第26話 拒絶
お土産の大福の紙袋のベビーカーのフックに引っ掛ける。ぐずったのでベビーカーに乗せるとすぐに息子は眠った。わたしは「寝かせに戻るね」と言った。きっと夫もついてきてくれるだろうと思ったからだ。
だけど、夫は「新幹線まで見送ってからすぐに戻るわ」と言い平然と駅に向かって行く。「ちょ……待ってよ」が人混みに消されていく。すぐに見えなくなる夫たち。
だけど安易に想像がつく。女と夫の肌が触れ合っているところが。愛おしそうに見つめ合う様子が。わたしはベビーカーを荒々しく押す。ひとが多くていやになる。そしてホテルのエレベーターに乗り込む。部屋に戻って、息子をベビーカーに乗せたままわたしはベッドで横になる。夫が戻ってきてから風呂に入ろう。入れよう。それまでベッドでゆっくりしよう。疲れた。
今頃、明日の作戦会議でもしているのだろう。浅はかだった、わたしは。甘くみていたふたりの関係を。
AOIの顔を思い出す。レベルが違う。なにもかも。だけど、それを破綻させるのは簡単だ。でもじわじわゆっくりといかないと。
夫は、23時手前に部屋に戻って来た。ベビーカーに乗せたままだった息子を抱っこして手際よく着替えさせる。
「風呂は明日でいいよね?」
「うん、疲れてるやろうし」
「俺は入ってきていい? 先入る?」
「ううん、後でいいよ」
夫は風呂場に向かう。すぐに湯船に湯を張る音と、シャワーの音が聞こえてくる。わたしはいつの間にか洗面所に立っていた。そして、裸になる。自分の裸を見て嫌になる。妊娠でできた腹のたるみや線。しょぼんとなった胸。
そして、風呂場に入る。
「咲良? 一緒に入るん?」
「うん」
それからわたしは夫に抱きつく。シャワーを浴びる夫の後ろから。そして、性器に手を伸ばす。
「どうした?」
夫がシャワーをとめて振り返る。
「えっちしたい……」
だって、あの1回だけやん。付き合ってた時の。
「ごめん」
またシャワーをつけて、泡を流す。
「俺の収入じゃさ、やっぱひとりが限界やで」
わたしは悔しくて、泣きそうになる。なんで挿れてくれへんの? 女とはやるのに。なにが違うん? 穴の形? 感度? なあ教えて?
それやのに、そんなわたしの言葉が泡と一緒に排水口に流れていく。夫にまた抱きつく。振り払うように夫は風呂場から出て行く。
女はAOIとも、あんあん言いながら高級マンションでやるんだろう。そして地元では夫と。
わたしはひとり残された風呂場で、少し溜まった湯船に浸かる。顔を擦るとマスカラが滲む。




