第37話 怖がり
「あのふたり変によそよそしかったっていうかさ……ていうか結局類斗は告白してないんちゃうかな? 高校入学して、親が離婚してそれでどっかに引っ越ししたみたいなんは聞いたけど……。当時ケータイ持ってたひとも少なかったしなあ。噂しかわからへんねん」
「そうなんや……」
「て、もしかして、咲良ちゃんの元旦那って類斗?!」
「実は……」
「そうなん?! びっくり〜すごい繋がってる! てかそれ原因で離婚? 色々と大変やったね」
「まあね……。あのふたりの世界って独特っていうか。巻き込みながら、完成させていってるっていうか」
「なんかわかる気するかも」
料理が完成したが、わたしたちは妙に興奮していて会話を続けていた。もちろん息子たちも「ちょ、やば」「ありえへん」なんて言いながらまだゲームに夢中だ。
「咲良ちゃんと類斗が出会ったのって、ここの街なん?」
「そうやねん。類ちゃんのお母さんのいなかがこっちみたいで」
と、話して類ちゃんのお母さん元気かなって急に思い出した。類ちゃんとこっちで生活している時に少しだけ会ったことがあった。とても綺麗な若い、センスのあるおしゃれなお母さんだった。
子供ができたので結婚するって話した時にも「へえ〜そう! 類斗が父親! すごいね、咲良ちゃんよろしく」と言う反応だったので拍子抜けした。反対されなかったからだ。類ちゃん曰く「自由に育ててもらって感謝してるけど、喧嘩だけはやめてほしかった」と。
わたしと息子は夕食を済ませ「いいよ、いいよ帰って」と言われたので片付けもせずに車に乗り込んだ。
「こっちの生活どう?」
「えーふつう」
「学校どうやった?」
「べつにー。恵吾くんと今日は会えへんの?」
「今日は遅いしな。どうしたん?」
「いや、キャッチボールする約束したから」
ふわりと揺らぐ感情。恵吾を息子のパパに迎えたら、きっと喜んでくれるだろう。だけど、愛していても他人と生活することの大変さをわたしは痛いほど知っている。
アパートに着いて、息子を風呂に入れ、寝たのを確認してから、恵吾に会った。綺麗な星空だ。O県では見られなかったけど、F県に長くいると忘れてしまうような存在ではあった。恵吾の車の中で、キスをして抱き合った。
「明斗がキャッチボールしたいって言ってたよ」
「覚えてんの? 子供ってすごいなー色々覚えてて」
「せやで。ちょっとだけ言ったこともちゃんと耳に残ってるみたいで、ゲーム買ってくれるって言ったよねって覚えてていっつも焦るよ」
わたしたちふたりの子供だから、息子の話題になるのは当たり前なのにこの当たり前こそが嬉しかった。恵吾はきちんと隣に生きているという感じがする。類ちゃんは……ずっと違う世界に住んでいるみたいだったから。
「なあ、咲良ちゃん」
「なに?」
「結婚せえへん? 3人で暮らそうや」
きたか〜! って思ってニヤってしたけど、答えが出ない。できないって答えたら恵吾を傷つけることになりそうだし、だからって受け入れたら自分の生き方や決意を否定することになる。
「ごめん、まだ気持ちに整理ついてなくって。また今度返事させて?」
手をぎゅって繋いだまま、わたしは伝えた。本当の気持ちを。
「そうやんな」
恵吾の強がった言葉だろう。もしかして恵吾も怖くて、プロポーズしてくれたのかもしれない。失うかもしれない、自分のものではなくなるかもしれないって思うことほど怖いことはない。ひとり取り残されていく現実に耐えられなくなったときに、周りに流されて、みんな無理やり決断するのかもしれない。焦って焦って……。
だけど、もうわたしは怖がりたくない。




