第30話 サイト
探す、ふたりの姿を。溢れ出すひと、ひと。上手く進めない。並んで座らせるんじゃなかった。だけど、嬉しそうな夫を見ているとそんなことできるわけない。
選ばれずに残った商品はわたし。
ホールの外に出る。だけど、そこにいたのは夫だけだった。
「ここにおったんや」
ぼんやりとしている夫。わたしの声に気づいてゆっくりとこっちを見る。
「あーごめんごめん」
「ゆりさんは?」
「子供のことあるしって、帰ってったで」
「そうなんや。さっき、ゆりさんと並んで座ってたときさ、寂しかった」
「咲良も前来たらよかったやん」
本音? それ。ふたりになりたかったくせいに。
「邪魔やろ? わたしなんか。先に出て何喋ってたん? また……」
密会する計画? って言いたいのに、さすがに言えない。わたしの前で完璧な夫に。幸せそうな夫に。
「また? 奏也と文香おらんかったなーって。来るって言ってたんやけど……」
「そうなんや」
破滅させたい。なによあのMCも。そんなん聞いた後に、夫とふたりで会えるなんて頭狂ってるわ。
「ゆりさん、ほんまに綺麗やし気さくやしええひとやね」
「そうか、あんまりわからへんけど」
虚しすぎる会話。褒めたんやから喜べよ。
わたしたちは両親の家で食事をしたあと、歩いて家に帰った。恵吾にそっくりな息子も連れて。夏の夜の街は、ぬるくて嫌になる。べたつく肌。早くお風呂に入りたい。何考えてるんやろ、夫は。話し合ったらいい、みたいなこと女は言ってたけどそんなんできたら苦労せえへん。
周りは今結婚ラッシュで、妊娠している子も多かった。祥子も結婚。海外で式を挙げたみたいだ。ラインで写真が送られてきた。香織と一緒にお祝いすることになっている。香織は独身だが、仕事に趣味にすごく楽しんでいる。イラストレーターの仕事が順調で、もしかしたら東京に住むかもしれないらしい。
変わり映えのない事務仕事と、日々の家事に育児。そして、夫。わたしの人生を苦しませた夫。女よりも夫のことを憎く感じるときも最近はある。夫が怪我をせずにいたらきっとこんな生活ではなかっただろう。
サッカー選手になって夫はあの女にプロポーズしたのだろうか。そしてふたりで何人も子供を育てて幸せな生活を満喫するのだろうか。
離婚しようかな、そんで息子とふたりでの生活でやり直そうかな。仮面を被り続けるのは疲れる。出会った時に被ってしまった仮面を。
テレビやネットでは、ラーの地元凱旋ライブが報じられている。
もし不倫がバレたら、夫はクビになるのか? 女は離婚されるのか?
わたしは再度、タレコミサイトをパソコンで検索して開く。なにもかも終わりにしたい。夫とのこの意味のない結婚も。でもそれなら金を奪いたいし、一生苦しめたい。わたしが苦しんでいる以上に。




