第32話 タレコミ
わたしはひとり仕事を休み、息子を保育園に送って行った。仕事だと嘘をついて。洗濯物を干してから、パソコンで検索する。タレコミサイトを。
そして、昔みたいに音声をアップロードする。そして他の証言を文章入力する。何度も読み返す。ラーのギターの嫁がW不倫しているという内容を。
嘘の幸せな家庭はもういらない。自由になってしまいたい。この街も夫も嫌いだ。
確認ボタンをマウスでクリックする。内容確認の画面が出てきて、もう一度内容をわたしは確認してから送信ボタンを押す。すぐにタレコミ完了のメールが届く。これで終わった、わたしの長い戦いは。
でもいつこれが明るみに出て、ラーがどうなるのかはわからない。胸がドキドキする。こんなに興奮したのはいつぶりだろう。人気絶頂のラーのギターの嫁の不倫。
だけど、いつまで経ってもそんなニュースは流れないし、サイトにも掲載されない。けど、投稿完了メールは届いている。もしかしたら今頃、事実確認に忙しくなっているところかもしれない。
女の家の住所も記載した。間違えなく突撃に来るだろう。そして、わたしは夫に言う。「終わりにしましょう」と。振るのはわたしだ。
ワイドショーやニュースサイトを暇あれば確認した。だけど、ない。ラーの一文字も。だけど、突然の活動休止。え、まさか。
TOMAの体調不良が原因だとニュースでは報じる。内容は不明。
もしかして、なかったことにされてる……? 金で解決したとか? ありえない。だけど残された道はもうこれしかない。
わたしは、晩御飯を用意し、こどもとアニメをテレビで見ながら夫の帰りを待った。
「ただいま」
わたしは無視して台所に立つ。
「おかえりーパパ」
息子が嬉しそうに夫を見る。
「咲良、ただいま」
無視する。
「なに? 体調でも悪いの?」
「終わりにしたい」
「なにを? どうした?」
「あなたとの結婚」
「急にどうした?」
息子は興味なさそうにテレビを見続けている。
「離婚してほしい」
「え」
「気づいてないと思ってたん? 嘘やろ? 女とのこと。ゆりさんとのこと」
「わかった……やけど咲良、咲良もやろ? 俺に嘘ついてんの」
「嘘なんか……」
「ちょっとこっちきて」
わたしと夫は寝室に移動する。
「明斗は俺の子供じゃないやろ?」
「……」
「なんで嘘ついたんや? やった男と結婚すればよかったやろ? 先に浮気したんは咲良やん」
「そんな証拠ないやろ?」
わたしはDNA鑑定結果報告書と書かれた紙を受け取る。
「俺は父親として排除されてる」
「なんで……?」
「咲良が続けなくていいなら、離婚する。だけど、ふたりに困って欲しくない。だから養育費は払う」
「わたしは類ちゃんとただただ、あの街で幸せになりたかった」
「戻るん?」
「そうやな……わからんけど……明が小学校に上がる前に」
夫が寝室を出て行こうとする。
「なんでゆりさんなん」
ドアを開ける手を止める夫。
「わたしは……類ちゃんを夢中にさせるゆりさんに生まれたかった」
ドアを開けて行ってしまう。そして息子と楽しそうに笑う声が聞こえる。悔しい。堕としたかったのに、あいつらを。負けたんか、結局わたしが。




