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婚約者を交換ですか?いいですよ。ただし返品はできませんので悪しからず……  作者: ゆずこしょう
秋のお茶会

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20/35

やっと嵐が過ぎ去りました。

お母様とガイア王妃が一度席を立つと、先程の暗雲とした空気が少し収まり、何事も無かったかのように各々会話を始める。


「皆様、我関せずという感じなんでしょうか」


「ふふ……それは違うわ。寧ろ慣れちゃっているのよね」


どうやらヘシオネリア様は、お母様がお茶会やパーティー、夜会に参加する度に突っかかって来ていたらしい。


初めは向こうの方が立場が上ということもあり我慢していたが、とうとう限界を超えたお母様がキレてしまったのだという。


毎回――


「アレウスは私のなの」

「アレウスを誑かした女狐!」

「アレウスを返してよ!」


などと言われ続けていたらしい。


貴族らしくない発言や態度も相まって、周囲の印象は最悪だったようだ。


アーテリアも私にやたらと絡んできていたけれど、ヘシオネリア様の方が遥かに強烈だ。


「なんだか……公爵、侯爵の位を持っている人達に、こんな方々ばかりで良いのでしょうか……」


遠くでケーキを貪り尽くしているアーテリアを見ながら、思わず溜息が漏れる。


全く品位の欠片もない。


周りのご婦人達がケーキを取ろうとすれば、全て口に押し込める始末だ。


食い意地が張っているにも程がある。


「ふふ……そうね。その辺りは国王陛下と、あなたのお祖父様やお父様が動くんじゃないかしら」


オリオン・ボードリエ。


ディアナお祖母様の旦那様であり、私のお祖父様でもある。


オルフェウスお祖父様は数年前に家督を譲り、お父様が侯爵となっているが、オリオンお祖父様はまだ現役だ。


因みに、この国の宰相でもある。


「ほら、噂をすれば……」


お母様の方を見てみると、お父様と国王様が迎えに来ていた。


そしてその後ろには、久しぶりに会うオスト様の姿もある。


こちらに気づいたのか手を振ってきたので、私も振り返した。


「本当ですね。ヘシオネリア様もお父様に気づいたみたいですが……」


「大丈夫よ。ここにいるご婦人たちは分かっているから……」


ヘシオネリア様はお父様を見て、目を輝かせている。


どうやら今でもお父様に執着しているらしい。


一途と言えば聞こえはいいが、相手が相手なだけに複雑だ。


ヘシオネリア様が立ち上がり、ドスドスと大股で向かおうとすると――


周囲のご婦人達が、さっと道を塞いだ。


見事な連携だった。


「ちょっと、通してよ!」


「ここから先は通せませんわ!」


もう少し細身であればすり抜けられそうだが、その体格では難しいだろう。


「昔からの恒例なのよ。


お世辞抜きにして、アフロディーナもアレウスも美男美女でしょ」


「はい……」


贔屓目なしでも、美男美女だ。


しかも四十代には見えない。


「確かに恋をする人はいたけれど、あの二人を見たら誰も割って入ろうとはしないのよ。


寧ろ一緒にいる姿を見たいという人ばかりね。


絵になるから……。


二人が見つめ合って微笑んでいる姿を見ると幸せが訪れる、なんて迷信もあったくらいよ」


――神聖化されている。


ご婦人達の動きは、もはや儀式のようだった。


まるで二人を守る騎士のようにすら見える。


それでもなお、ヘシオネリア様は大声でお父様を呼び続けていた。


その声に気づいたお父様が、ヘシオネリア様を見て――一言。


「誰だ。あいつは……。あんな知り合いいたか……?」


お母様が何か耳打ちする。


声は聞こえないが、内容は察せられる。


「なに!?ヘシオネリアだと……。


たしか俺の知っているヘシオネリアは……あんな豚ではなかったような気がするのだが……」


――お父様、それは言ってはいけません。


ヘシオネリア様に聞こえたのか、ハンカチを噛みしめて悔しそうにしている。


とはいえ……確かに太りすぎだ。


アーテリアも含め、一体何があったのだろう。


――なんとなく想像はつくけれど。


「ウラヌスお兄様!!」


「な……お、おまえ本当にヘシオネリアか!?


俺の知っているヘシオネリアは、もう少し美しかったと思うのだが……。


衛兵よ、こちらへ来い」


国王陛下が衛兵を呼ぶと、ヘシオネリア様は何を勘違いしたのか得意げな表情を浮かべる。


どうやらお母様が連れていかれると思っているらしい。


「はっ!なんでしょうか」


「ここにヘシオネリアとアーテリアの偽物が紛れ込んでいるようだ。つまみ出せ」


「はっ!承知致しました!」


衛兵が駆け寄る。


「な、何するのよ!私はヘシオネリアよ!


捕まえるのは私じゃなくて、あそこにいるアフロディーナでしょ!?


お兄様、助けてください!」


「私何もしていないわ!なんで私までこんな目に遭わなきゃいけないの!?


ウラヌス叔父様、やめさせてくださいませ!」


――叔父様?


婚約もしていないのに、その呼び方はどうなのだろう。


本当にこの二人、嫌な意味で似ている。


二人の声は届いているはずなのに、国王陛下もお父様も振り返らない。


そのまま踵を返して歩き出した。


***


「やっと嵐が過ぎ去りましたね」


「そうだね……」


――声が低い。


お祖母様に話しかけたはずなのに、返ってきたのは別の声だった。


「オ、オスト様……」


「ボードリエ夫人は公爵に話があると帰っていったよ。


近々二人で来るそうだ。


さて……嵐も過ぎたことだし、俺もモンブランを頂こうかな」


――入れ替わっていた。


お祖母様、いつの間に……。


心臓に悪すぎます。


「そうですね……まだお茶会は始まったばかりですし、楽しみましょう」


私たちがそうして会話をしている姿を、周囲が見ていることなど――この時はまだ知らなかった。

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