あっという間の3ヶ月。
婚約者を交換してから、三か月が経った。
この三か月は、いつもよりも慌ただしく過ぎていった気がする。
婚約者交換とは体よく言ったもので、結局は一度婚約を破棄し、再度婚約するという流れになっている。
今回の原因はすべてアーテリアということになり、ジュアン家が損害を受けることになった。
王家としては、これまで教育のために渡していた資金の全額返還を求めたらしい。
王太子妃教育のために渡されたはずの金は、一切教育には使われず、ドレスや宝石に消えていたという話だが……。
少しでも教育を受けていれば、あのパーティーでのような振る舞いにはならなかっただろう、と感じる。
そして、ヘリーオスト王太子殿下といえば——
なぜかコルベール領に一緒に来ている。
私が王都の屋敷にいる間は、頻繁に顔を出していたのだが、王太子妃教育もある程度区切りがついたことで、一時的に領地への帰還が許されたのである。
「オスト様は王都にいなくてよろしいのですか?お仕事などもあるのでは?」
「あるよ。でももう終わっているから大丈夫。それに、今はメルティと一緒にいたいんだ」
にこにことこちらを見るオスト様を見て、年上ながらも少し可愛らしいと思うようになってきていた。
余談だが、オスト様は長かった髪を短く切り、以前のようなむさ苦しさは一切なくなっている。
改めて見ると、ウラヌス国王とガイア王妃の子であることを強く感じさせる、整った顔立ちをしていた。
ピンクがかった金髪に、タンザナイトのような紫の瞳。
アポロ様も整った顔立ちではあったが——オスト様の方が明らかに上だと思う。
もちろん、顔だけではないのだけれど……。
「そういえば、今さらですが……どうして髪を伸ばしていらしたのですか?」
「あぁ……アーテリアから逃げるためだよ」
オスト様の話によれば、小さい頃からアーテリアには随分と振り回されていたらしい。
王妃主催のお茶会に婚約者として呼べば、紅茶をこぼし、お菓子を散らかし、さらには他の令嬢に暴言を吐く始末だったという。
「子供の頃は仕方ないと周りも目をつぶっていたけどね。でも、それが許されるのは子供のうちだけだろう?見かねた父上が、きちんと教育させろとジュアン侯爵に言ったんだ。……そしたら、教育費がないと言われてね」
公爵家にはなかなか女児が生まれず、侯爵家や辺境伯家も年齢が離れていたり男児ばかりだったりと、婚約者を変更することも難しい状況だったらしい。
そのため国王は、やむを得ず教育費を支給することにしたのだという。
もちろん、婚約が破棄された場合は全額返還するという書類も交わしていたようだが……。
「もう少しメルティが早く生まれていればね。最初から君が婚約者だったかもしれない。……まぁ結果的に、アーテリアのおかげで君と結婚できるんだ。そこは感謝しないといけないかな」
恥ずかしい言葉をさらりと言ってのけるオスト様。
それが本来の姿なのだと、最近ようやく慣れてきたが——それでもやはり、顔が熱くなる。
「本当に、オスト様はヘルお兄様にそっくりです……。私、この本を読み終えたいので、少しだけ邪魔をしないでくださいませ」
本で顔を隠しながらちらりと見ると、オスト様はくすりと笑い、そのまま手元の本へ視線を落とした。
***
鬱陶しく感じていた前髪と後ろ髪を、ようやく切った。
アーテリアとの婚約を解消してからのことだ。
あの女は、美しい男にしか興味がない。
だから顔を隠し、弱々しい王子を演じていれば寄ってこなくなると考えた。
結果として、それはうまくいっていた。
おかげで、随分と過ごしやすくなったものだ。
私の本来の性格を知っているのは、側近と家族くらいだろう。
それ以外には気づかれないよう、慎重に振る舞ってきたつもりだ。
ヘルがよく妹の話をしていたこともあり、会ったことはなかったが、興味は持っていた。
読書が好きで、勉強熱心。
新しい知識を得ることに喜びを感じる性格だという。
さらに、自身の身を守るために剣や護身術も学んでいると聞いた。
一度でいいから会ってみたい——そう思い続けていたが、機会はなかなか訪れなかった。
そして、ようやく会えたのがあの日だった。
挨拶を受けた時、自分でも驚くほど緊張していたのを覚えている。
演技だと思われたかもしれないが、あの時の私は本当に言葉が出てこなかった。
それほどまでに——メルティは魅力的だった。
この国一の美男子と名高いアレウス殿と、絶世の美女と称されるアフロディーナ様の娘。
その血を引いているのだから当然だろう。
兄たちも整った顔立ちではあるが——
彼女はまた別格だった。
切れ長の目元、口元の黒子が色気を引き立てる。
ややふっくらとした唇は母親譲りだろうか。
通った鼻筋は父親譲り。
白みがかった金髪と、夜空のような瞳は、見る者を惹きつけてやまない。
婚約者を交換してから三か月。
王太子妃教育にも一切弱音を吐かず、表情も変えず、貪欲に取り組む姿を見て——
彼女を好きになるのに、時間はかからなかった。




