第29話 地元でのライブ
ラーのライブは、地元では1番大きなホールで行われた。わたしたちは息子を両親に預けて、束の間のふたり時間を得た。横を歩く夫。夫なのに、わたしはその存在が女との不倫よりも遠い気がして狂いそうになる。
席は2階の端っこだった。少し前には女もいて、わたしたちに気づいて手を振ってくれる。この間会った時よりも可愛くなった気がする。髪型変えたのか?
夫が近寄り、隣に座る。わたしを置いて。なにを喋っているのか会場ががやがやしていて聞こえない。
そして開演をつげる音楽。ラーのメンバーが順番にステージに上がる。
「きゃー!!!」「トーーーマーー!!」「アオイ!!!」
黄色い歓声、どよめきが沸き起こる。一気にステージが明るくなり、演奏が始まる。
「こんばんわ、ラーです。やっと地元でライブできるっていうので楽しみにしていました。今日はたくさん曲演奏するので、みなさん楽しんでもらえたら嬉しいです」
TOMAがニコッと笑う。
「ぎゃー!!」
叫び声が聞こえる。そしてまた演奏が始まる。AOIが2階席に手を振ってくれる。夫と女が手を振る。
それから、十曲ほど演奏した後、またMCが入る。
「ラーを結成したのが俺らが高校生の頃で、ただただ楽しいからやってたバンドが、どえらいことになって1番驚いてるのは、俺らです。ほんまに親や家族、俺らに関わってくれたひとたちに感謝しかないです。で、最後の曲なんですけど、これはギターのAOIが当時付き合いたくて夢中になってた女性に書いた曲です。たぶん叶うって思ってなくて、バンドの成功も女性との未来も」
ここで会場から笑いが起きる。
「だけど、諦めなかったから、世界中のひとにも知ってもらえたし、女性とも結婚できたし。だからなにを言いたいかって言うと、諦めんといて欲しいなってことです。諦めたら叶いません、たとえ厳しい道やとしても。長くなりましたが、今日はありがとうございました。じゃあ最後は、AOIから紹介してもらいます」
「え、俺? あーなんか恥ずいMCありがとうございます。曲作ってる時が1番楽しいです、って思ってたんですけど、高校の運動会でその憧れの女性に出会えて、そっから人生変わりました。俺は一生、この人に捧げる曲を作ろうって。それがみんなに届いたら、なおいいなって。聞いてください、YURIです。今日はありがとうございました。今日は夜まで地元にいるつもりなので、家族と少し過ごそうと思っています」
〝真っ白なYURI 届かないYURI ぼくの前で笑うYURI
ありえないだろう わからないだろう こんなにもぼくが幸せだってさ〟
〝ぼくが作った下手くそなクッキー食べてさ 笑うYURI 学校からの帰り道
校舎 触れたいのに 触れられないYURI〟
啜り泣く音も聞こえる。やっぱりなにもかも叶わない。ってステージに夢中になってたら、前にいたはずのふたりおらんし。どこ行った?
わたしはライブが終わるのを待って、他のひとよりも少しだけ早くロビーに出た。だけどふたりの姿はなくて焦る。




