年の始まり。
試食会を終えて2日。
ついに、長かった1年を終えようとしていた。
コルベール領に戻ってきてからというもの、王妃様や国王陛下も不思議とこの家に馴染んでいる。
年越しは皆でリラクゼーションルームでゆったりしながら過ごしていた。
お父様たち男性陣はお酒を片手に話していたり、
お母様たちも思い出話などをしながら他愛もない話を楽しんでいる。
私はというと、少し外の風に当たりたいなと思ってテラスに足を運ぶ。
「どうしたんだい。メルティ…」
「オスト様…少し外の風に当たりたくて。
この季節の外の空気はなんだか澄んでいるようで、とても好きなんですよね。」
オスト様が肩からストールをかけてくれる。
「確かに気持ちはわかる。
俺も寒空の下でゆっくり星を眺めるのが好きだ。
空気が澄んでいて、いつもと変わらないはずなのに小さな星まで見えているような気がするんだよな…」
2人で星を眺めながら話していると、
「「今年は色々ありましたね/あったな…」」
と、二人の声が重なった。
思わず二人で目を見て笑いあう。
この一年、なんだかんだ濃い一年だった。
一番よかったことは、オスト様に出会えたことだろう。
次にアポロ様との婚約破棄だ。
初めはオスト様のことをあまり知らなかったけれど、
知れば知るほど色々考えられている方というのを知れたのはよかったと思う。
「俺は、アーテリアとどのように婚約破棄するかをずっと考えていたんだ。
それがまさか交換という形ではあったけど、こんなにとんとん拍子で婚約破棄できるとは思わなかった。」
「私もです。
アポロ様といることがつらかったので、とても助かりました。
これはアーテリアとアポロ様に唯一感謝できるところですね。」
「確かに…そうだな。
メルティとアーテリアを交換してくれて感謝しなくてはな…」
2人で色々話をしていると鐘の音が鳴った。
鐘の音は年越しの5分前から等間隔に鳴り、
12時になると同時に10回の鐘の音が連続で鳴る。
私たちは鐘の音が鳴り始めるのと同時に屋敷の中へ入った。
お父様たちはお酒を飲みすぎたのか年越し前に寝てしまっている。
国王陛下まで同じように眠ってしまっているし、
こうやって見ると国王陛下ですと言われない限りは気づかなさそうだ。
お兄様たちは2人でチェスをしているし、
お母様たちはまだまだ女子会中のようで話をしている。
いくつになっても女子同士の会話は花が咲くと長いらしい。
折角なのでお父様たちを揺さぶって起こす。
「お父様、起きてください。そろそろ年が変わりますよ…。」
「ん…あぁ…もうそんな時間か…
ウラヌス、起きろ。そろそろ年越しだぞ。」
お父様がお祖父様や国王陛下を起こしていく。
皆が眠り眼をこすりながら起きると、鐘の音が連続で鳴り始めた。
鐘の音が鳴り終わると、挨拶をする。
「あけましておめでとうございます。この一年も幸多からんことを」
「「「「幸多からんことを…」」」」
お父様の言葉に合わせて皆がそれぞれ手を上げる。
去年はアポロ様たちのことで色々あったから、
今年は落ち着いた1年になりますようにと祈りながら、年明けを迎えた。
***
年を越えると、皆眠さも限界なのか部屋に戻っていく。
「オスト様…そろそろお部屋に戻ります。
よい初夢を見てくださいね。」
「あぁ、おやすみ。メルティもよい初夢を…」
部屋に戻ると、ベッドにダイブしてそのまま眠りについた。
***
年明けの初日。
前日遅くまで起きていたのだから、ゆっくり目でもいいのではないだろうか…と思っているものの、
家族の風習で早く起きなくてはならない。
「おはようございます。メーティアお嬢様…。」
この時間からはバネッサが起こしに来てくれる。
「バネッサ…おはよう。もう少し寝かせて頂戴…」
「それは無理です。早く起きてくださらないと時間になってしまいますよ。」
私が何度も起こしても起きないからか、バネッサは布団を剝がしてきた。
最後の最後の本当に最後の手段である。
この時期に布団を剥がされると本当に寒くて耐えられない…。
そして私の手を取り、無理やりベッドに座らせる。
ここまでしてなんで起きなくてはならないのか…。
でも小さいころから、私が生まれる前からの我が家の風習を途絶えさせるわけにはいかないらしい。
「まだ暗いじゃない…」
「えぇ…暗いうちでないと意味がないんですよ。」
そのくらい知っている。
だって今から見るのは、少し小高い丘の上で、
家族だけでなくこの屋敷で働く皆で初日の出を見るというものだからだ。
これは何代も前の先代たちが決めたことらしい。
いくら忙しくても、年明けは初日の出を見ること。
一緒に見られなかったとしても、太陽は一つしかないから皆で見ていることになるだろう。
家族というのは近くに居なくてもつながっているものだから、それぞれの場所でいい。
一緒に見よう――この一年を素敵なものにするために。
そんな意味が込められているのだそうだ。
私はバネッサに手を引かれながら小高い山に登る。
どうやらオスト様たちも初日の出を見に来ているらしく、
山にはたくさんの人でごった返していた。
山の頂上に着くと、ちょうど日の出が上がってくる時間だった。
「この一年が素敵な一年になりますように…」
そう祈りながら、日の出が昇るのを見続けた。
毎年見ているけれど、今年はいつもよりも日の出がきれいに見えた。




