似たもの同士。
アーテリアの声に、周りの人たちは何事かとこちらを見てくる。
お兄様やお父様たちは遠くからチラチラとこちらを見ているようだけど……。
「このくらい自分で何とかしなさい」
そんな心の声が聞こえてくる気がした。
小さい頃から、ここぞという時は助けてくれるお父様たちなので心配はしていないけれど、できれば私も傍観者になりたかったというのが本音だ。
「ちょっと!!メーティア!!!話聞いているの?」
キャンキャンと非常にうるさい……。
犬の方がきちんと躾けられていて、よほど静かなんじゃないだろうか……。
「アーテリア様。少しお声を下げていただけませんか?皆様がこちらを見ておられます……」
「あら!良いじゃない。注目の的になれるなんて最高よ!」
いえ、最悪ですよ。
しかも皆さんの顔をよく見てください。どう見ても良い顔をしていないんですから……。
「はぁ……私は注目されたくありませんので。注目されたいのであればお一人でどうぞ。それでは失礼いたします」
アーテリアにこれ以上付き合うのは危険だと感じた私は、軽く一礼してそそくさとその場を離れた。
——はずだった……。
「やぁ、アーテリアじゃないか。君の赤い髪はいつ見ても素敵だね」
全身キラキラな婚約者に腕を掴まれ、なぜかアーテリアの前に戻される……。
「アポロ様。この手を離してくださいませ。私、ご挨拶したい方がいらっしゃるので、ここで失礼させていただきたいのですが……」
いくら婚約者とはいえ、こんな面倒な二人と誰が一緒にいたいと思うだろうか。
婚約だって、別にしたくてしているわけではない。
国王から言われたから仕方なくお父様が頷いただけで、むしろ婚約破棄してくれた方がありがたいとすら思っているくらいだ。
「君が挨拶する相手は、君の家族に任せておけばいいだろう?なぜ君が挨拶しないといけないんだい?」
なぜ挨拶しないといけないか……?
それは一応あなたの婚約者だからなんですが!?
そもそも私が挨拶しようとしていたのは、国王たち王族や公爵家の方々、そして懇意にしてくださっている貴族の皆様だ。
今後王家主催のパーティーに参加できる者として、挨拶は基本であるし、できなければ貴族として「無能」の烙印を押されることになる。
この方はそんなことも知らないのだろうか……。
「アポロ様は挨拶しなくてよろしいのですか?」
「私はこれでも公爵家だ。相手から挨拶に来るのが当たり前だろう?」
この国では、位が上の者に挨拶をするというのが習わしのひとつだ。
アポロ様の言う通り、公爵家より上は王族しかいない。
けれど、公爵家の中にも順位はあるし、もちろん侯爵家の中でも同様だ。
「そうよ。アポロ様は公爵家なのだから、相手から挨拶に来るのが当たり前じゃない!!」
この二人は本当に、今までどんな教育を受けてきたのか……親の顔が見てみたい。
——まぁ、すぐ近くにいるのだけれど。
宝石をジャラジャラと身につけ、大きな態度を取っている姿を見れば、納得もできてしまう。
親も親なら子も子、ということだろう。
お父様たちを探すと、彼らは彼らで挨拶回りをしているようだった。
「公爵家でも、貴族位が上の方はいらっしゃいます。それに、そんな大きな声を出さないでくださいませ。恥ずかしいです」
世間知らずなあなたたちと知人だと思われるのは、ごめん蒙りたい……。
「恥ずかしがらなくていいわよ!だってあなたも侯爵家なのだから!一緒にいても全然恥にならないわ!」
いいえ。
あなたたちといること自体が恥ずかしいんです。
そこに気づいてください。
そして話を聞いてほしいのですが……なぜ伝わらないのでしょうか……。
「私はあなたたちと一緒だとは思われたくありませんので。失礼いたします!」
話の通じない人たちと話していても疲れるだけだ。
そう判断した私は、そそくさとその場を離れた。
後ろから「待ちなさいよ!」と聞こえてきたが、あえてスルーした。
そして一人でゆっくり挨拶回りをし、最後は王家の方々だけとなった。
他の貴族たちと一緒に並んで待っていると、またあの二人が私の前に現れた。
「ちょっと!メーティア。なんで無視するのよ!アポロ様も可哀想じゃない」
いやいや、誰だって無視するだろう……。
皆同じことを思ったのか、スススと人が道を開けていく。
私は二人のことを無視し、そのまま王族の前で挨拶をした。
「お初にお目にかかります。ウラヌス・アンベール国王陛下。コルベール侯爵家が長女、メーティア・コルベールと申します」
胸の前で手をクロスさせ、片足を後ろに引きながら礼を取る。
すると国王陛下並びに王族の皆様から、顔を上げるようにと声をかけられた。
「メーティアよ。お主は君の母、アフロディーナにそっくりだな」
国王様も王妃様もクスクスと笑いながら、お母様の方を見ている。
私も思わず笑ってしまった。
お母様はとても美しい。
けれど、人を寄せつけないオーラでも出ているのかと思うほど、無表情のまま一人で壁際に立っている。
周囲の人たちもチラチラと見てはいるが、挨拶はできないようだ。
「アレウスとアフロディーナとは昔からの縁でな。今も良き親友だ。ぜひ私の息子とも仲良くしてやってほしい」
王太子を見ると、よほど顔を見られたくないのか、前髪で顔を隠したまま話し始めた。
「よ、よ、よろしく頼む。メ、メ、メメーティア嬢。へ、へ、ヘリーオストと言う」
人と話すことに慣れていないのか、吃りながら話しかけてくるヘリーオスト王太子。
それでも、自分の婚約者よりはマシだなと思いながら、私も挨拶を返した。
そして挨拶が終わり、その場を去ろうとした時——
事件は起きたのである……。




