未だに夢から覚めないお二人へ。
オスト様を見ると、敢えて言わなくていいと顔で訴えてくる。
いくら前髪とかで隠れていたからって、そんなにも婚約者の顔を覚えていないものだろうか。
でも私もアーテリアの婚約者がオスト様だと知らなかったくらいだから、知っていた人は数少ないのかもしれない。
普通だったら王太子に婚約者が出来れば大々的に発表されるのだろうけど、それをしなかったのはきっと意味があったのだろう。
「はぁ……お二人はなぜこちらにいらっしゃるのですか?」
「ここは自由に使っていい場所なんだから、いてもいいじゃない。
それよりもそちらの彼、とてもかっこいいわね。メーティアの愛人?」
あ、あ、愛人!?
なぜ直ぐに恋愛と結びつけるのだろう……。
この方は、あなたの元婚約者です。
「違います。ヘリーオスト王太子殿下の側近の方ですわ。名前はヘルメントと言います。」
お兄様、申し訳ございません。お名前拝借いたしました……。
「へぇ、あの王太子の側近の方なのね……。」
うっとりした顔でオスト様のことを見ている。
「はじめまして。ヘルメントと申します。
申し訳ございませんが、ここは自由に使用出来る場所ではありますが、申請が必要です。
それと金貨一枚の使用料がかかるのですが、支払われていますか?」
オスト様も私の話に乗ってくれるようで、少し声色を変えながら二人に話しかけた。
「それならアポロ様が……ねぇ?アポロ様?」
アポロ様に話しかけながらも、顔はずっとオスト様を見ている。
まるで獲物を見つけた猪のようだ……。
そのお方は、あなたが交換したいと仰ったヘリーオスト王太子殿下ですよ……。
「アポロ様。お久しぶりですね。それで申請は……?」
「メーティア。君はいつ見ても美しいね……やはり僕の隣には君のような……」
「そういったお話は結構ですので!」
アポロ様は以前、自分が言ったことを忘れたのだろうか。
アーテリアのような人が好きだと、人のことを阿婆擦れだなんだと罵っていたのを、私は忘れない。
ちなみに今のアーテリアの目の方が、よっぽど阿婆擦れだと思うけれど。
「アポロ様、それで申請はされてるんですか?」
「申請……?なんだいそれは……。王族にそんなこと必要ないだろう?」
………。
「王族……?」
「あぁ、そうだ!近々国王が僕に変わると父上が言っていた。
あ、これは内緒だったんだ。
ま、まぁ兎に角、僕達がここにいたって何もおかしくないだろ?なぁアーテリア。」
「そうですわ。私のパパも言っていたもの。もうすぐ私が王妃になるって。
だからメーティアも私の言うことは聞いておいた方がいいわよ。」
オスト様は二人の話を聞いて、拳を強く握りしめた。
国王が変わるということは、暗殺でも企んでいるのか。
何をしようとしているのか……。
元々この国は保守派と改革派に分かれてはいたが、影で保守派の人たちが改革派の人たちのことを悪く言う程度で、そこまで目立った動きはしてこなかった。
ダルデンヌ公爵はどちらに付いているという訳ではなかったが……おそらく持ち上げられたのかもしれない。
そしてこの保守派を取り仕切っているのは誰だったか……。
ただ、この二人の話を聞く限り、アーテリアの父親も入っているのだろう。
「そうなんですか……ですがまだ王族では無いですよね?
いつ頃王族になるご予定なんですか?」
「んーっと、いつだっけ?アポロ様覚えてる?」
「いつだったかな。確か春だったか……夏だったか……そのくらいだったはずだ。」
もう少し情報を引き出したいのに、本当にこの二人は自分たち以外に興味が無い……。
「もういいじゃない。この国の王族は皆いなくなるのだから。
メーティアもあの王太子なんか辞めちゃいなさいな。
そしてアポロ様の側室にでもなればいいわ。
そこのヘルメントは私の愛人になりなさい。」
えっと……話が飛躍しすぎだ。
なぜ愛人とか側室の話になるのか……。
そもそもアポロ様となんて、こちらから願い下げだ。
そう思っていると、隣から大きなため息が聞こえた。
「はぁ……。これだけは言わせてもらおう。
アポロ。お前にメーティアをやる気は無い。
それにお前もだ。お前みたいな猪女の愛人になるくらいなら、いっそ死んだ方がマシだ。」
「い、い、猪女ってなによ!!」
「本当のことを言っただけだ。それも肥えに肥えた猪女だ。
豚の方がまだ可愛い。」
アルマンが衛兵を呼んで戻ってきたのをいいことに、オスト様は二人を衛兵に突き出す。
申請の意味もわかっていないし、どうせお金も持っていないと思う。
なんなら金貨なんて持っていたら、すぐ使ってしまいそうだ。
「し、し、失礼しちゃうわ!ちょ、ちょっと離しなさいよ。」
衛兵が二人がかりで抑えても、抜け出しそうなくらいだ。
アポロはそんな中でも自分にしか興味が無いのか、ずっと自分の顔を見ていた……。
「あ、お二人にこれだけは言っておきます。
まだ夢の中のようですが、交換も返品も受け付けませんので。
末永くお幸せに。」
二人にそれだけ伝えると、衛兵がアポロ様とアーテリアを連れていった。
アーテリアは最後まで鼻息荒く足をじたばたさせていたが……その姿は、猟師に捕まったイノシシのようだった。




