慰謝料ですか……!?
「ディアナお祖母様、お久しぶりです!」
お母様もあまり話を聞かれたくないだろうと思い、少し離れたところにいたお祖母様の元へ向かった。
「メルティ、久しぶりね。なかなか会えていなかったから会えて嬉しいわ!」
お祖母様は他のご婦人との話を切り上げて、こちらに向かって歩いてくる。
「申し訳ございません。ご歓談のお邪魔をしてしまいまして……」
ディアナ・ボードリエ。
母方の祖母であり、ボードリエ公爵夫人だ。
三大公爵家の中でも一番上の貴族位を持ち、アンベール王家に次ぐ家柄である。
因みに父方の祖母は参加していないが健在である。
数年前にお祖父様がお父様に爵位を譲り、夢だった世界を見てくると言って、お祖母様と一緒に世界旅行に行ったきりだ。
「ヘラを見かけないのだけれど、まだ世界旅行中なのかしら?」
お祖母様は親友同士らしく、世界旅行に行くまではよく家に集まって二人でお茶を飲んでいた。
「そうですね……たまに葉書が送られてくるので元気だとは思うのですが……」
葉書には何か文字が書いてあるわけではなく、行った国の絵葉書が送られてくるだけだ。
お祖母様が送っているというよりは、お祖父様がそのまま送っているのだろう。
「全く。オルフェウスは変わらないわね」
オルフェウスは父方のお祖父様だ。
最近知ったのだけれど、ディアナお祖母様とオルフェウスお祖父様は幼なじみ同士らしい。
昔から両家の仲がいいと思っていたけど、ここに秘密があったようだ。
「先程、モンブランを食べたの。以前のよりも甘みが抑えられていて、とても美味しかったわ。もう一つくらいペロリと食べられちゃいそうよ」
「ありがとうございます。暇な時によく料理長と味の研究をしていたのです。
お祖母様にそう言っていただけるということは、研究の成果が出ているということですね」
初めてモンブランを食べた人がほとんどの中、以前食べたことがあるお祖母様からの感想はとても貴重だ。
栗やドライフルーツなど、コルベール領では当たり前に食べられているが、他の領地では非常食くらいの認識で、そこまで広がっていないのが事実。
今日のお茶会で少しでも魅力を知ってもらえたら嬉しい。
お祖母様と他愛のない話をしながら、ちらちらとお母様の様子を見ていると、くすくすと笑い声が聞こえる。
「アフロディーナが心配?大丈夫よ。あの子なら……そんなにヤワじゃないわ。
そろそろ我慢の限界みたいだけれど……きっと面白いものが見られるわ。私たちも近くに行きましょう」
お祖母様に手招きされ、そちらへ向かうと、お母様たちの声が聞こえてくる。
***
「だから、アレウスのことが……好きだったのよ!!」
まさかのダルデンヌ公爵夫人の発言に、騒然としていた会場が一気に静まり返った。
皆が一斉にお母様の方を向く。
次の言葉を待つように、息を呑む気配すら伝わってきそうな静けさだった。
「そうだったんですか……」
お母様の言葉に、お祖母様も笑いを堪えるのが大変そうだ。
お母様が結婚する前のことを、小声で説明してくれる。
ヘシオネリア様がお父様のことを好きだったことは、周囲では有名な話だったらしい。
ただ、お父様はお母様に夢中で、見向きもしなかったそうだ。
「だから、何度もお父様やお兄様にお願いをしたの。アレウスにも自分の気持ちを伝えたわ。でも断られたのよ」
お父様やお兄様にお願いって……一体何をしたのだろう。
前国王やウラヌス国王陛下なら、自分の我がままを聞き入れてくれると思ったのだろうか。
――いや、それはない。
そもそもお父様がいなくなれば、この国にとって大きな損失だ。
国一番の軍師であり、最強とも呼ばれている男を、誰が好き好んで敵に回すというのか。
「はぁ……すみません」
お母様も面倒なのか、軽く謝るだけにとどめている。
早くこの場を終わらせたいのだろう。
ガイア王妃は、ヘシオネリア様を鋭い目で見ていた。
先日の話からしても、お母様を大切に思っているのは明らかだ。
いくらウラヌス国王陛下の妹とはいえ、許し難いのだろう。
そして――。
お母様が謝ったことをいいことに、ヘシオネリア様は何を勘違いしたのか、鼻高々に言い放った。
「いいわ!許してあげる。だから私に慰謝料を寄越しなさい!!」
「「「「え……?慰謝料?」」」」
話を聞いていた人たちが口を揃える。
私も同じ言葉を口にしていた。
そもそも、何に対する慰謝料なのか。
意味を理解しているのだろうか。
むしろこちらが、これまでの援助金を返してほしいくらいだ。
お母様もガイア王妃も呆れて言葉を返さない。
――その時だった。
「それか、アレウスを貰ってあげてもよくてよ」
「「「「は……?」」」」
慰謝料の次はお父様。
何故そうなるのか、全く理解が追いつかない。
お祖母様の方を見ると、お母様をじっと見つめながら――
「ここが限界ね……」
と、小さく呟いた。
――次の瞬間。
お母様の方から、バキッ、と大きな音が響いた。




