第31話 夜
わたしは、ライブがあった夜にひとりアパートから出た。もしかしたら、AOIが女の実家にいるかもしれないと思ったからだ。夜まで家族と過ごすと言っていた。直接、交渉してしまうのはどうだろうか。
だってお互い被害者なわけなんやから。有名人なんかと結婚するからあかんねん。平凡な夫でええやん。
わたしは女の家が見えるところで、スマホ片手に立つ。電気がついている。だけど、出てくる保証はない。もしかしたらAOIはもう東京に戻っているかもしれないし、他の場所にいるかもしれない。だけど、出てくるだろうって変に自信があった。自信というか確信だ。あいつらはきっとそうだ。
女の家の外の電気がつく。そして女と女の両親、AOIが出てくる。構わず抱き合うふたり。そして手を振って行ってしまう。こどもたちはもう眠っているのだろう。女はここに泊まるのかもしれない。
わたしはAOIが角を曲がり、女たちが家の中に引き返したのを見て歩を進める。そして、AOIを追いかける。
「すみません」
わたしは呼び止める。少しだけの飲み会で顔を覚えているかはわからないが。AOIが振り返る。わたしはドキっとしたが平静を装う。
「もう何年も、あなたの奥さんとわたしの夫は不倫しています。週刊誌に情報を出そうと思っています。でもそれがいやなら……」
「だれっすか、あなたは」
こういった対応に慣れているのかもしれない。語気は強いが、そこに冷静さを感じる。
「あなたの奥さんの幼馴染、類斗の妻です」
「類斗……? ああ、あのひと。妻が仲良くしてもらっているのは知っています」
「あなたが知っている以上の関係です」
「そうですか……じゃあ、新幹線の時間があるので行きますね」
わたしを振り払うように前を向き進む。わたしは音声データを再生する。ここからだ、わたしの本当の人生は。
「ゆり、会いたかった」
「嬉しい」
「大学どうやった?」
「やっと今日で全部終わったよ。あんなに大変やったのに、なんか寂しいねんなあ」
「ほんまあ」
キスする音が聞こえる。
「はあ〜やっと会えた」
「昨日も会ったやん」
「ずっとおりたいもん」
「わたしも」
いやらしくキスする音。
「大丈夫なん? こんなに会ってて」
「うん、関係ない。とめられへん」
「ん……あ、類斗……恥ずかしいよ」
「わあ、綺麗。もっと俺だけ見て?」
「うん……」
「あかん、とまらん……」
「類斗、あかんって駐車場やで」
「どこでも、ゆりとはやりたい」
「もーなに言ってんのよ」
「愛してる」
「わたしも」
「ジェットコースターの最後のくだりで好きなやつ叫んだら叶うって、文香が言っててさ、俺叫んでん。だから叶ったんやな」
「ほんまやな」
歩きながらも聞いている様子だった。耳のいいAOIならわかるだろう。
「これでわかりましたか……?」
AOIは歩くことをやめない。
「じゃあリークします。傷つくのは、あなたの妻だと思います」
「大学生の頃でしょ? まあ、単なる浮気ですよ。あなたも忘れてください。そんなことして1番傷つくのはあなたですよ? 相手が特定されたら、あなたの旦那さんも社会でやっていけなくなる。まあしばらく世間が騒ぐ間はですけど」
「今も、あのふたりは繋がっています。だから幸せそうなんです。わたしたちは仲間です。だから、破壊しませんか」
「破壊? まあ、不倫なんかいつか終わりますよ。俺はどうでもいい。ひとりで騒いでてください」
歩くスピードを早めるので、わたしはAOIの腕をつかむ。
「わたしと……ホテルでやってくれたら……これは削除します」
「そんな意味わからないことできません。それにそんなことしたら、あなたも加害者になる。やめましょう、今です引き返せるのは。忘れて、あなたなりの幸せな家庭を築いてください」
「いいんですか、このまま野放しで。ふたりの思う壺ですよ?」
「俺はかまいません。俺の幸せは俺が決めますので。あなたに決められる資格なんてない」
「じゃあリークしますからね!!!」
AOIが遠くなる。なんやねんあの鈍い反応。AOIも不倫してるとか?




