返品する気はないと聞いて安心しました。
「オスト様……大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……すまない。取り乱すつもりはなかったんだが……」
オスト様が取り乱すのも無理はない。
自分のことを悪く言われただけでなく、父親の話までされたのだ。
「メルティ。君のことは俺が守るから……アポロのところに戻らないでくれ……。」
自分のことや父上のことを色々言われて、気持ち的にも沈んでいるだろうに……。
それでも私のことを心配してくれるなんて、本当に優しい方だ。
「当たり前じゃないですか。
先ほどお二人にもお伝えしましたが、交換はもうする気もありませんし、オスト様がいくらアポロ様に返品したいと思っても返品はできませんので……覚悟しておいてくださいね!」
いつもより明るめのトーンで伝えると、オスト様は呆けた顔をしてから、大きな声で笑い出した。
「ふ、ふ……ハハハハハ!」
笑われたことで、顔が熱くなってくる。
「もう……な、なんで笑うのですか?失礼ではありませんか。」
「いや、すまない。返品不可か!それはすごくいいな。
俺もアーテリアに返品はできないからな。交換も不可だ。」
そう言って私の手を取った顔は、先ほどの不安そうな表情とは打って変わっていた。
安心した顔——そして、あの一家をどう処理するかを考えているような、猛獣のような顔。
休憩の時間はほとんどあの二人に取られてしまったため、私たちは急いで執務室へ戻る。
「メルティはここで仕事の続きをしていてくれ……俺は先ほどの話を父上と母上にしてくる。」
確かに、先ほどの話をすべて信じることはできない。
だが恐らく、あの二人は聞いたことをそのまま話しているのだろう。
良く言えば素直。悪く言えば——嘘をつけないほどに愚か、というところか。
私も一緒にと思ったが、まだ手紙が書ききれていない。
仕方なくそれを断念し、ひたすら手紙を書き続けた。
そのあとは貴族の顔を覚えたり、諸国の流行や特産品などを頭に入れていく。
王妃や王太子妃になるからといって、驕ってはならない。
――「いつでも見られていることを忘れてはならぬ。
貴族だからこそ、領民たちのために。新しいものを発信し続ける見本たれ。」
これはヘルお兄様の言葉だ。
お兄様の言葉は、いつもすっと心に入ってくる。
戻ってきた時は陽も高い位置にあったはずなのに、外を見るともう日が傾き始めていた。
机に向かっていると、あっという間に時間が過ぎる。
オスト様が国王陛下のもとへ行ってから、もう一時間以上は経っている気がする。
きっと、色々な話をしているのだろう。
「保守派と革新派ね……」
一番国王を狙いやすいタイミングは、建国祭中だろうか。
建国祭は王都全体で祭りになるし、他領や他国の商人たちも多く出入りする。
通常であれば他領に行くのは有料だが、建国祭の一週間は出入りが自由になる。
もちろん、自由といっても入国審査はあるけれど……。
それでも人の出入りが増える分、普段より審査が緩くなると聞いたことがある。
「メーティアお嬢様、どうかなさいましたか?」
「なんでもないわ!ちょっと考え事をしていただけよ。」
色々考えたいことはあるけれど、まずは目の前の仕事を片付けることが先だ。
――「焦ってもいいことはないわ。
やらなければならないことが多いときほど、冷静になりなさい。」
ニケお兄様が、いつもお母様に言われていた言葉を思い出す。
貴族たるもの、どんな時も冷静でいることが大切。
焦った時こそ、大事なことを見落としやすい。
「あと、ひと踏ん張り頑張りましょう。」
***
「父上はいますか!?」
俺は急いで父上の執務室へ向かった。
本来であれば予定を確認してから訪ねるべきだが、今回は緊急を要する。
メルティと別れてすぐ、足を運んだ。
「いるが、そんなに慌ててどうした?」
「お忙しいところ申し訳ございません。
急ぎお伝えしたいことがありましたので……」
早歩きで来たため息が上がっていた俺は、深呼吸をして呼吸を整える。
「実は……先ほど、アポロとアーテリアと会いました。
そこで妙な情報を手に入れまして……」
俺は先ほどの出来事を説明していく。
今年の春先に王族の入れ替えを考えていること。
暗殺なのか、追放なのかは不明だが、次の国王はアポロだと話していたこと。
「聞いた限りでは……恐らく保守派が一枚噛んでいるかと。
父上の知る保守派で、少し過激な人物に心当たりはありませんか?」
基本的に王家は革新派だ。
そして、コルベール家、ボードリエ家、カニャール公爵家、フォートリエ辺境伯家も同様に革新派である。
「ダルデンヌ家はどちらにも属していないはずだったが……」
「アポロの話を聞く限り、口車に乗せられた可能性が高いかと……」
「なるほどな……確かにそれなら……あり得る。」
父上はしばし考え込み、それからゆっくりと口を開いた。




