大人たちの話し合い~アレウス視点~
「アフロディーナ。大丈夫だったか?」
「えぇ。最近は落ち着いていたのですが……」
アフロディーナは落ち着いていると言っているが、そうでは無い。
ただ、二人が顔を合わさないように気をつけていただけだ。
だからこそ、お茶会もパーティーも夜会も全て最小限しか参加してこなかった。
それでも王家主催のものは基本的に参加しなければならないし、侯爵としての義務があるから全てを蔑ろにするなんて出来なかった。
それでもここ数年会わずにすんでいたのは奇跡に近いのかもしれない。
「まぁ、あいつにあってしまったからな。それで、ウラヌスよ。そろそろ本当に限界だと思うんだがな……これからどうするつもりだ?」
「まぁ、そう焦るな。色々考えてある。取り敢えずメルティが持ってきてくれたモンブランを食べながら話そうじゃないか」
呑気にモンブランを食べている場合か……と思いながらも、各々モンブランとアッサム紅茶に手をつけていく。
少しゆっくり話していると、応接室の扉が開いた。
「お待たせして申し訳ございません。ウラヌス国王陛下」
軽く頭を下げてから部屋の中に入ってくるのは――
「お父様、お母様!」
アフロディーナの両親。オリオン・ボードリエ公爵とディアナ・ボードリエ公爵夫人だった。
「アフロディーナよ。久しぶりに暴れたらしいな」
義父上も義母上も豪快に笑っているが、笑っている場合なのだろうか。
本当にボードリエ家はマイペースな人が多い。まぁ、うちの両親も結構な自由人だが……。
「暴れたと言っても今回は手を出していませんわ。まぁ、扇子には悪いことしましたが……」
気に入っていた扇子なだけに、壊れてしまったことがショックなようだ。
「扇子はまた今度探しに行こう。義父上、義母上お久しぶりです」
「アレウスも久しいな。息災そうで何よりだ。まだオルフェウスとヘラは帰ってきていないらしいな。本当にアイツらしいわい」
ガハハと笑いながら肩を叩くが結構痛い。
「家を出て五年は経ちますし、そろそろ帰ってくると思うんですけどね。まだ音沙汰がありません。いつでも急なので……全く予測がつかないですね」
軽く挨拶をすると、皆席について話し始める。
「ダルデンヌ公爵家とジュアン侯爵家だがな。資金繰りも大変な状態だ。恐らく改善する可能性も低い。私たちが援助しなくなった今、領民にまで被害が及ぶのも時間の問題だ」
ウラヌスが真剣な顔で話し始めたことで、私たちも気を引き締める。
たしかに今までは援助していたからこそ領民の税金が上がらずにすんでいたが、援助が無くなれば資金源が無くなる。資金がなければ事業を起こすことも難しいだろう。
「オストの命令でヘルがダルデンヌ公爵領に潜伏しているが、今のところ税があがったりしていることはないらしい……。だが……領民外からの入領税の金額が倍になったそうだ……」
「倍じゃと……!?」
入領税や領民税は領地によって変わってくるが、限度額が決まっている。
「ダルデンヌ公爵家の税金は確か元々銀貨五枚でしたか……」
義父上の言葉にアフロディーナが以前の税金の金額を伝える。
銀貨千枚で金貨一枚。領民の大体の稼ぎが金貨一枚ほど。勿論商家などをしているところは稼ぎがあるが……。
その領地に住んでいるという証があれば入領税がかからないが、旅人や商人は毎回払わなくてはならない。勿論私たち貴族も別の領地に行くときは例外ではない。
「倍ということは……現在銀貨十枚の入領税がかかっているということだな……家族で入領するとなると結構な金額になるな」
確かに入領税の限度は銀貨十枚ではあるが、ダルデンヌ公爵家は災害などがある土地でもないし、領地の広さがある分領民も多い。そこまで税金を取る必要があるとは思えない……。
「さらに、もう一つ。一週間以上滞在する場合は滞在するための滞在税がかかるそうだ」
滞在税は確かにあるが、大体が三か月おきに徴収するところが多い。
これは領民税の支払いのタイミングに合わせているところがほとんどだからだ。
そのためにも必ず入領許可証や、長く滞在する人たちは滞在許可証を発行しておく必要がある。
それがなければ不法滞在となってしまい、今後入領できなくなってしまったり、税金の金額が上がってしまう可能性が出てくるからだ。
「滞在税は今までそれぞれの領地に任せてはいたが、一週間はさすがにないな……」
「えぇ……アレウス。ヘルから滞在税の金額は聞いておるか?」
「はい、義父上。入領税と同じ銀貨十枚だそうです……」
「「「「「一週間で銀貨十枚!?」」」」」
思わず皆声を揃えた。
ぼったくりもいいところである。
税金についてはその何割かを国税として扱うため、半年に一回王家に渡す必要があるのだが、昨年の税収をもとに決めることになっているため、国全体で一律となっている。
「今年の春、税金の修正がされているか、何に使ったのか確認しましょう。それ次第では監査に入らなくてはなりません。恐らくですが、税金の意味を理解していないのがダルデンヌ公爵家とジュアン侯爵家です。特に先代からひどかったですが、今代はさらにひどい。このままでは国全体の問題に発展してしまうでしょう」
義父上は今の話を聞いて色々考えているのか話を進めていく。
「アレウス。すまないが、ヘルにはこのままダルデンヌ領に滞在するように伝えてくれ。併せていくら税金を取られたかも控えておくように伝えてくれぬか?」
「わかりました。伝えましょう」
「ダルデンヌ公爵領への潜伏はうまくいきそうだが……ジュアン侯爵領はどうする?」
確かに今回はダルデンヌ公爵家だけではなく、ジュアン侯爵家の問題もある。
一瞬ニケオスを思い浮かべたが――あいつには無理だろうなと思った。
なんて言ったって、うちの家で一番の脳筋だ。それに他の皆はあまり顔に出ないのに一人だけ表情豊かなレアキャラなのだ……嘘なんか付けないだろう。
「それは、こちらにお任せください。適任がおります。そろそろ彼奴にはバカンスを終わらせて帰ってきてもらいましょう」
義父上……それはもしかしなくても……。
父上のことですね……。
義父上はこちらを見て、にやりと笑った。
「アレウス。オルフェウスに何としても連絡を取れ。なに、メルティの一大事とでも伝えればすぐ帰ってくるじゃろうて。彼奴はメルティにだけは甘いからの……」
「わ、わかりました……。何とか連絡を取ってみます」
本当にこういうところを見ると、オリオン義父上とアフロディーナは親子そっくりだ。
アフロディーナは私たちの話を聞いておらず、ガイア王妃や義母上と楽しそうに談笑しているし……。
そんな三人を見て癒されていると、ウラヌスがこちらに寄ってきた。
「お互い大変だが、頑張ろう……」
いつも宰相に振り回されているウラヌスは、私の方を見てしたり顔で笑っていて――
思わず、ため息が漏れた。




