お母様との一時。
ヘシオネリア様とアーテリアがお茶会を追い出されたあとは、特に何事もなくお茶会を終えることが出来た。
ただ一つ。
私とオスト様を見る目が、少し変わっているように見えた。
けれど、悪い感じはしなかったので、そこまで気にすることはないだろう。
秋のお茶会の際、モンブランを皆が美味しいと言ってくれたことが嬉しくて――
もっとコルベール領のものを他の人達にも知ってもらいたいと思った。
それから私は、公務の合間に料理長と色々話をして、ケーキやお菓子を作ってみたり、それに合うお茶を探したりして、充実した日々を送っていた。
「前は本を読んでいる方が好きだったのに、人って変わるものね。
そう思わない? バネッサ……」
「そうですね、アフロディーナ様。
バネッサは今のメルティ様の方がイキイキしていて、とても好きです。
アポロ様が婚約者の時は、いつも死んだような顔をしていましたから……」
「フフ。確かにそうね。私もそう思うわ」
私がお菓子やお茶の準備をしている間に、二人はそんな話をしていたみたいだ。
「お待たせいたしました。
二人で何を話していたのです?」
テーブルにお菓子を並べていくと、代わりにバネッサがカップにお茶を注いでいく。
「なんてことないわ。ただ、以前よりもメルティが楽しそうだって話をしていたのよ」
「そうですか?
でもオスト様と婚約してから毎日充実しています。
公務も嫌いじゃないですし、最近はお菓子を考案するのも楽しく感じています」
「メルティ自身も楽しいと言っているじゃない。それが答えね。
さぁ、食べましょうか」
お母様の一言で、二人のお茶会が始まる。
今日作ったのは、胡桃のケーキと、ドライフルーツを使ったミンスパイ。
ナッツやドライフルーツを使ったフラップジャック。
そして、野菜で作ったキャロットケーキにしてみた。
コルベール領は、昔から嵐や台風などが多い地域だ。
冬になれば吹雪になることもある。
そのため、ドライフルーツや魚の干物などを保存食として置いておくことが多く、栗やナッツ、胡桃なども昔からよく食べられている。
自然災害が多い地域では、自分たちが生き残るために――
どうすれば美味しく食べられるか、どうすれば長期保存できるか。
知恵を出し合う。
その分、他の地域では食べないものを食べたりするのだ。
「今回はドライフルーツ系が多いのね」
「はい。コルベール領はこの時期、吹雪が多いですからね。
ドライフルーツやクルミ、ナッツなどを保存食として用意していますし、料理長と色々考えてお菓子を作ってみたんですよ。
お味はどうですか……?」
「そうね。ドライフルーツは好き嫌いがあるかもしれないけれど、私は好きだわ。
普通にフルーツを食べるより甘みが増して、香りも楽しめるわね。
紅茶に入れても美味しそうね」
確かに、オレンジの皮やリンゴを入れて作るお茶もあるくらいだ。
ドライフルーツを紅茶に入れるのは美味しそうだし、身体も温まりそうだ。
「あと、このオレンジのケーキも美味しいわね。
なんだか食べたことあるような味なんだけれど……」
野菜をケーキにするなんて発想は、なかなか無いだろう。
それに――お母様が実はニンジンが嫌いだということも知っている。
気づかれていないと思っているようだけれど、食べる瞬間、手が一瞬止まるから分かりやすい。
「これはですね……キャロットケーキと言います。
コルベール領のニンジンを使っているんですよ」
「え……ニンジンなの……?」
「はい、ニンジンです。
すり下ろして生地に混ぜてみました」
お母様が美味しいと言ってくれた時点で、大成功だ。
コルベール領は広いけれど、なかなか商品として出せるものが少ない。
鉱山での収益はあるが、もう少し領地としての収益が欲しいところだ。
「お母様に相談があります」
「なにかしら?」
「最近、お菓子を色々作っていると思うのですが……
ドライフルーツやナッツなどを商品化できないかと、ずっと考えていました。
他の領地でも作られていますが、一番美味しいと感じるのはコルベール領のものなのです。ですから……」
「いいんじゃないかしら」
あっさりとした返答だった。
「確かに私が育ったボードリエ領でもドライフルーツはあったけれど、美味しいとは思わなかったわ。
それしかなければ仕方なく食べる、という感じだったし」
「何事も経験よ。やってみなさい。
ただし――アレウスにはメルティから話すこと。
あと、出来ればヘルに相談しなさい。あの子はそういうの得意だから」
「年末に一度帰ってこれないか、アレウスに聞いてみるわ」
忙しいことは分かっている。
反対されるかもしれないとも思っていた。
だからこそ――
素直にやらせてくれることが、ただただ嬉しかった。
「お母様、ありがとうございます」
「いいのよ。
一、二年後にはあなたも嫁いでしまうもの。
それまでは好きなことをしなさい」
「でも――これだけは約束して。
アーテリアやヘシオネリアのように、道を踏み外すことはしないようにして頂戴ね……」
お母様。
それは約束せずとも、絶対にあり得ません……。
私はお母様を見つめて、静かに頷いた。
「約束いたします。決してあの二人のようにはならないと……」
そのあとは二人で他愛のない話をしながら、
お茶会は陽が落ちるまで続いた。




