大人たちの話し合い②~ウラヌス視点~
「父上、母上。お願いがございます。」
「なんだ……そんなに急いで。
聞いてみて次第だが、どんな願いだ?」
普段はあまり急いだりしないオストが、急に執務室までやってきたと思えば頼みたいことがあるという。
珍しいこともあるものだなと思って聞いてみると――年越しはコルベール領に行きたいということだった。
「なんだと!?コルベール領にか?
いいな……私も行きたい!ガイアはどうだ?」
「そうですね。最近は全然王都から出ていませんし、コルベール領でしたらアフロディーナお姉様にもお会いできます。
賛成ですわ!」
オストは「なぜこの二人も行くことになっているんだ」と不思議そうな顔をしていたが、そこは親の力でねじ伏せた。
そして出発当日までコルベールの皆には隠しておくように伝え、この日は話を終えたのである。
***
そして数日後。
私とガイアは目深くフードを被り、オストの後ろをついていく。
アレウスとは親友ではあるものの、会うのは決まって王宮ばかり……。
あまりコルベール領には来たことがなかったので、とても新鮮だ。
私たちがフードを外せば、案の定メルティが吃驚している。
この一家、あまり表情が動かないだけに分かりにくいが……何となく驚いているのは分かった。
一応宿は用意していたが、メルティの様子を見る限り侍女に指示を出している。
どうやら部屋を用意してくれるらしい。
そのままダイニングルームに案内されると、コルベール一家だけでなく、ボードリエ公爵夫妻も来ていた。
***
そして皆で食事を始めてから二時間ほど経った頃だろうか。
アレウスに執務室へ呼ばれた。
「それで……なんでお前がいるんだ……?仕事は……?」
机をカツカツと叩きながら睨んでくるアレウス。
自分の顔面偏差値を考えてほしい。
なぜかアレウスの周りだけ吹雪いているように見えるが、気のせいだろうか……。
「も、も、もちろん終わらせてきた。
オストがコルベール領に行くというし、この際一緒に行きたいなと思ってガイアとついてきたのだ。
内緒にしていたのは悪かったが……そ、その、驚かせたくてだな……」
一気に話すと、納得はしていなさそうだが大きなため息をついて「わかった」と一言だけ返ってきた。
怒られずに済んだと安堵した瞬間――ぎろりと睨まれる。
とても怖い。
「次からはきちんと連絡しろ。
こちらだってオストだけだと聞いていたんだ。
色々準備もある。分かったな?」
「だ、だ、だって……もうすぐ私たちも家族になるじゃないか……。
仲間外れなんて寂しいこと言わないでくれ……」
「仲間外れにするなんて言っていないだろ?
ただ連絡をくれと言っているんだ」
確かに、そんな言葉は一言もなかった。
オストを家に招いている時点で、家族として認めているということなのだろう。
申し訳ないことをしたと感じ、素直に謝罪した。
***
「気を取り直して、これからのことを少し話しておきたい。
久しぶりに父上も帰ってきたので、ね?父上……」
アレウスがオルフェウスをすごい目で見ている。
あれは戦神のような目だ……。
今まで連絡が絵葉書のみだったこともあり、相当怒っているのだろう。
そんな二人を見て笑っているのがオリオンだ。
私も、いつかこの中で“国王”ではなく“父親”として笑える日が来たらいいなと思ったのは秘密にしておこう。
「す、す、すまない……アレウス。
ただ絵葉書は送っていたじゃろう」
「えぇ……絵葉書“だけ”ですが。
文章の一つくらい書けたと思うのですがね。
その手は飾りですか?それとも字を忘れましたか?」
「す、す、すすみませんでした……」
アレウスがオルフェウスを詰めている間、オリオンがこちらへ近づいてくる。
「大丈夫ですよ。不思議とこの家は誰でもなじみやすいですから」
そんなに羨ましそうに見えていたのだろうか。
オリオンはまた二人を見て笑っている。
私もつられて笑ってしまった。
***
「さて、本題に入りましょうか……オリオン義父上からお願いしてもいいですか?」
「そうじゃな……オルフェウスよ。お前、当分家に帰ってくるな」
「え……?まさかの儂、追放?領地から追放?」
オルフェウスの目が点になる。
「追放でもいいかもしれませんね」
アレウスが白い目で言い放つ。
先ほどまでの空気はどこへ行ったのだろうか……。
「冗談はさておき、父上がいない間に色々動いているんですよ。
父上の手を借りたいのです。
帰ってきて変だと思いませんでしたか?
アポロがメルティの婚約者だったのに、ヘリーオスト王太子殿下が婚約者になっているんですよ?」
私たちは経緯を知っているから気にしていなかったが、オルフェウスはずっと世界旅行中だった。
知らなくて当然だ。
「た、確かに……あまりに馴染んでいて気にしとらんかったわい」
頭を掻きながらのんきに言う。
やはりこの人はマイペースだ。
「はぁ……本当に昔から変わらんな。オルフェウスよ」
そう言うと、オリオンがこれまでの経緯を簡潔に説明していく。
婚約者の入れ替え。
ダルデンヌ公爵家とジュアン侯爵家の資金難。
話を聞き終えたオルフェウスの表情が変わる。
「なるほどな……。
ジュアン侯爵領に潜伏して現状を把握して来い、ということか……」
一を聞いて十を理解する。
やはりこの一家、頭の回転が速い。
「そういうことだ。
ダルデンヌ公爵領にはヘルが入っている。
そうだな……できればニケの結婚式までは戻ってくるな」
ニケオスの結婚式は春。
つまり三〜四ヶ月の潜伏だ。
「久しぶりに帰ってきたと思ったら……老人使いが荒いこと……。
分かった。メルティのためだ。年明けから行って来よう」
その日はそれで解散となった。
途中から、私がいる意味はあったのだろうか……とも思ったが――
誘われなければそれはそれで寂しかっただろう。
だから、誘ってくれたことに感謝することにした。




