突然の試食会。
ヘルお兄様達はまだ少し話し足りなさそうだったので、私は先に退出して調理場へ向かった。
「メーティスお嬢様。今日はどうしたんです?」
料理人の一人が私に気づき、声をかけてくる。
「料理長に用があったのだけれど……居ないみたいね……」
王都の屋敷から帰ってくる際、料理長も一緒にこちらへ戻ってきていた。
領地にも料理長はいるのだが、年末あたりに子供が生まれそうだということで、お休みを取って奥様と一緒に実家に帰省している。
ちなみに、その奥様はバネッサの妹だ。
バネッサは私の侍女として王都に来てくれているが、妹は領地の屋敷で侍女長を務めている。
「そろそろ戻って……と思ったら、ほら戻って来ましたよ!」
料理人が指差す方を見ると、料理長が気怠げにこちらへ向かって歩いてきていた。
「お、お嬢様じゃないですかい。今日はどうなさったんですか?」
気怠げにしながらも料理の腕は一流なのだから流石である。
もしかしたら中身が入れ替わっているのかもしれない――そんなことを思いながらも、私は普通に話し始めた。
「急にごめんなさいね。
ほら、以前研究していたお菓子のことなんだけど、今日のおやつ時に作ってもらうことはできるかしら?」
「本当に急ですね……?
まぁ、まだ昼前ですし、作れないことはないですね」
「じゃあお願い!
出来れば試食用に、小さめで色々食べられるように作ってくれると助かるわ」
それだけ伝えると、やることが分かったのか、皆に指示を出し始めた。
私はそれを見届けてから自室へと戻る。
バネッサに手紙をお母様たちへ届けてもらっている間に、試食会の準備を進めていく。
今日の今日だ。
そんなに大層な準備はできないけれど、できる限りのことはしておきたい。
今回は試食会なので、立食で食べやすい大きさにする。
紅茶も合わせて出した方がいいだろう。
今まで試した中で美味しかったものを選ぶ。
今回は、ドライフルーツを入れたフルーツティー、アッサム紅茶、飲みやすいアールグレイ紅茶、そしてミルクティーを用意する。
「メルティお嬢様。皆様にお手紙を渡して参りました」
「ありがとう。
今日の今日だし予定もあるだろうから、全員参加は難しいだろうけれど……色々な人の意見が聞けるといいわね。
あと紅茶はこの三つとミルクティーにしようと思っているの。準備をお願いしてもいいかしら?」
「そうですね。
今お出かけされている方はいらっしゃらなかったようなので、参加される方の方が多いかもしれません。
とりあえず、私は準備してまいりますね」
バネッサに礼を言うと、彼女は部屋を出ていった。
***
今日の試食会は外だと寒いため、温室で行うことにした。
今日は陽も出ているし、暖かいだろう。
温室に向かうと、すでにテーブルのセッティングやお菓子が並べられている。
「料理長、バネッサ。急だったのに準備をありがとう」
「とんでもねぇです。
まだクッキーなどが残っているので、持ってきやすね」
見た目は怖そうなのに、ここまで繊細なお菓子が作れるのだから、人は見かけによらない。
バネッサと少し話していると、オスト様がこちらに向かって歩いてくる。
「メルティ」
「オスト様。試食会に来てくださってありがとうございます」
「まさか短時間でここまで準備できるとはな。さすがだ。
あの商品企画書もよくできていた。
今日は二人で皆をもてなそう」
一人で全てを行うのは無理があったため、手伝ってくれるのはありがたい。
二人で並んで待っていると、ヘルお兄様をはじめ、王妃様や国王陛下、お母様たちが集まってきた。
王妃様はいつものドレス姿ではなく、ワンピースの少しラフな装いだ。
他の人たちも同様に、動きやすそうな格好をしている。
「皆様、急な呼びかけにお集まりいただき、ありがとうございます。
商品化に向けた試食会を開催いたします」
ドライフルーツは美容や健康に良いこと。
コルベール領では日常的に食べられており、そのため長寿の者が多いことなどを説明する。
「非常食として使われることが多いものですが、そこに目をつけました。
本日お召し上がりいただき、率直なご意見をいただければと思います。
どうぞ、色々な味を楽しんでいってください」
そう伝えると、拍手が返ってきた。
各々がお皿を取り、ケーキやクッキーを選んで席へ戻っていく。
紅茶はバネッサをはじめとした侍女たちが配るようだ。
私は席を回りながら、それぞれにお菓子の説明をしていく。
「ガイアお義母様、お母様。お味はいかがですか?」
「メルティ。とても美味しいわ。
私はこのフルーツティーと、このケーキが好みね」
ガイアお義母様は胡桃のケーキとフルーツティーを指した。
「こちらは胡桃のケーキです。
胡桃には色々な効能があるんですよ。
風邪を引きにくくなったり、アンチエイジングに良いとされています。
それ以外にも病気の予防効果があるんです」
「それぞれの効能まで調べているのはさすがね。
健康にも美容にも良くて、美味しいとなれば、女性には人気が出そうだわ」
「そうね。ガイアの言う通りだわ。
味も以前より食べやすくなっているし、これなら手に取りやすいと思う。
短期間でよくここまで形にしたわね」
二人とも褒めてくれる。
お母様は以前と同じくキャロットケーキを好んでいるようだった。
普段ニンジンが苦手な分、食べやすいのかもしれない。
それに合わせてミルクティーを飲んでいる。
「ありがとうございます。
そう言っていただけると、頑張った甲斐があります。
他の方々にも意見を聞いてまいりますね」
私は挨拶をして、他の席へ向かった。
悪い意見はほとんどなかったが、男性陣にはやや甘すぎるらしい。
苦味のある飲み物を用意すれば、バランスが取れるかもしれない。
色々とメモを取っているうちに、試食会はあっという間に終わりの時間となった。




