準備。
アンベール国では、16歳になると国王主催のパーティーに参加できるようになる。
かく言う私もついに16歳を迎え、初めてそのパーティーに参加することになった。
お母様を見ていて思うが、パーティーに行くだけで女性は朝から色々準備をすることがあって大変だ。
「メーティアお嬢様もそろそろ準備を始めましょう」
お母様の準備する姿を眺めていると、侍女のバネッサが声をかけてきた。
「……そうね」
正直、国王主催のパーティーでなければ行きたくないというのが本音だ。
世の中の女性は煌びやかな世界に憧れがあるようだけれど、私は馬の世話や剣の稽古、領地経営書を読んでいる方が楽しい。
「お嬢様もお嬢様ですが、本当にコルベール家の皆様はパーティーの日になるとストンと表情が抜け落ちて、死人のような顔になりますよね」
「ふふ。バネッサったら、いいこと言うじゃない。確かに皆、死人のような顔になっているわよね」
お母様を見ても、パーティーに行きたくないというのが分かるほど無表情になっている。
シルバーブロンドの髪に、まるで夜空を瞳に埋め込んだようなラピスラズリの瞳。見た目がとても神秘的で美しいからこそ、その無表情さが余計に際立つ。
「本当ですよ。親子そっくりなんですから……奥様も旦那様もニケオス様もヘルメント様も、絶対参加のパーティーにしか出ないんですから……。バネッサはもう少し奥様やメーティア様を着飾りたく思っていますよ」
溜息をつきながらも手を動かすバネッサを見て申し訳ないとは思うけれど、それでもパーティーに使う時間があるなら別のことに使いたいと思ってしまうのは、家系の問題なのだろう。
軽く相槌を打っているうちに、あっという間に着飾られていく。
「メーティア様も奥様もどのお色も似合いますね。今日は大人っぽさも出すために青にしましたが、今度はまた違うお色のドレスにしましょう!」
準備を終えると、バネッサは満足そうな顔で部屋を後にする。
少しだけ、彼女のために着飾るのもいいかもしれないと思った。本当に少しだけだけど……。
「お母様。そろそろ時間ですし行きましょう」
「そうね……」
二人でエントランスに向かうと、行きたくなさそうな顔をしたお父様とお兄様たちが待っている。
そしてその横には、私の婚約者様も一緒だった。
「お待たせいたしました」
お母様と二人で近づくと、婚約者様がこちらに気づいて声をかけてくる。
「やぁ。久しぶりだねメーティア。とても美しくなっていてびっくりしたよ」
「はぁ……アポロ様。お久しぶりでございますね」
アポロ・ダルデンヌ。ダルデンヌ公爵家の子息であり、一応私の婚約者だ。
見た目は整っているし、話さなければ王子様のような雰囲気なのだが……。
そう——あくまでも《話さなければ》である。
それにしても、宝石をスーツに付けているのか……やたらとキラキラして目が痛いのは私だけだろうか。
「アポロ様。そのスーツは……」
「これかい!?かっこいいだろう?やはりパーティーに行くなら目立たなくてはいけないからね!」
全くかっこよくないとツッコミたい……。
そして、パーティーだから目立たないといけないって一体なんなんだ。
お父様たちの方を見ると、関係ないと言わんばかりに視線を逸らしている。
ニケオスお兄様に至っては、笑いをこらえているのか口の端がぴくぴくしていた。
「と、とりあえずそろそろ時間ですし向かいましょう」
この場の空気を変えようと歩き出すと、皆も何も言わずに続いてくる。
もちろんアポロ様は、私の声が聞こえていないのか、未だに自分のスーツについて熱く語っていたが……誰も聞いていないことに気づくのはいつだろうか。
私たちが馬車に乗り込み終えるころ、慌てたように走ってきたアポロ様を見て、どれだけ自分のことが好きなんだと思ったのは言うまでもない。
***
馬車を走らせること20分ほどで、王城が見えてくる。
国王主催のパーティーは王宮で行われることが多い。
私たちは基本的に領地にいるため、王都に来るのは王族に呼ばれた時か、何か予定がある時くらいだ。
馬車を降りると、アポロ様が手を差し出してくる。
正直言うと取りたくはなかったけれど……仕方なくその手を取った。
「メーティア。行こうか」
「は、はい……行きましょうか」
王宮に入ると、周囲の視線が一斉にこちらに向く。
アポロ様は自分が人気者だと思っていそうだが、私はただ早くこの場から離れたくて仕方がない。
「あら、メーティアじゃない。久しぶりね」
「アーテリア様。お久しぶりでございます」
アーテリア・ジュアン侯爵令嬢。
できればアポロ様以上に関わりたくない人物だ。
挨拶だけしてその場を離れようとした、その時——
「待ちなさい!!!」
会場中に響く声で呼び止められたのだった。




