りない、顔も美男とは言い難い、嫁すらできないだろうと。彼奴が王になればこの国はすぐ滅びるともな。僕が次の国王だとも言っていた。まぁ、よろしく頼む」


——空気が凍る。


誰も、言葉を発せない。


ダルデンヌ公爵の顔色が、みるみるうちに青くなっていく。


「きょ、今日はここで失礼する!いいか、阿婆擦れ女!今度はコルベール侯爵がいる時に来る!慰謝料の件、伝えておけ!」


そう言い捨てると、目の前の紅茶を一気に飲み干し、アポロ様の首根っこを掴んで強引に部屋を出ていった。


***


「何だか……嵐が過ぎ去ったみたいですね……」


「あぁ……そうだな……」


滞在時間は一時間にも満たないはずなのに、体感としては一週間分の疲労が溜まったような感覚だった。


これなら、王都で公務をこなしていた方がよほど気が楽かもしれない。


「メルティ……すまないが、先ほどの件を父上に伝えておきたい。君はどうする?」


「そうですね……。こちらにいるより、王都の方がゆっくりできそうです。私も一緒に戻ります」


ここにいれば、またあの二人は来るだろう。


それならば、王都に戻った方が賢明だ。


「分かった。では一緒に戻ろう。侯爵にも話しておきたい。今週末に戻る予定だが、いいか?」


「はい、大丈夫です。それまでに準備をしておきます」


今後の予定を軽く確認した後、私たちは再び席に着いた。


先ほどまでの騒がしさが嘘のように、静かな時間が戻る。


紅茶の香りと、本のページをめくる音だけが、穏やかに流れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ