課題の合否は……!?
「待っていましたよ。メルティ……」
「お待たせして申し訳ございません。ガイア王妃。
秋のお茶会でお出ししようと思っておりますお菓子と、それに合う紅茶を持参致しました」
バネッサがガラガラとティーワゴンに乗せて運んでくる。
モンブランは栗を使用していることもあり、見た目で楽しむ感じではないけれど、匂いや味は楽しむことが出来るはずだ。
一つ一つテーブルの上に乗せて、お茶を注ぐ。
「こちらはコルベール領で昔から食べられているお菓子のひとつ、モンブランと言います。
栗のクリームと生クリーム、さらに中央には渋皮を利用した栗のクリームが入っています。
こちらのお茶はアッサム紅茶と言いまして、モンブランと一緒に召し上がるとちょうどいい味わいになるんです」
モンブランとアッサム紅茶について説明すると、ガイア王妃は早速モンブランを口に運ぶ。
渋皮を利用することで甘みが少し抑えられ、甘すぎるケーキが苦手な人でも食べやすい仕上がりになっていると思う。
私が小さい頃から甘いものが苦手だったこともあり、料理長と一緒に改良に改良を重ねてきた自信作だ。
ケーキを一口食べると、王妃は紅茶を手に取った。
――どんな感想が出てくるのか。
自信作だからこそ、胸が落ち着かない。
「ふふ……そんなに見られていたら恥ずかしいわ」
どうやら力が入りすぎて、ガイア王妃のことを凝視してしまっていたようだ。
「も、申し訳ございません……」
「大丈夫よ。このモンブラン、とても美味しかったわ!
紅茶が少し甘めだけれど、モンブランがそこまで甘くないから、とてもよく合うのね。
さつまいも蒸しパンも、なかなかない発想で好きだわ」
このさつまいも蒸しパンも、ほとんど砂糖を使っていない。
さつまいもの自然な甘みと腹持ちの良さで、お兄様やお父様にも人気の一品だ。
本当はさつまいもタルトなども考えていたけれど、これ以上甘くなるのは重いと思い、今回は蒸しパンにした。
「この三つ、秋のお茶会で出しましょう。
数はある程度用意できるかしら」
準備できそうな数や材料などを書いた紙をお義母様に渡すと、パッと扇子が開かれる。
「メーティア。あなたの王太子妃教育ですが、秋のお茶会で終了とします。
本当はもっと時間がかかると思っていたのだけれど、もう教えることもないわ。
マナーも最初から出来ていたし……流石、アフロディーナの娘ね」
思っていた通り、今回のお茶会の準備は王妃からの課題だったらしい。
時間の無い中で焦らず行動できるかを見ていたのだろう。
「お褒めに預かり光栄です。
お義母様は、私の母のことをご存知なのですか?」
「勿論よ。アフロディーナは、あなたが産まれるまでの間、私の専属侍女をしてくれていたんだもの」
まさかの言葉に、私は思わず息を呑む。
あの本の虫とも言えるお母様が、王妃様の侍女だったなんて意外だ。
「ふふ。意外って顔ね?
もしまだ時間があるなら、少しお話しましょう。
メルティが持ってきてくれたモンブランも、さつまいも蒸しパンもあるしね」
「はい。是非おふたりのお話、聞かせてくださいませ」
バネッサが椅子を引いてくれたので、私はガイア王妃の前に腰をかける。
「アフロディーナは、私にとって憧れの女性だったのよ」
***
二十五年前。
突然、貴族女性全員参加のお茶会が開催されることになった。
理由は、ウラヌスの婚約者を探すため。
十八歳になっても婚約者を作らない息子に、前国王が痺れを切らしたのだろう。
貴族女性全員参加――それは、既に結婚している者や婚約者のいる者も含まれる。
同年代だけを集めれば露骨な婚約者探しになる。
それを嫌ったウラヌスが、「全員参加なら出る」と条件を出したのだ。
「そこで初めてアフロディーナに会ったの。
あの子はお茶会に目もくれず、端の方で堂々と本を読んでいたわ。
もちろん王族への挨拶は済ませた後だったけれど」
ちょうど薔薇が見頃の時期だった。
薔薇を背にして本を読むその姿は――思わず見惚れてしまうほど美しかった。
まるで薔薇の妖精のように。
「途中でウラヌスがお茶会に顔を出したのだけれど、私は全く興味がなくてね。
むしろ、ずっとアフロディーナを見ていたの」
自分に興味を示さない私が珍しかったのだろう。
ウラヌスに声をかけられ、そこからはあっという間だった。
婚約、そして結婚へ――。
伯爵家の娘が王太子と結婚する。
当然、周囲からのやっかみも多かった。
「……あの時は、気持ち的にも焦っていたと思うわ。
そんな時にウラヌスが連れて来てくれたのが、アフロディーナだったの」
ウラヌスの親友であるアレウスの婚約者だったアフロディーナは、必死の頼みに折れて、私の侍女を引き受けてくれた。
――子どもが生まれるまでの間、という条件付きで。
「そうだったんですね……。
あまり父も母も自分のことは語りたがらないので、初めて知りました」
「そうよね。あの二人はあまり話さないもの。
ニケはよく話すけれど、ヘルはどちらかと言うと静かよね」
友人ではなく侍女として傍にいることで、気兼ねなく話せるように――。
そう考えてくれていたと後から知った時、胸が熱くなったのを覚えている。
「子どもが出来たら侍女は終わり、と言っていたのだけれど……
メルティを妊娠するまで続けてくれていたの。
本当に嬉しかったわ。
アフロディーナのことは、姉のように思っているの」
アフロディーナと同じで、あまり顔には出ないけれど――。
身内の話が聞けて嬉しいのだろう。
ほんのわずかに口角を上げたメルティを見て、話してよかったと感じた。




