再来。
お義姉様と話し終わり、ガイア王妃のところへ戻ると、鐘の音が鳴り響いた。
談笑していた人たちも一斉に口を閉じ、ガイア王妃の方へと視線を向ける。
「本日は秋のお茶会にお集まり頂きありがとうございます。
今年は夏が長かったこともあり、紅葉の見頃というわけではございませんが――
その分、様々な秋の花を用意いたしました。どうぞ楽しんでいってください」
挨拶が終わると同時に、拍手が起こる。
やがてそれが自然と収まり、それぞれが再び会話を再開した。
挨拶回りを終え、お母様のところへ戻ると、お母様は既に席について紅茶を飲んでいた。
「アッサム紅茶とモンブラン……。これは貴女が準備したのね、メルティ」
その一言で――周囲の空気が変わる。
ざわめきが、すっと引いた。
まるで一言一句逃すまいとするかのように、視線が集まる。
「はい。お味はいかがですか?」
いつも通りの味のはずなのに。
この場の空気のせいか――お母様の次の言葉を、無意識に待ってしまう。
「美味しいわ。栗もコルベール領のものを使っているのね」
――ほっと、息を吐いた。
「えぇ、そうです。今まで色々な栗を使用して試行錯誤してきましたが、風味や渋味、そして甘みなど、一番合うのがコルベール領の栗なんです」
他の領地では野生の栗が多く、味にばらつきがある。
けれどコルベールでは、栗や胡桃などの木の実を自家栽培している家庭が多い。
そのため、味がしっかりしているのだ。
「そうね。私も嫁いでくるまでは、栗がこんなに美味しいものだとは知らなかったわ」
お母様が美味しそうに食べる顔を見て、思わず顔が綻ぶ。
――その瞬間だった。
周囲のご婦人たちが、ざわりと揺れる。
「あの……美の女神とも言われるアフロディーナ様が笑われたわ……」
「明日は雹が降るわよ……」
「アフロディーナ様の笑顔を見て願い事を三回言えば叶うらしいわよ……」
(いや、流れ星じゃないんですから……)
内心で否定しつつも、これだけ憧れられているのだと実感する。
ここまで来ると、妬みすら生まれないのだろう。
そして最後には――
「私もモンブラン、食べてみようかしら……」
という声が、あちこちから上がった。
本当は味で勝負したい。
けれど――まずは手に取ってもらわなければ始まらない。
そう考えれば、これもまた一つの結果だ。
「どうしたの……?」
不思議そうにこちらを見るお母様に、私は小さく笑った。
「お母様は本当にすごいなと思いまして……」
「そう?何もしていないけれど……このモンブラン美味しいから、もうひとつ食べようかしら……」
お母様はお皿を片手に、モンブランを取りに行く。
先程までの空気など、まるで意に介していない様子だった。
何もせずとも人を惹きつける。
――それは才能なのだろう。
***
お母様と少し話をした後、お祖母様も来ていると伺い、挨拶をしようとかかとを返した、その時――
――嫌な予感がした。
次の瞬間。
目の前に、道を塞ぐように二人の女性が立っていた。
「あら、メーティアじゃない。久しぶりね!」
相手は私のことを知っているようだが、私は二人の顔を見ても誰だか全く分からない。
丸みのある体型――鏡餅のような見た目の知り合いなどいただろうか。
思い出そうとしても、記憶に引っかからない。
「えっと……その……どちら様でしょうか……?」
「ちょっと失礼じゃない!あなたの友人のアーテリアよ!忘れちゃったの?」
――アーテリア。
その名前に、ようやく記憶が繋がる。
確かに髪の色も瞳の色も一致している。
(……友人になった覚えはないのだけれど)
内心で即座に否定する。
すると、隣にいたふくよかな婦人が口を開いた。
「本当に前から思っていたけれど失礼な子よね。誰に似たんだか……」
そう言って、お母様の方を見る。
――全く記憶にない。
どう返すべきか迷っていると、後ろから静かな声が差し込んだ。
「お久しぶりですね。ヘシオネリア」
振り返ると、ガイア王妃が立っていた。
「あら、伯爵家上がりのお義姉様じゃありませんか。どうしてこちらに?」
その言葉に、空気が凍る。
(……まさか)
「ダルデンヌ公爵の奥様ですか!?」
記憶の中の姿とは、あまりにも違う。
この数ヶ月で何があったのかと疑いたくなるほどだった。
「あなた、失礼じゃない!?それ以外に誰に見えると言うのよ!」
ファーのついた扇子をばさばさと振りながら、時代遅れにも見えるドレスを揺らす。
周囲の視線が、その違和感を物語っていた。
「も、申し訳ございません。お会いしたのは数年前でしたので……」
「本当にそこにいる女狐そっくりだわ。
アポロはあなたなんかと婚約破棄して正解だったのよ。
アーテリアのような素直な子が来てくれて本当に嬉しいわ」
お母様はその言葉にも一切反応せず、静かに紅茶を口にしている。
まるで――最初から存在していないかのように。
その場の空気を見渡しながら、ガイア王妃がゆっくりと口を開いた。
「もしよろしければ、こちらに座って昔話でもしませんか?
ヘシオネリア、アフロディーナ」




