不穏。
「お久しぶりです。ヘシオネリア様。」
「本当ね。元気そうでなによりだわ。」
ヘシオネリアと挨拶している、この人がエリス・ジュアンか。
見た目は可もなく不可もなくと言ったところだな。
まぁ、そう感じるのは母上やメーティアを見て慣れているからかもしれないが…。
椅子を少し後ろに下げると、ヘシオネリアが座る。
ヘシオネリアが座ると、椅子が壊れるんじゃないかと言うくらい軋んだ。
「ヘシオネリア様。そちらの方、初めて見ますが…。」
「そうね!!新しく入った従者なの。ロキと言うのよ。」
ヘシオネリアの言葉に合わせて頭を下げると、視線がこちらに向いているのがわかる。
今の情報源を確保するためにも、ヘシオネリアの言われた通りに動かなてはならない。
僕がエリスの方を見ると、パチリと目が合って微笑まれた。
その目にゾクリとする。
綺麗すぎる笑顔を見るに、何かしら裏があるのはすぐに分かった。
「とても綺麗な方ね。本当にアレウス様そっくり。」
急に僕の耳元で囁くエリス。
それを見て嫉妬したのか、ヘシオネリアは僕の腕を引っ張って腕の中に閉じ込めた。
本当に臭いからやめて欲しい。
それよりも、エリスは今アレウス様にそっくりと言った。
そのアレウスの息子なんだから似ていて当たり前だと思うのだが、僕がアレウスの子供だと知っていてそう言ったのだろうか…
「それで、あの話はどうなっているの?」
「はい。滞りなく進んでおりますよ。
決行は建国祭最終日です。かなりの人数が集まってくれました。」
建国祭最終日。
人数を集めたという話から推測すると…反乱でも起こす気だろうか。
「そう…それは楽しみね。
これでやっとあのお方が手に入るわ。本当に長かった…フフフ」
あの方…まだこいつは父上を諦めていなかったということか…。
アポロやダルデンヌ公爵は、うちの家の財産と王位にしか興味がなさそうだったが、ヘシオネリアは財産が欲しかったのではなく父上が欲しかったのだろう。
この話は早めに伝えなければならないが…
僕は顔色を変えないように気を付けながら、頭の中で今後のことを考える。
どうやってこのことを父上に知らせるかだが…
アーロンには1月、僕が戻らなければ手紙を届けるように伝えてある。
しかし、下手に仕事を今やめて離れるよりは、このままの方がいいだろう。
それにしても反乱を起こそうとしているのを、ダルデンヌ公爵は知っているのだろうか…。
できればどこかで執務室などを見て、金の動きなども調べておきたかったが…
この1か月、ダルデンヌ公爵を見たのは一度きり。
それもすぐに家を出て行ったから、何をしに来たかわからない。
今晩も戻ってこないようであれば、ヘシオネリアが寝た後に一度執務室に行ってみるか…
建国祭まで残り1か月もない。
お祖父様側でも何かしら動きがあるだろうから、知らせはそちらに任せるとして、今できることをやろう。
***
「ハックシ…。」
急に鼻がむずむずしてきて、くしゃみが出る。
誰かが儂の噂でもしておるのだろうか…
「あら、風邪?コルベール領に比べれば全然暖かいと思うけれど…」
「いや、鼻がむずむずしただけじゃ。
それにしてもこの1か月、暇だのう…この領地はあまり遊ぶところもない…」
町として機能はしているが、特産物などもなく、観光地というわけでもないからか出かける場所も少ない。
「ちょっと、オルフェウス。これもメルティのためでしょ?しっかりなさいな…」
元々は一人でジュアン領に来ようと思っていたが、ヘラも一緒についてきてくれて助かった。
儂だけでは飽きていたはずだ。
ジュアン侯爵領に来てから、儂たちは家を借りて二人で住んでいる。
設定としては老夫婦がゆっくり過ごせる場所を探して、この地にたどり着いたということにした。
他領地から来る人は比較的嫌われやすいが、ここはそうでもないらしい。
「わかっておる。それよりもあそこを見てみろ。」
この1か月、全く動きのなかった人物がついに動き出した。
「あの二人は…エリスとプロメティオスではないか…」
仲睦まじそうにお互いを見つめあい、とても幸せそうだ。
どう見ても恋人同士に見えるが…
「ヘラ…あの二人は元々恋人同士とかなのか…」
ヘラが知っているかはわからないが、念のために聞いてみる。
「私がお茶会に参加しているときに、そういった話は聞かなかったですけどね。
この辺りは同年代でもあるアレウスやアフロディーナの方が詳しいのではないですか?
手紙で聞いてみましょうか…」
確かに手紙を出して聞いてみるのも一つだろうが、どこで誰が見ているかわからない以上、今手紙を送ることは得策ではない。
「いや、今はやめておこう。
取りあえずあの二人の動向を調べるのが先だ。
あともう一人、ネレウスについて調べておこう。
できればどう思っているか知っておきたい。二人の関係について知っているのか。」
ヘラはエリスとプロメティオスの動向を追うとのことなので、ネレウスのことを任せ、儂はエリスとダルデンヌ公爵の関係と動向を探った。




