まさかの逆恨み。
ヘシオネリアが私の前に顔を出すのは何年ぶりだろうか。
五年は会っていなかったような気がする。
ウラヌス主催のパーティーや夜会には参加していたようだけれど、私たちに挨拶することなく帰っていく。
ダルデンヌ公爵も、パーティーや夜会の時は顔を出さない。
「ヘシオネリアがお茶会に来るなんて、何年ぶりかしらね」
三人掛けのテーブルに、私から見て右側にヘシオネリア、左側にアフロディーナが腰を下ろす。
アフロディーナはため息こそつかないものの、心底面倒だという顔をしている。
こちらを見ているメルティに、他の人たちに挨拶してくるよう目配せすると、メルティはすぐに理解してその場を去っていった。
「フン。この女狐の娘が兄さんの息子と婚約したと言うから、見に来てあげたのよ」
昔から思っていたけれど、元姫のはずなのに口が良くないのは治らないのだろうか。
「ありがとうございます。見たのですから、もう特に用事は無いのではありませんか?」
アフロディーナは事実だけを淡々と伝える。
見に来ただけと言っているのだから、目的は達成しているはずだ。
「ふ、ふん。ティオが王宮に用事があるというから、お茶会をしていることを思い出してアーテリアと来たのよ」
ティオとは恐らくプロメティオスのことだろう。
ダルデンヌ公爵がウラヌスに会っているとなると、あまり良い話ではない。
金を毟りに来たのかもしれない……。
最近落ち着いていたのは、コルベール家が援助という形で金を貸していたからだ。
婚約破棄した今、コルベール家からは得られない。
だからウラヌスのもとへ来た――分かりやすい。
「ヘシオネリア様は昔から変わりませんのね。もう少し顔を隠したほうがいいと思いますわ」
それまで黙っていたアフロディーナが口を開いた。
「なによ!私の顔が可愛くないって言いたいの!?」
全くそんなことは言っていないのに、相変わらず受け取り方が極端だ。
アフロディーナは「何を言っているの?」と言わんばかりの表情をしている。
「ただ思ったことを言ったまでのことです。怒ってばかりいると、早く老けてしまいますよ」
紅茶を飲みながらモンブランを口に運ぶアフロディーナと、その言葉に苛立つヘシオネリア。
その対比に、思わず小さく息をついた。
「せっかくですし、昔話をしましょう」
場を整えるように声をかけると、ヘシオネリアがすぐに食いついた。
「私はね、この女狐のせいでなかなか婚約者が出来なかったのよ!
私以外にも同じ思いをした人が沢山いるはずよ……!」
***
昔から目の前にいるヘシオネリアのことは知っていた。
けれど深く関わりがなかったからか、ここまで騒がしいとは思ってもいなかった。
それに――私のせいで婚約者ができなかった?
そんなはずはない。
だって私は、物心ついた時からアレウスという婚約者がいたのだから。
アレウスは確かに美男で紳士。
ウラヌス国王陛下と共にいることも多く、それはそれはよくモテていたけれど……。
「それはないわ。
だって私には物心ついた時から婚約者がいましたもの。
なぜ私が原因なのですか?」
「な、なによ!皆あなたを見ていたじゃない。だから私、断られまくったのよ!」
――いえ、それは違うと思いますが。
その話し方と態度が原因では……と思うが、口には出さない。
自分の行動には気づいていないようだ。
私がガイアの侍女をしていた頃、ヘシオネリア様はまだ十五歳だった。
ダンス、マナー、勉学――やるべきことは山ほどあったが、何一つ手をつけず遊び回っていた。
そのせいで、前王妃や前国王陛下も頭を悩ませていたほどだ。
ガイアの方を見ると、クスクスと笑っている。
恐らく同じことを考えているのだろう。
というより、周囲の人たちも同じだ。
皆に笑われていることに気づかないのも、ある意味才能かもしれない。
「そんな力なんて私にはありませんよ。
そもそも、なぜ私が原因だと思ったのですか?」
「確かにそれは気になるわね。この際だから話してしまいましょう」
ガイアが促すと、ヘシオネリアはぼそぼそと話し始めた。
「……よ……」
「すみません、聞こえなかったのでもう一度お願いします」
「だから……たのよ……」
先程まであれだけ声を張っていたのに、急に小さくなる。
「だから!アレウスのことが好きだったのよ!!」
――あぁ、なるほど。
「そうだったんですか……」
「だから何度もお父様やお兄様にお願いしたの。アレウスにも自分の気持ちを伝えたわ。でも断られたのよ」
「はぁ……すみません」
アレウスと私は想い合っていた。
見向きもされないのは当然だろう。
それに姫との結婚など、大金を積まれても断る人だ。
ウラヌス様とも親しくしていたし、彼にとっては妹のような存在だったはずだ。
特に悪いことをしたつもりはない。
けれど、この場を早く終わらせるために謝った。
久しぶりに参加したお茶会で、娘の力作のモンブランを食べて幸せだったのに……。
この人のおかげで、とんだお茶会になった。
「いいわ!許してあげる。だから私に慰謝料寄越しなさい!?」
「「「「え……?慰謝料?」」」」
周囲の人たちが、思わず声を揃えた。




