料理の本は、見おぼえがある
表紙に描かれた絵は、シオリの作ってくれたお吸い物とおにぎりだ。
おにぎりは、ご飯を炊いたものを三角形に固めたシオリの郷土食である。
周りには黒いのりなる海藻の平べったく干した物を付けるらしい。
その“のり”なる物が私には分からなかったのでとりあえず周りにつける物が必要なのかと思って私がシオリに聞いた所、
「ゴマ何かを付けても美味しいかも」
「あ、確かに。それならうちにあったはず」
買いに行かなくてもいいわねと思って私は水色の健康に良さそうなゴマをシオリに差し出した。
それを見てシオリは一瞬ふらりとしかけていたが、何かを諦めたように溜息をついていた。
またお吸い物は、貝でとったスープに海藻を入れたりしたものであっさりとして美味しかった。
そんな以前作ってくれたシオリの食事と同じ内容の絵が表紙の本。
シオリはそれを見て凍りついていたようだった。
だがすぐにその本に走り寄り、ぱらぱらめくっていく。
「読める、読める、読める!」
「いや、シオリは何処の世界の言語でもシオリの言語に見えるでしょう?」
「そうだったかも……うう、フィーネ。私の世界に似た世界ってあるのかな?」
「あるかもしれないけれど、私が知っている範囲ではないわね」
「……」
シオリが落胆したように、ページを開いたままうつむいた。
どうしたものかと私は思ってからそこで気付く。つまり、
「シオリが生まれた場所は、“ニホン”だったわね?」
「そうですが……」
「“ニホン”何て国私は今まで見た事がないから、その国の物であることとと食べ物が一致したら、シオリの国からがれて来たものかも」
「私の国の食べ物の名前で同じ物が表示されていたら……そうですね」
シオリは再び元気を取り戻しページをめくっていきそこで、
「“わかめと豆腐の味噌汁、和食、日本食の……材料、昆布と煮干しと……豆腐……”」
「? 何だか知らない材料ばかりね。どんなものなの?」
「! フィーネが知らない材料?」
「うん、もしかしてそれ……本当にシオリの世界の物じゃない?」
シオリが食い入るようにそのページを見始める。
けれどそれ以上の物を見つけられなかったらしく次々と、ページをめくりそして、
「2018/2/22発行……私がこの世界に来る前の最後の日付と同じ」
「え、そうなんだ。ちょっと待って、えっと……」
私はその本に関する紙を探し始める。
これも、“異界”との接触に生じた道の遺跡から手に入れたものだ。
そこで私はこれを見つけた資料を見つける。
前々から、一度扉が閉まるごとに妙な場所に繋がるという、この世界の遺跡の中では特に謎に包まれたそれがあるのだけれど、そこで手に入れた本の一つだったはずだ。
そしてここにあるものはシオリの世界の物と同じであるらしい。
「もしかしてランダムに現れる遺跡がシオリの世界の物なのかしら」
「! そこを経由すれば帰れる?」
「さあ。戻れるのはいいけれどその時間に帰れるかどうか……」
「そう、ですね。10年前なんかにきたら困りますよね」
「でも選択肢として考えておくのはいいかも。それに、この世界とシオリの世界が繋がったって、これで分かったし」
「そ、そういえば……」
今更ながら気付いたらしいシオリが目を輝かせる。
あの鬼畜な剣の妖精が言っているのは、断定的過ぎて信用できない。
やはり条異世界だという自負があるからなのか……と思いつつ、
「とりあえず、これでシオリを元の世界に戻す手がかりが一気に手に入ったわね。後はどうやってシオリの望む時間に戻すかどうかかしら」
「はい」
「何時ごろが良いのかも考えておいてね。それと、もう少しシオリが戻る為の何かを調べるのは後になるけれど良いかな?」
「それはもちろん、今はこっちの方が大事ですし。水色の本はそういえば見つかりましたか?」
聞かれたので積み上げた水色の背表紙の本を私はちらりと見て首を振る。
「残念だけれど一冊も見つかっていないのよね。でも全部チェックしないと、とても危険な物だから見落としなしたじゃ困るし……一応水色の表紙の本だけ見ていくから、シオリもチェックしてくれないかな」
「分かりました。でもそれよりも先に手わけして水色の本だけ集めてくるのはどうですか?」
「見落としがあると怖いのよね……何とかなるとは思うけれど、怪我をする人が出るかもしれないし」
いざとなれば私の力で、そしてカイもいるので何とかなると思っている。
でもそれは最終手段にも近く、何も起こらないなら起こらないままの方が良い。
平和平穏……退屈なそれが素晴らしい事を私は知っている。
そこでシオリが手を叩いて、
「後で二人で交換して調べるのはどうですか?」
「それはいいかも」
というわけで私達は、元気を取り戻したし織と水色の表紙の本を探していく。
意外に沢山ある事が分かったけれど、結局それらは全て私達が探している物ではなかったようだ。
「く、報奨金が手に入らないなんて」
「フィーネ、目的が変わっている気がする」
「いえ、変わっていないわ。結果としてお金がもらえるんだもの」
「……まあいいや」
「よし、次は一つ下の階の本を見に行くわよ。でもその前に少し休憩しましょうか。飲み物を持ってカイの様子でも見に行こう」
というわけで飲み物を手に、私達はカイの元に向かったのだった。
カイの周りで剣の妖精のミルが瞳を輝かせていた。
「流石です私のご主人様」
「これで満足か」
「もう一回!」
アンコールする妖精のミルにカイは少しうんざりしているようだった。
けれどすぐにじっとその宝石を見て、剣を振るう。
現れた風の魔法は轟音と共に渦を巻き……宝石に吸い込まれた。
何時も思うがやっぱりカイは“真面目”で“強い”と思う。
こういう所は時々、格好いいなと私は思う。
言わないけれど。
そこで私達が来たのに気づいたらしいカイが頬笑み、
「フィーネ、来たのか」
「うん、状況はどんな感じ?」
「ようやく使い方が少しわかってきた。というかこの剣の妖精が俺を唆そうとしてくるんだよな」
そこで剣の妖精のミルがふわふわ飛んできて、
「え~、これだけの力を使わないでおくなんてもったいないですよ」
「使わないで済む状況もいい事だと思う」
「うぐ~、私も好き放題したかったのに~」
「使ってやっただろう」
「あの宝石に当てるだけじゃないですか。うぎゅ~、もう少し派手にバンバンしたいですね」
「諦めろ。というかあの宝石、本当に凄いよな」
そこでカイが以前手に入れた宝石をみる。
魔力や魔法を吸収する代物だが、遠目から見えて壊れる様子はない。
なので幾らでも使えるわね、いい事だと私が思っていると、そこで県の妖精のミルが、
「ふう、でも久しぶりに体が動かせて満足で気持ちいですしよしとしましょう」
「それで満足してくれ」
そこで休憩に入るらしかったので私はカイにジュースを渡す。
りんごジュースの紙パックを渡す。
それを受け取ったカイがそれにストローを突き刺して、飲んで行く。
よほどのどが渇いていたのだろう、一気に飲み込んでしまった。
「ごちそうさまでした。それで本は見つかったのか?」
「うーん、ちょっと見つからなかったわね。残念だけれど」
「そうか……とりあえず俺も手伝うよ。それで見つからなければないでいいし」
「それに明日はまたこの剣を手に入れた遺跡を見に行こうと思って。だってそこには本が一冊あるらしいし」
「そうだな……でも調べた範囲で無かったから、もう少し詳しく調べないとな」
「よし、明日の予定はそれで決まりだね。シオリもいい?」
私の問いかけに、シオリも頷いた。
そして私達は、その遺跡という名の迷宮に再び向かう事になったのである。




